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ミリの冒険③

本日3回目の更新です。

 ミリはその足で冒険者ギルドへと向かい、竜の鱗と魔石を換金。

 ついでに茶狐チャコ族の受付の女性に兄のことを訊ねると、彼女は何故か、


「え、あの人の妹!?」


 と琥珀色の瞳を見開いて驚き、そして何故か怯えた様子だった。

 その後、ミリがここで起きた兄との勝負について訊ねると、闘技場での大立ち回りについて話してくれた。

 戦いがはじまった原因についてはギルド内のことだからと話してくれなかった。魔法で吐かせようかと思ったけど、周囲の目もあるので勘弁してあげた。


(それは、さっき話している間に出ていった男達のほうが詳しく知っていそうだし)


 ミリがイチノジョウの妹だと語ったときから、聞き耳を立てていた男達の人相を記憶しながら呟いた。


 もしも兄が一方的に被害者であり、それをギルド側が放任していたとしたら、私は恐らく彼女を許すことはできなかっただろう。

 その代わり、兄について知っていることはないかと聞くと、そもそも彼は冒険者ではないと教えられた。


「あの、ミリュウちゃん、今度はどこに行くの?」

「あれ? ノルンまだいたの?」

「いましたよ、ずっと」

「今度は初級の迷宮よ。ちょっと用事ができたから」


 その言葉に、ノルンが胸を撫で下ろした。


 初級の迷宮では、当然、ミリの敵などいなかった。

 MPの消費量の少ないプチダークを使い、触手を伸ばして敵を締め上げていく作業を繰り返すだけだった。

 ノルンがかなり引いていたが、結果として三時間程で迷宮の最奥のボスの間のゴブリン王を締め上げた。

 女神像の間への扉が開く。


「ここに来るのも久しぶりね」

「え? ミリュウちゃんここに来たことがあるの?」


 ノルンの質問にミリは答えなかった。

 もっとも、「フロアランスの町ができる前に迷宮をちょちょいと攻略したわ」なんて言っても信じてもらえなかっただろうが。

 ちなみに、彼女が上級迷宮の転移陣を潜れたのは、彼女が既に上級迷宮を攻略したから、ではない。

 攻略したのは確かだが、そもそも前提が間違っている。

 迷宮を攻略したから転移陣を潜れるのではない、迷宮を攻略した後に、彼女が空間魔法で脱出した後にできたのが転移陣なのだ。あまりにも強大な魔攻の持ち主だったため、未だに使われることになっている。


 それからは反省して、魔力を押さえて魔法を使うようになったが、中級迷宮でも失敗して転移陣として残ってしまった。


 女神像の間に入ったミリは巨漢の女神――コショマーレの女神像を見て、


(私を呼び出しなさい! さもないとこの女神像をぶち壊すわよ!)


 と祈りを捧げた。

 突如、彼女は白い空間にいた。

 目の前にはコショマーレもいる。あのトレールールという若い女神の姿はない。


「ようこそ、魔王ファミリス、いえ、今は魔王ミリュウと言ったほうがいいかい?」

「どっちでもいいわよ。それより、コショマーレ、あなたに聞きたいことがあるんだけど、まずはおにいの職業、おにい、無職のままで凄い力を持っているわよね? 私、興味本位で昔、無職の赤ん坊とパーティーを組んで迷宮に潜ってレベル60まで上げたことがあるんだけど、その時は何もなかったわ。でも、話を纏めると、どうもおにいはわざと無職のままいるそうなのよね。転職もしていないし、冒険者としても登録していない。おにいって、日本にいたころは早く就職したいってぼやいていたのに、理由もなく無職のままいるとは思えないの」


 ミリは捲し立てるようにコショマーレに問い質した。

 すると、コショマーレは観念したように、


「ええ、こっちの不手際でね、無職にスキルが発生しちまったんだよ。かなり厄介なスキルがね。あの子には悪いが、無職のスキルを知るためのテスターになってもらっているよ。もっとも、彼も最初から無職を続けるつもりだったみたいだけどね」

「無職のスキルについては?」

「私から教えるつもりはないよ。本人に聞きな」

「あ、そう。次に、私の力、全盛期の1%もないんだけど、どうなってるの?」

「どうもこうも、世界全体にあんたの力を弱める結界が張られているのさ。人間達があんたの復活を恐れてね」

「私を封じる結界?」


 ミリは訝しんだ。


(そんな強力な結界、どうやって……まさか!? いや、それなら納得できる)


