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マリナの暴走

 何が起こったのかわからない。

 突然暴走したマリナは、ステラを捕まえると、どこからか取り出したネコジャラシでステラ相手に遊んでいた。


「マリナは俺の仲間なんだが、こいつが悪魔ってどういうことだ? ステラ」


 マリナではなくステラに尋ねたのは、そのほうが早く終わりそうだからだ。ネコジャラシ相手に戯れながら、ステラは神妙な面持ちでいう。神妙な面持ちなのにネコジャラシにじゃれ続ける。


「一年くらい前のある日、ふたりの行商人を名乗にゃのるヒュームの旅人が、村を訪れたのニャ」


 ステラは語った。そのふたりとは十中八九マリナとカノンのことだろうと思った。マリナは、最初は仮面をつけていた状態、つまりマリーナの状態で普通に会話していたが、ケット・シーの一匹がマリーナの仮面を外した直後、暴走状態に。村中のケット・シーをありとあらゆる手で骨抜きにし、動けなくなったケット・シー相手に三日三晩話を続けたという。

 カノンがいくら止めようとしても止まらなく、話し続けた結果、体力切れで気を失ったマリナをカノンが担いで去って行った。

 しかし、マリナにじゃらされたケット・シーたちはそれから二日間まともに動けず、彼女のことは悪魔として伝わったのだという。

 そこまで聞いて、ステラの会話がままならなくなった。ネコジャラシ相手に戯れ続け疲れて喋る気力もなくなったのだ。そこからマリナが捲し立てる。


「久しぶりですねステラさん。私、ステラさん達のことを忘れた日はなかったんですよ。服屋に行くたびに、あ、この服ステラさんに似合いそうだなぁとか、このお酒はステラさんが好きだろうなぁとか思ってたんですから。あ、でもステラさんでなく、もちろん他の皆さんのことも考えてはいたんですよ、ケット・シーの皆さんのことも思ってたんですよ。たとえば農作業をしているポヨンさんには麦わら帽子が似合うだろうなとか、釣り好きなピリさんにこの釣竿を届けてあげたいな、とか。でも、やっぱり同じ女性同士ということで、ステラさんのことを特に気にしていたのはたしかです。私、勇気を出してカノンに頼んだんですよ。もう一度ケット・シーの村に行きたいって。でもカノンったら引きつった顔で絶対に首を縦に振ってくれなかったんですよ。酷いと思いません? 先月だって近くに来たから行きたいって言ったのに無視して行ってくれなかったんです。こんなに皆さんのことを思っているのに。あぁ、でも本当にステラさんはかわいいですね。ステラさん、マタタビ酒が好きでしたよね。あぁ、ステラさんに会えるのがわかっていたら用意したのに、残念です。でもそれって贅沢ですよね。だって私はステラさんに会えただけで僥倖なんですから。あれ? ステラさんちょっと身長伸びました? 3ミリくらい。私は小さい方がいいんですが、ステラさんもまだまだ成長期ですからね、身長が伸びるのはいいことですよ。でも小さいステラさんのほうが私は好きだと思っていましたけど、身長が伸びたところでステラさんの魅力が変わるわけではありませんね。あ、そうだ。フェルイトに美味しい魚料理の店があるんです。今度一緒に行きませんか? 大丈夫、お金は私が払いますから。きっとステラさんも満足しますよ。川魚しかないのが残念ですけどね。でもそこの川魚はこのあたりでは珍しい海の塩を使って調理しているんですよ。だから塩の中にも甘みがあってとても美味しいんですよ? その分ちょっと値段が高いんですけど。あ、いえ、決してステラさんに恩をきせようとかそういう意図はないんですよ。私はこうしてステラさんと会話できるだけで幸せですから。あぁ、ステラさん、ステラさん、ステラさん、ステラさん、ステラさん、ステラさん、ステラさん、ステラさん、ふふふ、ステラさんの名前を呼べるだけでも幸せです。そういえば、この前――」


 い……いつものマリナじゃない。誰だこれ。ステラはあまりの言葉の洪水に目を回している。ピオニアと話していた時以上だ。そういえば、ピオニア相手に、話し相手は人形か飼っていた猫しかいなかったって話していたな。

