晴れる闇
闇の中から現れたマンモスは、まぁ、俺の一撃で倒れたわけなんだけど。
ここから魔物が湧き出しているのは間違いないようだ。
マンモスだけではない、次々と出てくる魔物を倒しながら、この闇をどうにかしないと埒が明かないと考える。
「鈴木! お前の聖なる力で何とかできないのか!?」
「さっきからやっている! が、闇を切り裂く剣技など聞いたことがない!」
鈴木の剣から光の弾丸が飛ぶが、闇に吸い込まれるだけで何も起きない。
「ミルキーだっけか! さっきの結界でこの女神像の間を封じることは?」
「少しの時間なら可能でしょうが、やめたほうがいいです。瘴気が濃くなればなるほど現れる魔物が強くなります」
「そうか……くそっ」
ここまで来て打つ手無し……か。
「女神像が原因なら、この奥にある女神像を潰せばどうにかなるんじゃないっすか?」
フリオがとんでもないことを言ってきた。
確かに、女神像の瘴気を集める力を利用した術式だとすれば、確かに女神像を壊せば可能……なのか?
いや、むしろ女神像を俺の世界に持ち込んだらいいんじゃないか?
俺の世界の中が少し魔物だらけになっちまって畑が荒らされるかもしれないが、女神様が時折訪れるって言ってたし、あの人達ならなんとかしてくれるだろう。
「女神像を壊せば死罪は確実。そもそも、女神像は誰にも動かせない、壊せないように作られている」
鈴木の動かせないという言葉に、俺の拙い作戦が崩れ去るのを感じた。
「とりあえず、この闇をどうにかすればいいんだよな? それなら俺がなんとかしてやるよ!」
そう言ったのは、他でもないジョフレだった。
「なにか作戦があるのか?」
ジョフレのことを未だによく知らない鈴木が、一縷の望みを持ってジョフレに訊ねた。
どうせ変な作戦ではないだろうか?
「この剣を投げる!」
ジョフレはそう言って、鞘から一本の剣――エクスカリパーを抜いて宣言した。
その剣はマリナの主人であるカノンが、ジョフレに売った聖剣もどき、つまりはただの鉄の剣だ。
金色に光っているのに素材も鉄って出てるし。
「その剣は?」
「この剣は勇者の剣だ! そして、この剣は投げることで一度だけ闇を打ち払う効果がある!」
そんなバカな。ただの鉄の剣にそのような効果があるとは……いや、待てよ?
「ジョフレ、本当にカノンさん、この剣を売ってくれた人はそう言ったんだな?」
「あぁ、そうだぞ、ジョー」
「鈴木、この剣は魔剣職人が作った剣だ。しかも、その魔剣職人は長い間、日本人であるマリナと一緒にいて、しかもこの剣の名前はエクスカリパーという。お前、エクスカリパーって何か知ってるか?」
「あぁ、僕はこう見えてファイナ……そうか、エクスカリパーか!」
鈴木は俺が何を言おうとしたのかようやくわかった。
そして、ジョフレに言う。
「ジョフレ! その剣を投げてくれ! 頼む!」
「おう、任せておけ!」
ジョフレがそう言って振りかぶると、エクスカリパーを投げた。
剣は闇の中に吸い込まれていった。
「ダメなのか?」
そう呟いたのはスッチーノだった。
ナイスフラグ立て!
なぜならその直後、闇が破裂し、正常な空間が広がったから。
「さすがはエクスカリパーだな……」
「あぁ、投げることに特化した最強の剣だ」
エクスカリパー。
とある有名なRPGゲームの中に登場し、最強の攻撃力を誇る。呪いのせいで全くといっていいほど敵にダメージを与えることができない。ただし、特殊コマンド「投げる」を利用して敵に投げつけた時、最大のダメージを与えることができる。
もっとも、一度投げてしまったらその武器は失われてしまうのだが。
「見えたぞ! 女神像だ!」
闇が晴れ、部屋の中には女神像があった。あのビキニアーマーの女神像、確か戦いと勝利の女神、セトランス様か。
スッチーノはそう言うと、懐からガラス玉を取り出して走り出した。
「これを置いたら任務完了、俺達に大金が転がり込むぞ!」
だが、スッチーノが部屋の中に入ると同時に、女神像から濃い闇があふれ出した。
さっきのでもダメなのか!
「スッチーノ! 魔物が湧き出るぞ! 逃げろ!」
鈴木が叫び、スッチーノは驚き引き返そうとして足がもつれて盛大に転んでしまった。
そして、彼が持っていたガラス玉は女神像へとぶつかり……そのまま女神像の中に吸い込まれていった。
「……え?」
果たして、それは誰が言った呟きなのか?
ガラス玉が女神像に吸い込まれていったかと思うと、女神像から溢れた闇がなりを潜め、そして――
気が付けば、俺達は真っ白な空間にいた。
そして、そこには、
「よくぞ参った、闇より国を救いし勇者諸君!」
炎のように真っ赤に燃える長い髪に、ほとんど裸に近い赤いビキニアーマーを纏った女神、セトランス様がいた。