 ひとりで逡巡するミリを見て、


「どうやら心当たりがあるみたいだね」

「最後にひとつだけ。おにいは今、どこにいるの?」


 ミリの質問に、コショマーレはたるんだ顎を撫でながら、少し悩んでいる様子だった。


「女神としては、簡単に個人情報を漏らすわけにはいかないんだけどね」

「言いなさい」

「やれやれ。まぁ、あんたなら構わないか。ここで強制的に元の場所に戻して暴れられても困るからね。あの子ならダキャットの首都フェルイトだよ」


 その言葉を聞き、ミリは頭の中の地図に兄の通った軌跡を描き上げていく。

 兄の通った道をすぐにでも追いかけたいとミリは思ったが、今の彼女には圧倒的に力が足りない。


「それで、例のあれはないの?」

「迷宮踏破ボーナスのことかい? あんたは既にここでのボーナスは受け取っただろ?」

「あれは魔王ファミリスよ。生まれ変わった私には適応されないはずよ」

「……はぁ、やれやれ。その通りだね。でも、ここから出てからだよ」

「わかったわ。じゃあよろしく」


 ミリがそう言った直後、彼女の魂は元の空間に戻り、

【称号:迷宮踏破者を取得した】

【クリア報酬スキル:MP吸収を取得した】


 MP吸収。

 倒した敵のMPの一部を入手することができる。

 MPの少ないミリにとっては最高に役立つスキルだ。


 狙っていたスキルを()()()()手に入れたミリは、迷宮から脱出しようとして、


「ミリュウちゃん、どんなスキル手に入れたの?」

「あれ? ノルン、まだいたの?」

「いたよ。ずっと。気付いてなかったの? さっきだってゴブリン王と戦う時に取り巻きのゴブリンを倒してたじゃない!」

「まぁいいわ。出ましょ。脱出エスケープ


 ミリの魔法により、ふたりは一瞬のうちに迷宮の外にいた。


「これ、もしかして空間魔法!? はじめて見た、ミリュウちゃんって本当に凄い魔法使……ミリュウちゃん!? どうしたの?」


 ノルンが気付いたとき、ミリは迷宮の入り口で倒れていた。


「……MPが切れた」

「あぁ……今日はもう帰りましょ」


 ノルンはミリを背負ってマーガレットさんの家に帰って行った。

 途中で、詰め所に行き、暫く休ませてもらうと上司に言った。


「当分はミリュウちゃんに付きっ切りかな」


 ノルンの背中で眠るミリュウを見て、大きなため息を漏らした。

~一方そのころ~


「あいつの妹がこの町にいるだと?」


 町の外れにある小屋の中、ひとりの男が思わぬ情報を得て笑っていた。


 冒険者ギルドで情報を掴み、知り合いにその情報を持って行った冒険者は、凄み睨み付ける元仲間に、怯えながらも、


「や、約束だ! 金を――あいつの弱みを見つけてきたんだ、金をよこせ」


 と金銭の要求をした。もしも仮に、依頼人が凄腕の冒険者だったら、金より命のほうが大事だと、場の空気を読んで何も言わずに逃げ出しただろう。

 だが、実際は違う。

 目の前にいる男は、元は凄腕と言われたが、現在は左ひざから先を失い、金属の杖のような義足の男だ。


「あぁ、金だ? わかったよ、くれてやると」


 すると、男は右足を軸足にし、大きく回転した。

 目にも止まらぬ早業で、金属の義足で男の頬骨を砕いた。

 そして、足を一度引き、男の、開いたまま閉じなくなってしまった口の奥へとその義足を突っ込んだ。


「あん? もういらねぇか? デザートも用意したかったが無駄足だったか」


 そう言い、男は器用に歩き始める。

 男の名前はカッケ。

 かつて一之丞に左足を奪われた男だ。

 まともに歩けるようになるまで半年はかかると言われたにも関わらず、僅か一週間でその金属の棒を己の足とした。その努力と才能を冒険者として生かせば、レベルをあげれば上級冒険者として名を馳せたかもしれない。

 だが、今の彼はただの復讐者だった。

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