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王の樹

「すごいニャっ! ブロンズドラゴンを追い払うにゃんて!」


 ステラがとても嬉しそうにしているが、ハルは無表情でこちらを見ていた。

 キャロも、マリーナもじっとこちらを見ていて、まるで何か怒っているようだ。


「あの、ハル、キャロ、マリーナ……どうした?」


 恐る恐る三人に尋ねると、ハルが一歩前に出た。

 

「ご主人様、無茶なことをしないでください。もしもブロンズドラゴンが上空で絶命していたらどうしていたのですか?」


 い、いや、その時は――とりあえずはマイワールドの扉を下に開いて自分の世界に落下、扉を出て扉を閉じて、また扉を開いて落下を繰り返してゆっくり降りようかと思っていたんだけど、そんな言い訳なんてできない雰囲気だ。

 だって、キャロの目には涙が浮かんでいるんだし。


「ごめんなさい」


 俺は素直に謝った。


「我を差し置いてドラゴンライダーとなるなど、なんと羨ましい。次は我も一緒に乗せるのだぞ」


 マリーナが言う。ひとり怒っている部分が違う。


「あ、あの、マリーナさん、キャロ達が言いたいのはそういうことではなくてですね」

「でも、よいとは思わぬか? 空のデートというのは」


 マリーナがその笑みを、キャロとハルにではなく俺に向けた。

 ハルの尻尾がピンっと立ち、キャロは頬を赤く染めて下を向いた。


 マリーナの奴、俺達を茶化して遊んでるな。

 と思ったら、マリーナが俺の耳元で囁くように言った。


「マリナもあれで高いところが好きだからな、何番目でもいいから連れて行ってやってくれ」


 ……俺の肩を叩き、マリーナは洞窟に向かった。

 マリーナにしてやられた気持ちになる。


 魔物使いになって、テイム系のスキルを覚えてドラゴンを仲間にしたら、本当に空のデートをさせられそうだ。

 光栄なんだけどさ、順番を決めるのが大変そうだ。

 普通に考えたら、俺とともに行動することになった順番で、ハル、キャロ、マリナの順番なんだろうが、最初にふたりで乗るなら、軽いキャロと一緒に乗って様子を見たい気持ちもある。

 それと、マリナとマリーナはやはり分けて考えるべきだろうか?

 それだと、マリナだけ二回空に飛んだことになって不公平になるかもしれないな。

 いっそのこと、マリーナにはひとりで飛んでもらうか。


 そんなことを考えながら、俺も洞窟に向かった。ステラとハル達も後に続く。

 途中でマリーナは俺の後ろに回ったため、俺が先頭となって洞窟を進んだ。


「それにしても、洞窟の中に木があるって変な感じだな。こんなところで木が育つのか?」

「この奥の広場には光が差し込んでくるニャ」

「天井に穴が空いてるってことか? それなら天井から入ったらよかったんじゃないのか?」

「ちょっと違うにゃ。あにゃは空いてにゃいニャ」


 よくわからない。穴がないのに光が差し込んでくる?

 どういうことだ?


 暫く歩いていくと、ステラの言う通り、開けた場所が見えて、そこから明るい光が漏れていた。

 本当に光が差し込んでいるようだ。


 そして――広場にたどり着いたとき、俺はその光景を、このパーティの中で一番に見ることができたことに感謝し、それ以上に、パーティ全員でこの光景を見ることができたことに、もう一度感謝した。

 感動ものだ。


「これが、この場所がケット・シー族の聖地と呼ばれる所以だニャ」


 ステラが自慢げに言うが、自慢したくなる気持ちもわかる。

 地元に東京スカイツリータワーがあるんだよ、とか言う奴がいても、それより自慢できる。


 その広場の上空には、無数の水晶が太陽の光で煌いていた。

 その姿は、天然の巨大シャンデリアといったらいいか。

 乱反射する光は地面に光の斑模様を作り出し――そして、その光が一番濃く集まる場所に、一本の古木があった。

 あれが目的のマタタビの木なのか。


「ただのマタタビの木だというのに、こんな場所にあると特別な木に思えるな」

「ただのマタタビの木じゃにゃいニャ! あのマタタビの木は世界を巡った初代ケット・シーの王が植えたマタタビの種から育ったマタタビのさらにその種を、今のケット・シーの王が植えた王の樹と呼ばれるマタタビニャ」

「へぇ、よくわからないが――キャロ、わかるか?」


 キャロは植物鑑定を持っているからな。

 普通のマタタビの木との違いくらいわかるだろう。そう思った。

 だが、キャロの返事はない。

 振り返ると、キャロは難しい顔をしてマタタビの古木を見つめていた。


「キャロ?」


 俺が再度声をかけると、キャロははっとした顔になり、


「すみません、イチノ様、少し考え事をしていて」

「いや、別にいいんだが。王の樹からできるマタタビか……採取したら経験値も多いのかな」


 職業を採取人にしようかな。

 そう思った時、


「ところで、ご主人様。マタタビの匂いが全くしないのですが」


 ハルが鼻をピクピクさせて言う。


「え? そういえば……匂いがにゃいニャ」


 ステラは急に倒れ――いや、四本足になって鼻をくんくんさせた。

 そして、本当に慌てたのだろう、四本足で駆け出し、マタタビの木に近付いて登っていった。


「にゃいニャ! にゃいニャ! どこにもにゃいニャ!」

「どういうことだ? 実ができるまでもう少し時間がかかるのか?」


 まぁ、相手は自然の植物だ。

 収穫時期が数週間ずれるのはよくあることだ。

 そう思ったが――


「イチノ様。あのマタタビの木は……もう」


 キャロは少し悲しそうな顔で言った。


「もう、死にかけています。いつ倒れるかもわかりません。マタタビの実は……もうできることはないでしょう……そう、私の植物鑑定で出ています」


 キャロがそう告げると、ステラは顔を真っ青にし、


「王……王が大変ニャっ!」


 そう言って洞窟から走り去っていった。

 突然のことで俺は一瞬呆気にとられたが、


「追いかけるぞ!」


 俺達もステラを追いかけて洞窟を出ていった。


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