GO NORTH
拠点に戻ったアルオンは、荷物をまとめ終えたメンバーに北へ向かうように指示を出し、皆を馬や馬車に乗せカルキオ山脈へと出発した。
「カルキオ山脈か…あの辺りは数年前から異常気象で、年中雪が積もっているみたいね」
隣を馬に乗り進むベーティアも、アルオンがいない間に近辺の情報を調べていてくれたようだ。
「異常気象か、興味深いな。まぁ、寒さに関しては大丈夫だろ。防寒具なら備えがあるし、足りなかったら現地でいくらでも調達できるさ」
「それもそうね」
年中寒いのなら、その地域には良い防寒具が揃っているだろう。この機会に買い替えておこうか。
今度は反対側を進むシーメリアが馬をこちらに寄せてきた。
「寒いのは、苦手。でも、雪は好き」
「シー、一応聞くがなんで雪が好きなんだ?」
「罠、隠しやすいよ?」
「さいですか…」
…うん、聞かない方が良かった。
心を切り替え、強く念じてシュトゥルムとの会話を試みる。
(おいシュトゥルム、応答しろ)
(ンダヨ、気持チヨク寝テルトコロダッテノニ…)
(すまんな。いきなりで悪いが、雪に関係するENC:RAVEに心当たりはないか?)
(ンー…雪トイエバ《いぜりぐ》ノ野郎カ?熊ト象ノ混合体デ、氷ノ力ヲ持ッテル上位ノENC:RAVEダ)
アルオンはまさかと思い聞いてみたのだが、案外ENC:RAVEの内部勢力に内通しているようだ。これからはシュトゥルムの意見も参考にさせてもらおう。
(イゼリグってのと直接会ったことはあるのか?)
(カカッ!ナァニ、心配スンナ。オレニカカレバヒトヒネリヨ!)
(参考にならない意見をありがとよ)
(ンダトコラ!貴重ナ意見ニ…)
長くなりそうだったので、アルオンは意識を強制的に切り替えた。
山脈を根城としているならば、探索に時間がかかるだろう。それに備えて長期間目立たない拠点を見つけなければ。
先頭のアルオンは、後方のメンバーに向けて今後の動きを指示した。
「お前ら!山脈付近まで到達したらまずは拠点探しだ!焦るなよ!」
「わかってらぁ隊長!」
「了解だリーダー」
「侮ってもらっては困りますぞアルオン殿」
実はこのとおり、メンバーからの呼ばれ方が安定していないのだ。今のところ、隊長、団長、リーダー、頭領、親方、等々。
多様な地方から同志を集めたためか、こうなってしまったのだが、いざというときはやってくれる頼もしい仲間だと分かっているのでアルオンはあまり気にしていない。
「あんたたち…いい加減呼び方統一しなさいっての!」
「わかりやしたよ副隊長」
「了解だ副リーダー」
「そうカッカなさるな夫人」
「ばっ、ちょっ、違うから!?最後の!後で覚えておきなさいよ!もう…」
振り返ると、ベーティアは顔を真っ赤にして腕をぶんぶんと振っていた。よほど頭にきたのだろうか。
「ティア、落ち着け。馬から落ちるぞ」
「分かってるわよ!」
「ティア、羨ましい」
「シー!」
「きゃー」
後方から笑い声が聞こえてくる。思えば、もう五年もこのメンバーと過ごしているのか。発足から多少増減はしたが、今ではもう家族同然だ。
(……相棒、一応言ッテオクガ、アマリ情ヲ入レ込ミスギルナヨ。失ッタ時ニ一層辛イカラナ)
何を察したか、シュトゥルムの方からアルオンに話しかけてきた。それは、ENC:RAVEには敵わないとでも言いたいのだろうか。
(馬鹿言うな。俺はもう失わない。全て守ってみせる)
(カカッ、イツカ後悔スルゼ)
シュトゥルムはそれ以上何も言わなかった。もう眠ってしまったのだと分かっていたが、アルオンはシュトゥルムに向けて強く宣誓した。
(俺は全てのENC:RAVEをこの世から排除する。それだけは覚えておけ)
(………………)
やはり返答は返ってこなかったが、アルオンは返答を待たず意識を切り替え、カルキオ山脈近辺に到着した後のことを考え始めた。
どうも、肉付き骨です。
毎度更新ペースが不定期な上、遅くて申し訳ありません。
次回から雪に閉ざされたカルキオ山脈編に突入するわけですが、まだ内容が大まかにしか決まっていないため遅くなってしまいそうです。
読者の皆さんには気長にお待ちいただけると嬉しいです。