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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
フェルイト動乱編

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前に進むか退却するか

 跳ね飛ばされた俺は、逆さになりながら、ハルの無事を第一に確認する。

 ハルは跳ね飛ばされたというよりかは自ら上に避けたようで、傷はなさそうだ。


 鈴木は……俺と同じように、ハルと俺の無事を確認していた。

 俺は逆さになりながら、ハルに命令をした。


「ハル、ケンタウロスについてる木の枝だけ壊せるか!」

「ジョフレさんが邪魔で――」

「おい、ジョフレ! ケンタウロスの木の枝を斬れ!」


 俺の声が届いたのか、ジョフレが剣を抜き、木の枝を切った。

 ニンジンが落ち、地面に転がるそれをケンタウロスが食べることにより、ようやく暴走列車ならぬ暴走ロバは止まった。

 頭から落ちそうになるが、身体を丸めて受け身をとる。

 体は全然痛くないが、びっくりしたな。


「はぁ、助かった……あれ? なんでジョーがいるんだ?」

「久しぶり、ジョー! お散歩してるの?」


 ジョフレはようやく俺の存在に気付いた。

 エリーズ、こんなところで絶対に散歩はしないぞ


「兄貴、待ってください」

「ミルキー、結界をもっと張れ! 後ろから魔物が来てるぞ!」

「――これが限界……それより」


 ジョフレ達が来たのと同じ方向から、高校生くらいの男二人、女一人が走ってきた。

 黒髪の男は、何故か金色の羊毛を大量に背負っている。

 一番後ろを走っていた女の子が最初に俺に気付いたようだ。

 あいつが鈴木が言っていた、ジョフレと一緒にいる奴らか。

 一番後ろで結界を張っているのが、きっと猫使いの男の姪御さんだろう。

 ……結構可愛い女の子だ。


「それより、新しい男が二人……ふふ、ふふふふふふふ」


 怖いっ!

 なんだ? あの子、俺と鈴木を見て、急に笑い出したぞ。


「君がミルキーさん、フリオくん、スッチーノくんかな。ミルキーさんの叔父さんから頼まれて助けに来たんだ」


 鈴木が、三人を安心させるように爽やかな笑みを浮かべた。

 状況が状況だから仕方ないが、平時だったら後ろからひっぱたいてやりたいほどの爽やかぶりだ。


「ところで、ジョフレ、一体何があったんだ? もしかして、魔物が出てきたのはお前たちが原因か?」

「俺達じゃないって。よくわからないが、コラットの工作員とかがバンとやってドガンだったんだよ」


 ……よくわからないが、コラットは、ダキャットの敵国だったよな。


「私が説明します」


 ミルキーが一歩前に出た。

 あれ? 先ほどまでは怪我など無かったはずだが、


「大丈夫かい? 血が出てるけど」


 鈴木がミルキーの顔を見た。


「大丈夫です。これは彼女の病気みたいなものだから。なぁ、フリオ」

「あぁ、病気だな。怪我とかじゃないっす」


 スッチーノとフリオは頷きあった。

 病弱な女の子……なのか?


 鼻血を豪快に出すミルキーを見て、俺は別の意味で悪い病気なんだろうなぁと直感した。


「コラットの工作員が女神像にある術式を施し、おそらく女神像が瘴気を集めて浄化する機能から、集めた瘴気から魔物を作り出すように細工したものと思われます」


 鼻血を出しながら説明しているが、ようやく魔物が現れた原因がわかった。


「魔物の出現を止める方法はわかるか?」

「調べてみれば、もしかしたら何か解決法がわかるかもしれませんが、なんとも……」


 ミルキーが言うが、その言葉には覇気はない。

 フリオとスッチーノもかなり疲れが見える。


「楠君、彼らは数日も迷宮の中に閉じ込められていたんだ。疲れも酷い。話はここから出た後にしよう」

「そうだな、数日もこんなところにいて、普通の人間が元気でいられるわけないか」


 俺達から一歩下がって会話に参加しなかったハルが俺の横に立ち、


「ご主人様、ではミルキーさんは私が背負っていきます」

「だな、男達は走ってもらうか」


 とてもではないが、女神像まで彼らを連れていくことはできない。


「ジョー、俺は元気だぞ?」

「ジョー、私も元気よ?」


 お前らは普通の人間じゃないだろうが。


「外まで一気に逃げるぞ」


 俺がそう提案した――が、


「ちょっと待った!」


 思わぬところから声が上がった。

 金色の羊毛を背中に背負ったスッチーノだ。


「あんた達、ここに来たってことは強いんだろ? なら、女神像の場所まで行こう!」

「……僕は構わないが、君たちはいいのかい?」

「もちろんだ」


 鈴木の問いに、フリオは何か言おうとしたが、スッチーノがそれを遮り、大きく頷いた。

 このスッチーノって奴、かなりの正義感の持ち主だ。

 金色の羊毛を背中に背負っているから、てっきり、金目の物は決して置いていかない、かなりの守銭奴の男かと思っていたが。


「あんた達も証人になってくれ! 俺達の仕事はある物を女神像の前に置いてくることなんだ。そうしないと、報酬が貰えないんだよ」

「おい、スッチーノ! そんな仕事、適当に捨ててくればいいじゃないか!」


 フリオが怒って言う。


「いや、フリオ! この人達はかなり強い。それなら、しっかりと女神像の前に置いて、この人達に証明してもらえば依頼人も納得するだろ!」


 ……訂正、かなりの守銭奴だった。


 でも、本当にいいのか?


「大丈夫なのか?」


 ミルキーやフリオもかなり疲れているように見えるが。


「あぁ、大丈夫だ。俺はエリーズと一緒ならどこまでも行けるからな」

「私も、ジョフレと一緒ならどこまでも行けるわ」

「エリーズ」

「ジョフレ」


 抱き合おうとするジョフレとエリーズに対し、


「お前たちには聞いてねぇ!」


 と俺はスラッシュの攻撃でふたりの間を切り裂いた。

 そして――ケンタウロスはもっとニンジンをくれとばかりに、ジョフレの持っているアイテムバッグを口に咥えて引っ張っていた。

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