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ワイバーンの上で

「……鈴木、もっと低く飛ばないか?」


 ワイバーンに五人乗り。

 このワイバーン、翼はとてつもなく大きいが胴体は小さい。安定しているのは頭の上と首の上、そして背中の上の三ヶ所くらいなものだ。首の部分に鈴木が座り、俺とハルが背中の上に座ったところで定員オーバー。

 もちろん、そこもそれほど広いわけではないので、ハルが俺にしがみつく形になっている。背中に二つのおっぱいを感じる。こんな場所じゃなかったらもっと楽しみたい二つのふくらみの感触だ。

 こうなると、他の人が座る場所がない。というわけでキャロに至っては俺が肩車している。

 飛竜の上で肩車ってかなり怖いだろうと思うが、キャロは完全に俺のことを信用しているらしく、むしろ高所を楽しんでいるようだ。いつも低い位置から物を見ているから高いところが好きなのだろうか?


 ……キャロを肩車する経験は二度目なんだが、これは何か凄いな。下手したら癖になる。

 女の子の太ももの感触をここまで意識できる姿勢はないだろう。

 もっとも、ただでさえ不安定なこの場所で肩車をしているのだ。俺は姿勢を保つのが精いっぱい。

 背中のおっぱいの感触も、顔にあたる太ももの感触も堪能する余裕なんてどこにもなかった。


 ちなみに、マリーナだけはさらに尻尾付近の不安定な場所にいるのだが、大道芸人の特性でどんなバランスの悪い場所でも落ちることはないそうだ。


 全員乗れているとはいえ、現状を見るだけでも定員オーバーは明らか。落ちないか心配だ。


 本当は俺だけ行こうと言ったのだがハルが自分も行くと言い出し、キャロも自分の能力がさっきみたいに役に立つからとついてくると言い出した。マリーナに至っては、「我の血が戦いを望んでいる」などと意味の分からないことを言い出した。

 まぁ、全員一緒にいたほうが、いざとなったらマイワールドの中に引きこもれるからそのほうが都合がいいだろうと判断。


「大丈夫だ、このワイバーンはレアメダルをすでに七枚食べている僕の優秀な相棒だ。この世界に来てすぐに出会ったからな、もう一年になる」

「この世界に来てすぐにワイバーンに出会ったのか!? よく生きてられたな」


 ちなみに、俺がはじめて出会った魔物はウサギだった。

 ウサギの体当たりがそこそこ痛かった。その後はコボルトに殺されかけたりもした。

 もしも俺の最初のエンカウントがワイバーンだったら、「なにこのクソゲー」と言って死んでいたことだろう。

 俺がはじめて鈴木のことを尊敬していると、


「いや、出会った時はこいつはまだ卵だったんだ。刷り込み現象で僕のことを親だと思っているらしい」


 と訂正が加わった。

 なるほど、そういうことか。


 そして、俺は下を見る。

 高度200メートルくらいだろうか?


 落ちたら死ぬな。

 いや、落ちたらすぐにマイワールドを唱えて俺の世界に入ったら鈴木以外は助かるか。


「にしても、お前はどこでもこんなことをしていたのか?」

「こんなことって?」

「正直、お前はわざわざフェルイトを助ける義理もないだろ? 俺が言うのもなんだけどさ、俺達は100%安全マージンを確保できる戦い方があったから参戦しただけで、お前はそうじゃないんじゃないか?」

「たしかに……100%安全な戦いではないね。いや、僕が挑んできた戦いは危険なものばかりだったよ」


 鈴木は自嘲するようにそう言った。


「でも、これは僕が望んでしまったことだからね」

「お前が望んでしまったこと?」


 望んだことならわかる。そういう生き方を自ら望んでしているってことだろう。

 だが、望んでしまった……その妙な言い回しに俺は聞き返した。 


「僕の天恵はね、主人公補正って言うんだよ」

「……は?」

「ほら、よくあるだろ? 敵が銃を撃っても全く当たらないアクション映画の主人公や、行く先々で事件に巻き込まれる推理小説の主人公。出会う女の子は全員美人ばかりだったり、殺されそうになったら謎の助っ人が現れたり、敵の足場が崩れたりするってやつ。あれが主人公補正さ。僕は女神様からそういう能力を貰ったんだ」