 つまり、マリナは自分が飼っていた猫相手にするのと同じようにステラ相手に話しているんだろうな。猫は人形と違って反応するから、会話も弾んだのだろう。ただし、会話といってもほとんど一方通行なのだが。


「ご主人様――」

「あぁ、えっと、マリナ。ちょっといいか?」

「それでですね、凄いんですよ。魔物の群れ相手にイチノさんが魔法を放つと大爆発が起こって――」


 ダメだ、マリナの奴、俺と話をする気はないようだ。そういえば、ステラは、マリナは仮面が外れてからおかしくなったって言っていたな。なら、マリーナなら平気なのか。

 マリナのスカートのポケットから仮面が顔をのぞかせていた。

 俺は仮面を取り、マリナにつけた。


「……醜態を見せてしまった」


 仮面をつけていてもわかるくらい恥ずかしそうにマリーナは俯いた。


「落ち着いたか?」

「あぁ、懐かしい顔にいささか狂化したようだ。ステラは私にとっても盟友だ。私が持ってきたプラム酒に興味を示し、彼女は今のカルマをやめてマタタビ酒職人になると言っていたほどに盛り上がった」


 ところどころ変な言葉を混ぜるのはやめてほしいが、なるほど、悪魔に魂を売ったとにゃんと六星が言っていたのは、マリーナにそそのかされてマタタビ酒職人になったことを言っていたのだろうか。


「それで、イチノは何故、ステラと共にいるのだ?」

「あぁ、それはだな――」


 俺は事情を説明した。ステラの依頼を受けたこと。その依頼の内容に不備があったこと。ドラゴンを相手にしたら危険が及ぶので依頼をキャンセルすること。

 全てを告げた。すると――


「イチノよ。私が言う問題じゃないが、この依頼クエストを受けてもらえぬだろうか? 友が困っているのを放ってはおけぬ」

「マリーナ、自重してください」


 そう言ったのはハルだった。


「ドラゴンは強敵です。スズキさんが乗っていたポチさんは亜竜といって、竜に劣る種族、つまり、ドラゴンはスズキさんの乗っているポチ以上の強さを誇り、特に竜王ともなればその力は魔王様も戦いを避けることを望むほどで、近付くだけでも危険です。依頼の内容はマタタビ酒の製造のためのマタタビの採取。人の命に関わることでもなければ、どうしてもしないといけない依頼でもありません」


 ハルが冷徹な瞳を浮かべてマリーナに言った。ハルの正論に、マリーナは何も言えなくなる。


「フェルイトに戻って、たまには旨いものを食べたいよな」

「そうだな、先ほどマリナが申した川魚の料理の店に行くとするか」


 マリーナは小さく微笑んでから、俯くように言った。


「いや、俺達さ、お金はそこそこあるけど、質素倹約してきただろ? 贅沢もあまりしてこなかったし。でもさ、たまにはパーっとお金を使いたいよな」


 そして、俺は笑って言った。


「ドラゴンの素材って、高く売れると思わないか?」


 俺の台詞に、マリーナが顔を上げる。そして、目を覚ましたステラも内容を理解したのか、


「依頼を続けてくれるのニャ?」

「ステラがただの依頼人なら放っておくさ。でも、マリーナの友達だっていうのなら、できる限りのことはしてやりたいと思ってな」


 損な性格だと自分でも思う。


「言っておくが、ドラゴンを見てから判断する。俺達が逆立ちしても敵わないような、いや、大怪我を負いそうな相手ならば俺達は迷わず離脱する。その判断はハルにしてもらう。それでもいいか?」

「もちろんニャ」

「ハルもそれでいいか?」

「ご主人様の言葉に従います」


 ハルが俺に傅くように言った。そのハルを抱き寄せるようにして頭を優しく撫でた。


「悪いな、ハル。俺のために嫌な役を押し付けてしまって」

「勿体ないお言葉です」


 ハルがしっぽをゆっくりと振りながら言った。

 さて、ドラゴンスレイヤーの称号を貰うとしますか。

 その前に――やっぱりちょっと不安だから、どこかでレベル上げしたいな。

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