斬れる……んですね
ネズミのゴーストを倒した結果、土魔術師、火魔術師といった低レベルの職業が大幅にレベルアップした。
火魔術師、土魔術師のレベルは12に上がり、さらに無職のレベルが89に、錬金術師のレベルが33に、魔術師のレベルが67に上がった。
【イチノジョウのレベルがあがった】
【火魔術師スキル:火魔法Ⅱが火魔法Ⅲにスキルアップした】
【火魔術師スキル:火耐性(微)を取得した】
【土魔術師スキル:土魔法Ⅱが土魔法Ⅲにスキルアップした】
【土魔術師スキル:土耐性(微)を取得した】
【錬金術スキル:瞬間錬金を取得した】
【魔術師スキル:MP強化(小)がMP強化(中)にスキルアップした】
【レシピを取得した】
MPの上昇は普通に嬉しいな。今後世界創造も楽になる。
ちなみに、MP強化(小)での上昇幅は20パーセント。それがMP強化(中)になると30パーセントになる。
ステータスの上昇値もでかいな。さすがは上級職といったところか。レベルは上がりにくいが、それだけのことはある。
ちなみに、倒したゴーストは、“霊玉”という綺麗な石を落とした。この石は宝石とまではいかないが、装飾品の材料になるらしく、ギルドの依頼品でもあり、1個あたり100センスで取引される。100個は拾ったから1万センス、100万円か。
結構な稼ぎだな。
さて――最後の一匹、隅にいて戦闘に参加せずに逃げ出していたネズミの頭を、杖で殴った。すると、
『ピコンッ』
と音が鳴った。これぞ、俺が覚えて活用できる時をいまかいまかと待っていた新スキルだ。
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ピコピコハンマー:戦闘術スキル【槌使いレベル40】
このスキルを使って攻撃すると可愛い音になる。
攻撃力が激減するが、相手を高確率で気絶させる。
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もちろん、普通に攻撃をしたらいくら杖でも叩くことはできないだろうが、叩く前に、付加魔法――魔法剣士のスキル――の火炎剣を使い火属性の属性剣ならぬ属性杖にしている。
倒すのが目的ではなく気絶させるんだから、攻撃力なんてどうでもよかった。
「さて、ハルを起こすか」
「起こすのですか? ハルさんを――」
キャロが心配そうに俺に言う。ハルがゴーストを見て気を失ったのは、彼女も理解している。
きっと、彼女は、俺は戦闘が全部終わってからハルを起こすと思っていたのだろう。
でも、それだと俺はよくてもハルはよくない。
彼女は強い女の子だ。
「ハルさんを起こすにゃら、私に任せてほしいニャ!」
ステラが自信満々に、肉球でぽんと胸を叩く。
そして、その肉球をハルの胸に押し付け、
「猫騎士奥義、肉球気付け!」
そんなことを言ったと思ったら、ハルが「ん……んん」と目を覚ました。
そして、ハルに対し、俺は言った。
「今度は気絶するな」
「……はい、先ほどは申し訳ありませんでした」
ハルの尻尾が大きく逆立つ。感じ取っているんだ。ゴーストの気配を。
だから、俺も隠さない。
大地に転がるネズミのゴーストをハルに見せる。
「ハル、倒せるな?」
「……よろしいのですか?」
ハルが尋ねる。俺がここまで弱らせたゴーストを自分が倒してもよいのかという質問。
「悪い、言い方を間違えた」
俺はニヤリと笑い、ハルにこう言った。
「たおせ!」
三文字。そのたった三文字で、ハルの表情から――いや、尻尾から迷いと恐怖が消えた気がした。
火竜の牙剣――がネズミのゴーストを切り裂いた。
ネズミのゴーストは悲鳴を上げる間もなく消え、霊玉だけが残った。
「斬れる……んですね」
ハルは霊玉を拾い、じっと玉を見つめた。
「あぁ、斬れるよ。ハルの剣で斬れない相手がいるとしたら、お前のご主人様くらいなものじゃないか?」
俺が冗談混じりに言うと、
「……ありがとうございます、ご主人様」
ハルがそう言って深々と頭を下げた。
「おいおい、ハル。ここは、いつかあなたを超えて見せます、くらい言ってくれよ」
「いつかあなたをお守りできる騎士となってみせます」
俺はハルの頭に手を乗せ、その耳を撫でながら言った。
まったく――女の子を守るのは男の役目だってわかってくれないかな。
でも、ハルに背中を預けて戦う自分の姿を思い浮かべたら――意外とそんな自分の姿がしっくりときた。背中を預けると、ハルの持ち味の俊敏性が失われるというのに、俺の背中を守ることで、いつも以上の力を発揮するそんなハルの姿が。
「頼りにしてるよ、ハル。それに、キャロにマリーナも……な」
「そんな神妙な顔をするな。ドラゴン退治を前に、縁起でもない。言葉の力を舐めてはならんぞ」
マリーナが茶化すように言った。
「おっと、そうだったな。強くなったし、ドラゴン退治といきますか……」