 鈴木は笑いながらそう言い、


「実は君にジャンケン勝負を挑まれたとき、あまり嫌がらなかったのは、幸運値だけでなく主人公補正に頼ったところもあるんだよね」


 と説明した。

 主人公補正か。

 確かに、ただ女の子と面白おかしく過ごしてきた俺と違い、鈴木の話を聞くと、本当に物語の主人公のような冒険ばかりしてるものな。

 ん? ということは、もしかして、


「主人公補正って、つまりはいいことばかりじゃないってことか」

「そうだよ。さっきも言っただろ? 行く先々で事件に巻き込まれる推理小説の主人公もまた主人公補正によるものなんだよ。自慢じゃないが、僕はどの町に滞在しても、三日間何も起きなかったことはないよ」


 うわぁ、それはめっちゃ悲惨な天恵だな。巻き込まれ体質でもあるわけか。

 悲惨度でいえば、マリナの職業大道芸人解放といい勝負だな。いや、大道芸人も極めてみればさっきのように百発百中の弓の名人になれるわけだし、もっと悲惨かもしれない。

 そりゃこの世界に来てすぐにワイバーンの卵なんてもの拾ってしまうわ。


「はぁ、俺は主人公じゃなくてよかった」

「はい、イチノ様は主人公ではなくキャロ達のご主人様ですから」


 俺の頭上でキャロが言った。

 うまいこと言われた。

 いや、別にそれほどうまくないか。


「楠君、下を見てみなよ」


 ワイバーンの首に座っている鈴木が俺を向いて言う。


「おい、肩車している状態で下を向けるわけないだろ! 何が見えるのか説明しろ!」

「あ、そうだよね。ごめん。下に魔物の群れがいるんだ。フェルイトへ向かっている」

「そりゃ、はやく退治しないと」


 どこかに着地してもらおう。そして、乗り方について再考しよう。

 そう思ったが、鈴木は首を横に振る。


「今、君の後ろでマリーナさんが魔物の群れに向かって魔弓を射ているけれど、僕達は元凶を叩きに行くからここには降りない。この魔物は僕の仲間に任せてもらえないかな?」

「……あぁ、わかった。マリーナ、お前はできる限り敵の数を減らしておいてくれ」

「言われなくてもわかっている。イチノよ、レベルが上がったぞ」


 マリーナの声が聞こえ、俺は少し安心した。


【イチノジョウのレベルが上がった】


 ……あ、俺もレベルが上がった。魔術師のレベルが上がったようだ。

 そうか、マリーナの倒した経験値のうち、倒した魔物の経験値の1/2をマリーナが受け取り、残り1/2は四等分。つまりマリーナが5/8で俺とハルとキャロが1/8ずつ経験値が入る。

 うーん、楽でいいな。


 って……待て、勿体ない勿体ない!

 俺の職業、4つ中2つがカンストしている。

 経験値が勿体ない。

 とりあえず、火魔術師と土魔術師をつけた。


 1/8の経験値とはいえ、俺はレベルアップに必要な経験値が1/20で済む特典があるからな。

 これでレベルが上がるだろう。


 火魔術師も土魔術師も、レベル1の段階だとカンストしている状態の見習い魔術師や見習い法術師ほどは強くはないが、同じレベル1の時と比べると倍近いステータスがある。


 MPは高ければ高いほどいいからな。

 これらの職業レベルは上げて損することはない。


「見えた! あそこだよ!」


 鈴木が言うあそこ――あそこってどこだよ。

 俺は下を向くことはできないんだって。


「これから突っ込む。戦闘の準備をして」


 突っ込む!? え、まじで下はどういう状況なんだ?

 高度が低くなっているのはわかる。

 が、直後、大きな振動が俺を襲い、横を見るとそこは――魔物の群れの真っただ中だった。


 今すぐ引きこもりたい、素直にそう思った。

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