迷宮への突入
敵地へといきなり乗り込んだ俺達。
鈴木、無茶し過ぎだろ!
「くそっ、ハル、行くぞ! キャロとマリーナはワイバーンの上にいろ!」
ハルが飛び降り、俺はキャロを後ろに下ろすと、彼女に続いて戦場へと舞い降りた。
先に鈴木が剣で戦っていた。
このような状態だと魔術師なら防御力が足りない。
無職以外の職業を、剣士、拳闘士、槌使い、見習い鍛冶師へと変更した。
「鈴木、ワイバーンを上空へ飛ばしてくれ!」
こんな乱戦状態だと俺と一緒にいたほうが安全だなんて言っていられない。
俺の懇願に、鈴木は苦笑し、
「最初から君たちには援護だけを頼むつもりだったが、一緒に降りて戦ってくれるのか?」
と俺達に訊ねた。
最初からそのつもりだったら先に言っておけよ。
とはいえ、俺もここで「あ、そうなの? じゃああとは任せた」と言えるほど薄情ではない。
そして、それはハルも一緒だ。
「あぁ、俺とハルなら大丈夫だ。早く!」
アイテムバッグから取り出した剣で、獅子の前足での攻撃を躱して、魔物の首を切り落とし、俺は叫んだ。
「わかった! ポチ! 空で待機してろ!」
鈴木の叫びに、ワイバーンは答えるように上空へと舞い上がった。
「おい、ワイバーンってポチって名前なのかよっ!」
「そうだ。ペットの名前といえばポチだろ?」
自信満々に鈴木が説明をしながらも、スラッシュで道を切り開く。
……ポチって、どう考えても犬の名前だろ。
ツッコミを入れる余裕はなさそうだ。
鈴木のスラッシュの攻撃により、魔物の群れが俺達を排除するべき敵とみなしたようだ。
「楠君とハルさんは背中を合わせて戦え! それで楽になる!」
「駄目だ! それだとハルの動きを封じることになる!」
彼女の持ち味は身のこなしの軽さだ。
俺を背にすることで、彼女は敵の攻撃を躱すことができなくなる。
「ご主人様の仰る通りです」
敵を倒しながら、横目で見るハルの動きに、俺は心を奪われそうになった。
後ろに目があるかのように、360度どの方向からの攻撃も躱しては、急所、急所へと攻撃をしていく。
これがハルの戦い方か。
そう思った時、俺の背後の敵が風の矢で打ち抜かれていく。
そして、少し離れた場所で魔物が暴れ始めた。
上空からのマリーナの魔弓、キャロの魅了による援護だ。
だが、周囲の敵の数は減るどころではない。迷宮の中から増えている様子だ。
「急げ、迷宮の中にツッコムぞ!」
ここで戦い続けても迷宮から溢れる魔物の数が減るとは少しも思えない。鈴木の判断は正しいだろう。
クールタイムが終わったため、再度、鈴木がスラッシュを放ち、突破口を作り出す。
凄いな――第一職業しか持っていないのに、その威力は俺と遜色のない威力がある。
職業が最上級の職業であるだろうと同時に、剣の違いもあるのだろうな。
俺の持っている鋼鉄の剣とは違う高性能の剣だろう。
迷宮の中に走っていく。
落ちている魔石を拾う余裕なんて当然ない。
先程鈴木のスラッシュで魔物がいなくなったはずなのに、もう通路は魔物で満たされていた。
「スラッシュ!」
鋼鉄の剣でスラッシュによる攻撃。先ほどの鈴木の攻撃に対抗して力を込めた。
威力はかなり上昇している。
数十体の魔物が斜めに切断されて霧散した。
「やるねぇ……楠君ってそんなに強かったんだ」
鈴木は苦笑するように言った。
「まぁな。これでも結構いい天恵を貰ったんでね」
俺の力の秘密の大半は無職によるものなんだが、それは言ったらいけないという女神様との約束だ。
「よし、このまま一気に奥まで行くぞ!」
俺はそう言い、そして曲がり角を曲がった。
一気に行けそうにない……な。
曲がり角を曲がったらまた魔物の群れがいるっていうんだから。
こりゃ最奥に行くまで一体何時間かかるんだ?
そう思った時だ。
「なんだ?」
ものすごい勢いで何かが走ってきた。
……新手か?
その魔物(?)は目に見える魔物達を跳ね飛ばしてこちらに近付いてきて、
「止まってぇぇぇっ! ケンタウロスゥゥゥっ!」
「止まれぇぇぇぇっ! ケンタウロスゥゥゥっ!」
エリーズとジョフレ、ふたりの声が聞こえたと思ったら、俺達3人はジョフレとエリーズ二人を乗せたケンタウロスに跳ね飛ばされた。
跳ね飛ばされながら見たケンタウロスの姿は――首につけた棒、そこから吊るされたニンジンを必死で追っていた。
かつて俺が教えたケンタウロスの暴走のさせ方を忠実に再現させて。