マタタビ育成の裏技
俺はステラとともに王宮を出て、村外れに向かった。
ステラはどうやってマタタビ酒を造るのかと聞いてきたが、何も答えなかった。いや、答えられなかった。
まわりには他のケット・シーもいたからだ。誰かに聞かれるのは少し不味い。
俺は村外れに行き、
「まずはあの伝説のマタタビの樹のマタタビの種が欲しいんだが、手に入れることは可能か?」
「王宮に行けばあると思うニャ」
しまった、先にそれを聞いておくべきだった、二度手間だ。
そう思ったら、キャロが手を上げた。
「イチノ様、あのマタタビの樹の種なら持ってきています」
そう言って、キャロは俺に、ラムネに入っているビー玉くらいの大きさの、茶色い種を渡した。
「これがそうなのか?」
俺のイメージしていたマタタビの種というのは、五円玉の穴の中に入ってしまうくらいの小さな種だ。
こんなに大きいのは少し想定外だった。
「はい、鑑定したので間違いありません」
あぁ、そういえばキャロは植物鑑定のスキルを持っているんだったな。
「キャロ、なんでマタタビの種を持ってきたのですか?」
ハルが不思議そうに尋ねるが、キャロはただ「イチノ様のためです」とだけ答えた。キャロは気付いていたんだろうな。俺がこれからしようとしていることに。
「ステラ、これをどこにでもいいから体に貼ってくれ。あと、今から見るものは他言無用で頼む」
「わ……わかったニャ」
ステラは俺の言葉に戸惑いながらも、俺から受け取った星型のシールを自分の肉球に貼った。
すると、シールはステラの手の平に完全に同化する。
それを確認すると、俺は魔法を唱えた。
「マイワールド!」
次元のほころびが現れた。
「じゃあ、行こうか」
俺は、かなり緊張しているステラの手を引き、自分の世界へと入った。
「ニャっ! ここはどこにゃのニャ?」
突然別の場所にいたことで、ステラは驚いただろう。
突然のことに、四つん這いになってしまい、尻尾を立てて回りを警戒しだした。
「まぁ、亜空間みたいな場所だと思ってくれ……にしても」
ログハウスの他にもいくつかの建物が、そして馬小屋まで完成していた。
馬小屋の中ではフユンが退屈そうにしている。せっかく草原があるんだから放し飼いでもいいと思うのだが。
「ス・テ・ラ・すわあぁぁぁん! 私に会いに来てくれたんですね!」
キャラ崩壊をしたマリナが猛ダッシュで接近、ステラを抱きかかえて頬ずりをしていた。
「お待ちしておりました、マスターイチノジョウ。食事にしますか? お風呂にしますか? それともMPを補給してくれますか?」
どこでそんな台詞を覚えて来たんだ。
「……独特な出迎えの挨拶をありがとう、ピオニア。MPを補給するのはいいが、すぐに使ってしまうことになりそうだ。この世界でマタタビを育てようと思ってな」
「マタタビですか……なるほど、マスターイチノジョウのハーレムに五人目のメンバーが加わったわけですね」
「ステラはそんなんじゃねぇし、そもそもハーレムを作ったつもりもない」
まぁ、キャロとも将来はそういう仲になると約束してしまったわけだが、ハーレムとまではいかないとは自分では思っている。
それに、断じてステラは俺の好みの異性のタイプじゃない。そこまでストライクゾーンが広ければ、敬遠球ですらバットを出さないといけなくなる。まぁ、愛玩的には可愛いのは認めるが。
マリナに頬ずりされ続けている黒猫の姿のステラを見つつ、
「この種なんだが、どうだ? 大きくできそうか?」
マタタビの種をピオニアに見せた。彼女は種をじっと見つめ、
「まずはMPを私に補給してください。区分限定で育成を促してみます」
「わかった」
俺はピオニアに背中を向けさせ、服の下から手を入れて背中に当てた。
俺が彼女にMPを補給している間、ハルはフユンの手入れ、キャロは倉庫に行き採れた作物などの確認、そしてマリナとステラはいつの間にかいなくなっていた。無事だといいのだが……キスまでならなんとか許されると思うが、それ以上は行かないでほしいと切に願う。
……ピオニアの背中って、本当に人間みたいに温かくて、少し柔らかいんだよな。
「マスターイチノジョウ、興奮すると魔力の波が激しくなりますから、心を落ち着かせてください」
「こ……興奮してねぇよ」
「そうですか」
咄嗟にウソをついてしまったが、特にピオニアは興味が無さそうにしている。
こういうところも本当に人間臭いんだよな。
「ちなみにだが、さっきステラのことを俺のハーレムメンバーの五人目だと言っていたが、四人目はお前なのか?」
三人は、まぁハルとキャロとマリナで確定だろう。
もしかしたら、マリナとマリーナを分けてカウントしているのかもと思ったが、
「四人目はフユン様です」
「フユンは馬だとか言う前に、そもそもオスだ! というか、フユンにも敬称をつけるのかよ」
「肯定します。私は仮初の命、生物ですらありません。そのため、命ある生物は私よりも上位個体です」
その喋り方はどことなく寂しそうに思えた。
「……仮初の命……ね。とてもそうには見えないぞ。さっきから俺をからかって楽しんでいる感じがあるしな」
「否定します。マスターのことを一番に思っている私がマスターをからかって楽しむなどありません。ただマスターをからかって、和ませようとしているだけにすぎません」
「お前な……はぁ……それで、MPはまだ必要か? そろそろ苦しくなってきたんだが」
「肯定します。マタタビを育てる分のMPはすでにいただきましたが、まだまだあれば助かります」
俺はピオニアの服からそっと手を出した。
そして、種を渡す。
「じゃあ、頼む」
「かしこまりました。種を植えるのはこの場所でよろしいですか?」
「あぁ、ここでいいよ」
「では……」
ピオニアはマタタビの種を植え、本を片手に持った。
本がほのかに光輝く。
そして――植えたばかりの種から双葉の芽が出てきた。
と思ったら、その芽はだんだんと伸びていき、あっという間に細木になった。周りの草が枯れていく。
栄養が足りなくなったのだ。
そして、気が付けば木は高さ五メートル程度に達し――
「あれがマタタビの実……なのか? 本当に?」
黄金色に輝く洋ナシのような形の木の実がたわわに実っていた。
とにかく、マタタビの実はできた。
なら、後はこれを酒にしたらいいだけだが……あれ?
そういえば、マタタビから酒を作るのに、どのくらいの時間が必要なんだ?
成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです
がネット小説大賞で見事金賞を受賞しました。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
あと、2話か3話ほど書いたら、ジョフエリ、ミリ&ノルン の現在の話に移ります。