六つの星
短め、そしてオマージュネタ多数です。オマージュネタ嫌いな人はすみません。
「なんで七星なのに、六匹しかいないんだ?」
俺の質問に、六匹全員が目を逸らす。
訊ねたらまずい質問だったのだろうか?
そう思っていると、一匹が俺を見て言った。
「奴の戻る場所はもうにゃいニャ。我等、すでに灰色のにゃにゃ星にあらずニャ! にゃんと六星ニャ!」
「南斗って……この世界には北斗もいるのか?」
「にゃんとじゃないニャ! にゃんとニャ!」
いや、だから南斗だろ? と思ったが、そういうことか。
てっきり南斗が舌足らずでにゃんとに訛っているのかと思ったが、にゃんと六星が正式名称なのか。
うん、ぴったりの名前だ。
「それより答えろニャ! 王ににゃにが! にゃにがあったのニャ!?」
「うるさいニャ、答えてほしければ我等と共に来るニャ!」
「共に行くわけにはいかにゃいニャ! 私もまた王のためにマタタビを持って帰らにゃいといけないのニャ!」
向かい合うステラとにゃんと六星。
うーん、シリアスな空気のはずなのに、何故だろう。ニャーニャー言っているせいで緊張感があんまりないなぁ。
「ステラ、やはりあの時、悪魔に心を持っていかれたのかニャ」
「あの悪魔が我等ににゃにをしたのか忘れたのかニャ?」
「悪魔に魂を売った貴様、もはや王のところに連れていく価値なしニャ。この場で倒してくれるニャ!」
そう言ってにゃんと六星は両腕に爪を装備した。
全員職業は拳闘士。
勝てないことはないが、うーん……と後ろを見ると、キャロが少し困った顔で首を振っていた。
そうだよな。俺も犬派とはいえ、膝のあたりまでの大きさしかないケット・シー相手に本気で戦うのは気が引けるな。
ハルもそう思うよな?
と思ってハルの方を見たら、
「……うおっ!」
想像していなかった光景に俺は驚いた。
彼女の二本の剣が猫の爪を砕いていく。
「にゃんだ、この犬、やるニャ!」
「犬のくせに犬のくせに」
「我等誉れあるケット・シー族が犬にゃんかに負けるわけにはいかにゃいニャ!」
狼なのに犬と言われているハルだが、その表情には怒りも悲しみもない。
「そのような挑発、ご主人様への忠義の前には意味もありません」
ハルはそしてその二本の剣先をにゃんと六星たちに向けた。
「今度はその首を狙います。私の依頼はステラさんの護衛です。あなたたちの命ではありません。ここで退くのなら追うこともしません」
「ぐっ、犬の皮を被った狼め」
いや、ハルは元々狼だし。
「俺さまを見下すようなセリフは吐かせんニャ!」
ずっと見下ろしていますけど。
「おまえの剣に対する恐怖はにゃいニャ!」
かなり足が震えていますよ。
「俺は指一本で十分ニャ!」
うん、十本の爪のうち九本はハルに砕かれたからな。
「我等にゃんと六星、退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ!」
いや、その愛くるしさは十分媚びているだろうが。
「私のためにお前の――」
「まだ戦おうというのですか……勝負はついたはず」
最後の一匹の台詞を遮るように、ハルは剣を構える。
俺のいかなる時も冷静にいてくれと言ったことを忠実に守ろうとしているのだろう。
だが、ハルにケット・シーを斬り殺して欲しくないなぁ。俺の願望なんだが。
でも、にゃんと六星は退きそうにないよな。
……こっちには馬車がある。ある程度時間を稼げたら、逃げ出すのは容易だろう。
ならば……、
「ハル、キャロ! 命令だ! ステラと一緒に馬車に乗れ! ここは俺一人で十分だ」
「しかし、ご主人様」
「ハル、これは命令だ!」
俺の命令という言葉。それにハルは逆らうことができない。隷属の首輪の効果で。
悪いな、ハル。あとでいっぱい耳を撫でてやるから許してくれよな。
「いきますよ、ステラさん」
キャロがステラを抱きかかえて、馬車へと走っていく。
ハルもその後に続く。
そして、俺は
「貴様ひとりで我等六人と戦うつもりにゃのかニャ?」
「戦うつもりなんてないさ」
俺はニっと笑い、アイテムバッグに手を入れ、
「ほうれほれほれほれほれ!」
リンゴを六個取り出して転がすように投げた。
「にゃにをするかと思えば」
「たかがリンゴでこのにゃんと六星を」
「にゃんとかできると思ったのニャ?」
「失笑だニャ」
「ニャーニャー!」
「手が止まらにゃいニャ」
にゃんと六星達は、転がされたリンゴに対し、じゃれるように遊んでいた。
よし、今のうちだ。
俺は回れ右して馬車へと駆け出して飛び乗り、
「さすがです、ご主人様! 行きます!」
馬車が大回りしてにゃんと六星たちを迂回するように走り出し、すぐに見えなくなった。
そして、俺達は進む。
ケット・シーの村へと。