女神セトランス
本日二回目の更新です。
戦いと勝利の女神――セトランス様の気迫に、俺達は全員頭を下げた。
女神様の着ているビキニアーマーのせいで、目のやり場に困っていたので正直助かる。
そして、いつもは女神様と一対一で対面する俺だったが、今日に限って言えばここにいたのは俺だけではなかった。
ハル、鈴木、ジョフレ、エリーズ、フリオ、スッチーノ、ミルキー、そしてケンタウロスまでいた。
「お久しぶりです、セトランス様」
最初に口を開いたのは鈴木だった。
鈴木はセトランス様にあったことがあるのか?
「久しぶりだな、勇者コータ。そして、勇敢なる戦士諸君、ご苦労であった。諸君等のおかげでふたつの国が救われた。女神を代表して礼を言おう」
セトランスが頭を下げると、
「気にすんなって。困ったときはお互いさまだろ?」
「そうだよ。それに、私達は勇者とモンスターマスターなんだし、世界を救うのは当然だよ」
ジョフレとエリーズが空気を読まずにそんなことを言いだした。
「あ、でも勇者の力を解放する剣がなくなっちまったから、俺、また剣士に逆戻りかな」
「えぇ、じゃあ私も魔物使いに逆戻り?」
お前たちは元々勇者でもモンスターマスターでもないだろうが!
しかも、剣士でも魔物使いでもない、見習い剣士と鞭使いだろうが!
まぁ、今回の戦いで見習い剣士のレベルが上がって、ジョフレの奴は剣士に転職できるだけのレベルになっている。エリーズも鞭使いレベル23だ、魔物使いに転職できるかもしれない。
「あの、僕達はどうしてセトランス様の女神像が元に戻ったのか? 全く理解していないのですが」
鈴木が訊ねた。
そうだ、俺もわからない。
そもそも、なんでスッチーノの持っていたガラス玉で全部解決したんだ?
「そうだな、今回の戦いは吸血鬼のヴァルフという男がダキャット、コラット両国を滅ぼすために仕掛けた策略だった。それを快く思わない者がスッチーノ、君にヴァルフの術式を破壊する魔法を込めた玉を渡したのだろう」
なるほど。だが、新たな疑問が生まれた。
「でも、何でその魔法の玉を託したのが彼なんですか?」
鈴木の疑問はもっともだ。そんな大事な玉を授けるのなら、もっと適した人間がいるのではないだろうか?
例えばこの鈴木とか。
玉を託されたスッチーノも大きく頷いている。
「魔王ファミリス――未来を予知する彼女が残したいくつかの記録によるものだと思われる。彼女亡き後も未だにこの世界は彼女の影響下にある者が大勢いるからな」
「……魔王ファミリスが? 魔王軍と魔王ファミリスは敵対関係にあるのか?」
鈴木は神妙な顔になる。
魔王ファミリスが単なる悪人ではないのは俺もハルから聞いているから、そこは何とも言えないな。
「さて、私が諸君等を呼び出したのは、これを授けるためだ」
【特別スキル:セトランスの加護を取得した】
どうやら、俺を含め全員が同じスキルを取得したらしい。
少し驚いたような顔になる。
「これは、自分よりも敵の数が多い時に、HPと物攻が30%上昇するスキルだ。ぜひ有効活用してもらいたい」
「あの……今回の戦いは俺達だけじゃなくて、外で待機している俺の仲間も活躍したんだが、その二人にもそのスキルは貰えないでしょうか?」
「僕もだ。女神セトランス、僕の仲間にも同じスキルをいただきたい」
「わかった。その者たちが私の女神像の前に訪れたときに授けよう」
その言葉を聞いて、俺と鈴木は安堵した。
「では、最後に特典スキルか特典アイテムを授けよう。また会える日を楽しみにしている」
セトランス様がそう言うと、俺達は女神像の前にいた。
そして、
【称号:迷宮踏破者Ⅲが迷宮踏破者Ⅳにランクアップした】
【クリア報酬スキル:生活魔法Ⅱが生活魔法Ⅲにスキルアップした】
……またこれか。
報酬が偏りすぎだろ。
まぁ、あいつらに比べたらマシか。
「うわ、タワシだ……」
「なんで俺達だけ」
フリオとスッチーノはタワシだった。ああはなりたくない。
「インクの要らない万年筆……女神様、ありがとうございます」
ミルキーは満足しているようだ。
「見てみろ、エリーズ! 新しい剣だぞ!」
「おめでとう、ジョフレ! あ、私は猫寄せスキルだったわ!」
「猫寄せか! おめでとう、エリーズ!」
「ありがとう、ジョフレ!」
あいつらは何が来ても嬉しそうだな。
ケンタウロスは……何を貰ったのかはわからない。そもそも貰えたかどうかもわからない。
最後に、ハルだが。
「……ハル?」
手を振ってみる。
反応がない。
信仰する女神様との対面に、立ったまま気絶していた。
※※※
「イチノ様、無事だといいんですが」
迷宮の上空で、ワイバーンの上に乗ってキャロは祈るように言った。
「イチノは六柱神のうちの二柱の女神より賜りし、大いなる加護を持つ者だ。例え暗黒神の使徒と相見えようとも彼奴にそう簡単に己の身を傷つけられ、ヴァルハラの野へと帰ることはあるまい」
「……マリーナさんって、不安になればなるほど、よくわからないことを言いますよね」
キャロは、マリーナの中二病っぽい台詞が、己の不安を打ち消すために使われていることを見抜いて言った。
その時だった。
月の光が突然消えた。
雲が月を隠したのかと思ったが、そうではない。
高度百メートルの地点を滑空するワイバーンの遥か上空をさらに巨大な生物が飛んでいったのだ。
腹と翼しか見えず、そして闇夜のためその色まではわからなかったが、キャロはその正体に気付いたようだ。
「あれは……まさか」
「我の封印されし力が呼び起され、それに呼応するかのごとく現れし巨竜。あれはまさか――」
「いいえ、違いますから、マリーナさん。あれ、たぶん竜王です」
「竜王? 竜王っていうと、アレフガ――」
「竜王は勇者アレッシオ・マグナールの盟友であり、ともに魔王ファミリス・ラリテイと戦った伝説の生物です……本でしか見たことがないですが、間違いありません。伝承の通りです」
巨大な影が向かっていく方向を見て、私は安堵しました。
あっちはフェルイトがある方角。
恐らくは――
※※※
「勇者アレッシオに援軍を頼んだ?」
気を失ったままのハルを背負って俺達は来た道を戻っていた。
魔物の発生源がなくなっても発生した魔物がいなくなるわけではない。
急いでフェルイトの防衛に行かなくてはと思ったら、鈴木から思わぬ伏兵の存在を聞かされた。
「あぁ、僕達が迷宮のほうをなんとかするからってね。シュレイルも魔記者としての力が使えるから、通信用の札で援軍を頼んだんだ。そしたらハッグ様から、今夜中に駆け付けるって使い魔の伝書鳩が届いた。だから、きっと今頃は――」
鈴木は苦笑いして言った。
「俺TUEEEして大はしゃぎしてるんじゃないかな?」