ピオニアとマイワールドの説明回
「はじめまして、ピオニアさん。私は桜真梨菜です。マリナって呼んでください。職業は大道芸人をしています。まだまだ未熟で、皆さんにご迷惑をおかけしている身ではありますが、よろしくお願いしますね」
「はじめまして、マスターマリナ。以後よろしくお願いします」
……あれ?
マリナの偽物がいる。
本物のマリナがこんなにスラスラと自己紹介をできるはずがない。
……さては、マリーナがとうとうマリナの人格を乗っ取り表に出たのか!?
「マリナさん、人見知りが治ったのですか?」
俺が疑問に思っていたことは、ハルも不思議に感じていたらしい。
「……ハ、ハルさん、そうじゃないんです。あの……私」
マリナは急にしどろもどろになり、仮面を取り出して装着し、マリーナになった。
「うむ、マリナは幼少の頃から魂を持たぬ人型相手に語る時間のほうが長かった。ピオニアが人形だと知って話しやすかったようだ」
と悲しいことを恥ずかしそうに言った。
……なるほど、確かにピオニアは一応人形だもんな。
「ピオニアは人形扱いされてもいいのか?」
「肯定します。ホムンクルスは人形の一種です」
ピオニアは気にする様子もなく事実だけを告げた。
「本人がそう言っているのならいいだろう? それと、ピオニア、仮面をつけている時は我のことをマリーナと呼んでもらえぬか?」
「疑問を呈します。仮面をつけてヒュームの名称が変わるという事象が、私のデータにはありません。マリナとマリーナは同一人物ではないのでしょうか?」
「話せば長くなるのだが、マリーナもマリナも魂の名。桜真梨菜という肉体に、異なるふたつの魂が共存しており、我、マリーナは仮面をつけることにより空気中のマナの力を得て顕現する存在なのだ。現在、マリナは深い眠りについている」
と、マリーナは自己設定をドヤ顔で語る。
ただ、激しすぎる人見知りと自己暗示によって生み出された多重人格であることは黙っているようだ。
「情報を追加しました。以後、仮面を装着しているマスターマリナのことをマスターマリーナと呼称します」
ピオニアが言うと、マリーナが何故か動揺し、
「……ピオニアよ、我のことを何と呼ぶと?」
再度訊ねた。
「マスターマリーナと呼称します」
「もう一度頼む」
「マスターマリーナと呼称します」
「……もう一度」
「ていりゃぁっ!」
俺は思わずマリーナの頭にチョップを打ち込んだ。
どんだけ気に入ったんだよ、マスターマリーナって響き。
「何をする、イチノよ」
「うるせぇ、放っておいたらお前、永遠にループしただろ……ところで、ピオニア、お前ができることは何なんだ? 何か特別な力はあるのか?」
「私はマスターの命令があれば、マスター同様天地創造の書を用いてこの地の開拓を実行することが可能です。また、この世界についての様々なヘルプ機能を搭載しています。質問がございましたらなんなりと仰ってください」
この世界について知っている?
なら、聞きたいことが山のようにある。
「この世界とアザワルドを繋ぐ扉があるだろ? 空間の歪みみたいなの。あれって、こっち側から消すことは可能なのか?」
「肯定します。アザワルド側から消す時と同様にこちら側から消すことができます」
「なら、再度扉を開くことは可能なのか?」
「肯定します。アザワルド側から開く時と同様にこちら側から開くことができます」
「ちなみに、その開く場所は自由に設定できるのか?」
「否定します。例外を除き、開く場所はアザワルド側で最後に開いた場所になります」
「開いた場所に誰かがいた場合はどうなるんだ?」
「先述の例外に該当します。誰かがその場にいた場合、扉はずれた位置に開きます」
つまり、誰かがいて急に扉が開いて弾き飛ばされる、なんてことはないわけか。
それさえ聞けたら十分だ。
現在開きっぱなしにしている空間の歪みだが、今後は消してもいいってわけだ。
そうなったら、他の人から見つかるリスクが大幅に軽減される。
あと、閉じた場所に開くっていう話だが、星の自転や太陽の周りの公転のせいで、宇宙空間に放り出されるということはないのかと聞いてみたが、それも問題ないらしい。
空間の歪みの位置が固定されているのは、地脈によるエネルギー供給によるものだとかそういう難しい話を聞かされた。
ともあれ、ほぼ全ての問題が解決した。
「ハル、キャロを呼んできてくれ」
「わかりました」
ハルは頷き、一度世界の外に言った。
その間に聞きたいことを訊ねることにした。
「天地創造の書をピオニアが使う時もMPを消費するのか?」
「肯定します。MPがこの世界の力となります」
「ピオニアの最大MPってどのくらいあるんだ?」
「無限です」
「え?」
「私にMPの上限は存在しません」
嘘だろ、それって世界弄り放題?
俺よりチートじゃないか。
「ということは世界を自由に改造できるというわけか」
マリーナが含み笑いをして言った。
「否定します。私のMPは無限ですが、現在のMPは32しかありません。自己回復機能を持ちませんし、何もしなくてもMPを一日1消費します」
「え? つまりピオニアはあと32日しか動けないってこと?」
「条件付きで肯定します。他の者からMPを吸収することでMPを増やすことができます」
俺はほっと胸を撫で下ろした。
人造的に生まれた命は、その寿命が短いというのはよくある話だったから心配していた。
「他者からの供給? 具体的にどうやればいいんだ?」
「うむ、それなら我が手を貸そう。ピオニアよ、我の名前を呼んで実行してもらおうか。我が強大な魔力を受け止められるのならな」
「かしこまりました、マスターマリーナ」
そう言うと、ピオニアはマリーナに近付き、彼女の両頬を両手で掴んだ。
そして――
「…………っ!」
仮面越しでもわかる。
マリーナの目が開き、しどろもどろになっている。
なぜなら、ふたりの唇が重なり合っていたのだ。
しかも、長い、長い、いったいどれだけ長い間唇を重ねるんだ?
そう思ったら、マリーナが崩れ落ちた。
「このように、粘膜接種という手法で私はMPを補給します」
……キスでMPを補充?
「し……舌が……舌が絡みついて……」
マリーナが気を失いながらもうなされるように言う。
ウソだろ、そんなの俺にできるのか?
「効率を考えれば口を使うのが一番ですが、他にも方法はあります」
「……そうか、他にもあるのか。それはよかった」
「はい。穴を使います」
……穴?
穴って、どの穴ですか? ピオニアさん。
口以外の穴?
鼻の穴? 耳の穴? 目は無理ですよね。
「マスターイチノジョウ。実際にしてみましょう」
そう言って、ピオニアは俺の手を握った。
待って、待ってくれ。
さすがにここではやばいって。
マリーナもいつ目を覚ますかわからないし、ハルとキャロもすぐに帰ってくるだろ。
「……では、マスターイチノジョウ、服を脱いでください」
※※※
「ご主人様、何をなさってるのですか?」
「イチノ様、それはどういう儀式なのでしょうか?」
「俺にもよくわからないが、これが一番いいらしいんだ」
……俺は今、上半身裸で座っていた。
その背中をピオニアが、まるでマッサージするように手の平で揉んでいた。
「なんでも汗の出る穴、汗腺は背中に多いらしくてな」
「現在、MPを100ほど補充しました。今日はこれで終わりましょう」
うん、ほどよい疲労とともに肉体もほぐれた。
寝る前にこれをしてもらえば、ぐっすり眠れるかもしれないな。