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閑話 成長の限界

 ダキャットにある迷宮の奥深く。

 女神像のあった場所から魔物の群れが溢れ出て、その動きを止めることはない。

 ダキャットの迷宮から現れる魔物は、獣系の魔物が多いが、初心者用の迷宮のはずなのに、その魔物の強さは中級クラスから上級クラスとなっている。

 そんな魔物の群れに混じり、金色の毛を持つ羊が出口に向かって歩いていた。

 金毛羊と呼ばれるその羊は、レアモンスターであり、本来なら滅多に現れることがない。

 だが、通常の数倍、数十倍、数百倍のスピードで魔物が現れる。

 その金毛羊が、足を銀色の金属鞭にからめとられ、本来のルートとは外れた袋小路の通路へと連れ込まれていく。


 金毛羊は「めぇぇぇぇぇっ!」と悲鳴をあげるが、他の魔物は見向きもしない。


 そして、金毛羊が見たものは、鞭を持つ女とそれを引っ張る三人の男。

 エリーズ、ジョフレ、フリオ、スッチーノだった。


「かかれぇぇぇっ!」


 ある程度引きずり込むと、ジョフレの合図で男達は持っている武器で金毛羊へと飛びかかった。

 金毛羊は凶暴ではない、中級クラスの迷宮に出てくる魔物の中では弱い魔物だ。

 つまりは三人がかりなら倒せるレベル。


 後ろ足で思いっきり顔を蹴られて青痣を作りながらもジョフレの持っていたエクスカリパーがトドメを刺した。


 金毛羊は、ラム肉と金毛羊皮とレアメダルを落とす。


「ふひひ、また出たぞ、フリオ、金毛羊皮だ」


 スッチーノは落ちた金色の羊毛を、まるで赤ん坊のように優しく抱きかかえた。

 ただし、その羊毛を見る目は、赤ん坊を見る親とは違い、欲望に満ちていた。

 セーターならば三着は作れる量の羊毛だ。

 とても貴重な品であり、成金趣味の貴族や金持ちが好んで使う。

 これだけの量なら、売れば1万センスにはなる。スッチーノがはしゃぐのも無理はない。


「本当にいいんっすか? 全部俺達がいただいちゃっても」

「おぉ、その代わり俺達はこっちを貰っているからな」


 ジョフレはレアメダルを拾い、それを後ろにいるスロウドンキーのケンタウロスの口に運ぶ。


「しっかり食べてね、ケンタウロス」

「よく噛んで食べるんだぞ、ケンタウロス」


 ケンタウロスは口を開き、レアメダルを口に含むとそのまま飲み込んだ。

 魔物が好んで食べるレアメダルだが、よく噛んで食べるというのは無理な注文だったようだ。


「また成長している。もうそろそろ行けると思う」


 ミルキーはケンタウロスの体の変化を見て呟いた。

 ここにいる五人と一頭の中で一番力があるのは間違いなくケンタウロスだ。

 そのため、ここから脱出するのにはケンタウロスの力が必要であるのだが、従来の状態では力不足ということでレアモンスターを倒し、レアメダルを食べさせることにした。


「限界は来ているのか?」

「限界はまだ」

「なら、もう数枚食べてもらおうぜ。まだ俺達の飯も残ってるし」


 アイテムバッグの中から白パンを取り出して、ジョフレは語った。


「ジョフレ、ラム肉焼こうよ!」

「おう、ジンギスカンだな!」


 さっき落ちたラム肉を持ち上げて、エリーズは笑顔で言った。


「うん、でもジンギスカン鍋も野菜もソースないけどね!」

「じゃあ、ジンギスカンのジンギスカン鍋&野菜&ソース抜きだな」


 ミルキーが札に文様を書き、岩の下に仕込む。

 札から熱が放たれ、岩が熱せられる。その上に、フォークを使ってエリーズがラム肉を並べていった。


「ジンギスカンのジンギスカン鍋&野菜&ソース抜きって……ただの羊の焼肉だろ」


 スッチーノが冷めた口調でそう言った。

 肉が焼ける匂いが充満しても、草食の魔物はおろか肉食の魔物ですらこちらに近付こうとしない。

 その異常性に危機感を覚えながらも、ミルキーは、ジョフレが置いたパンを食べるケンタウロスを凝視した。

 先ほども言ったように、ケンタウロスの限界はまだ迎えていない。

 それが異常だった。


(本来、通常の魔物ならレアメダルを2枚食べたらそれ以上成長することはない。限界値が高いという竜族でも5枚から10枚食べたら限界を迎え、それ以上は成長しないはずなのに)


 ジョフレが先に渡した2枚、そして今回7枚、合計9枚のレアメダルをケンタウロスは食べている。

 なのに、まだまだ限界を迎えるようには見えない。


(なに、この魔物――本当にただのスロウドンキーなの?)


 ミルキーはこの謎の魔物の飼い主であるジョフレとエリーズを見た。

 ジョフレはよく焼けた肉をフォークで突き刺し、エリーズに食べさせていた。


(この人達は気付いているの? この魔物の異常性に……)


 訊ねようか?

 そう思った時だ、


「フリオも食べろ、ほら、口を開けろ」

「じ、自分で食べられるっすよ!」

「いいから口を開けろって」


 フォークに突き刺した肉をフリオの口に無理矢理ツッコム。

 その日常ともいえる光景を見て、


「ふ……ふへへへへへへへ」


 ミルキーの腐女子フィルターが正常に作動し、ミルキーの頭は桃色の彼方へと飛んでいった。

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