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B:RAVE  作者: 肉付き骨
4/9

ATTACK

「アル、入っていい?」


 アルオンが約束の夢のことをぼんやりと思い出していると、テントの外から声が聞こえた。


「待ってろ、今出るから」


 すぐに起き上がり入り口の幕を開けると、青い髪を左右で括った小柄な少女が立っていた。


「やっぱりシーか」


 彼女がシーメリア。

 三人の中で一番年下で、アルオンより三つ、ベーティアより二つ年下である。

 感情の起伏が小さくて口数が少なく、表情もあまり変化しないので何を考えているか分からないと言われているが、アルオンとベーティアは付き合いが長いためなんとなく分かるようになっている。


「差し入れ、持ってきた」


 シーは後ろ手に持っていた包みを手渡してきた。


「お、ありがとな。中身は…握り飯か!料理長によろしく言っておいてくれ」


 そう言うと、シーメリアは首をかしげてしばらく考えるような素振りを見せた後、手のひらをポンと打つと、今度は首を左右にふるふると振った。


「違うよ、私が作った」


「お、おぉ…そうだったのか…」


「?アル、がっかりしてる?」


 シーメリアは悲しそうに少しうつむく。アルオンはシーメリアを悲しませまいと、覚悟を決めて握り飯を掴んだ。


「いや!そんなことはない!早速いただきます!」


 意を決し握り飯にかぶりつく。吐き出してしまわないように構えた。



 が、普通の塩握りの味だった。



「うん、美味い!」


 シーの成長を喜び、あっという間に一個食べ終えてしまった。


「アル、本当の自信作はこっち。そっちのは誰だってできる」


 誰だってできる。彼女が言うと妙に説得力がある。

 シーメリアは残ったもう一つの握り飯をずいとアルに押し付けた。

 見た目は先ほどの握り飯と変わらず、なんの変哲もない。こちらも実に美味しそうだ。


「そうなのか?じゃあこっちもいただきます」


 今度は疑うことなく丸ごと口に放り込んだ。


「むぐ!?」


 しかし、アルオンの期待を裏切り、口の中には鉄のような味が広がった。

 それを無理矢理飲み込んでからシーメリアを問い正した。


「シー、正直に言えよ?具に何入れた?」


「精が付くように、ヘビとカメの生き血の煮凝りと、長芋と、ウナギ」


 生き血。それだけでもインパクトがあるが、しかしまだ足りない。シーの目が完全に泳いでる。


「正直に、だ」


「……と精力剤」


「せめてまともな食材を入れてくれ!」


 アルオンはテントに置いてあった水瓶に顔を突っ込み、がぶがぶと水を飲んで胃の中のものを希釈した。


「アル」


「なんだ?」


 水を飲みながらシーメリアを振り返る。


「ここで押し倒しても、いいよ?」



 ブーーーーーッ!



 シーメリアの爆弾発言により、アルオンは口にふくんでいた水をシーメリアに向かって盛大に吹き出した。


「アル、ひどい…」


「シー!いいかげん言わせてもらうぞ!?バカ!さっさと料理長の手伝いに戻れ!」


「アルが怒ったー」


 シーは脱兎の如くテントから飛び出していった。


「あいつ…絶対反省してないぞ…」



 シーメリアの襲撃の後、ベーティアが食事を届けてくれて、なんとか舌も回復した。


 今は夜。


 テントを抜け出すなら今しかない。

 テントからそっと顔を出して辺りを窺う。よし、誰もいない。

 素早くテントから抜け出し、裏にある森へ入った。

 ここからが危ない。シーメリアとベーティアが敵襲に備えて設置した罠が点在しているのだ。


「よっ、ほっ、と」


 ベーティアが仕掛ける罠は敵襲を報せるための物なので危険度は低い。

 一番危ないのはシーメリアの罠。これは敵を撃破するための物だ。

 撃退ではない。撃破だ。


「これはこれでっ、いいっ、運動にっ、なるっ」


 罠を避けつつ目的の場所へ向かう。

 訓練にちょうどいい、森の中の空き地へ。


「お、見えてきた……っ!?」


 異変に気づき、息を殺して姿勢を低くする。


(誰か…いる?)


 草むらに潜み様子を窺う。


 反乱軍の誰かが見張っているのかと思ったが、違うようだ。


 一人ではない。複数。

 見覚えのない顔ばかりだ。

 真ん中に大きなランプが置いてあるおかげでよく見える。

 耳をすますと、話の端々が聞き取れた。


「どうやら……………反乱軍が………………間違い無さそうだ」


「罠…………近寄れん」


「奴らに…………懸賞金は…………いただく」


 仕掛けすぎた罠が仇となったか。

 それに懸賞金。いつの間にそんなものが懸けられていたのか。


(もう少し近くに…)


 ガサッ


「誰だ!?」


 まずい。気づかれたか。

 どうする、獣の真似で…


 グゥルルルルルル


…………………


 やばい。腹鳴った。


 腰の小刀(こがたな)に手を伸ばす。


「気をつけろ!」


(黙ってろ馬鹿!)


 小刀に伸ばした手を胸に戻して、黒く塗った投擲とうてき用の針を五指の間に挟むようにして持つ。


(これでも食らっと…)


「猛獣がいるみたいだ!」


…………………


 振りかぶった腕をゆっくりと引き戻し、針をしまった。

 彼らの勘違いにホッと胸を撫で下ろす。

 馬鹿で助かった。

 それとも、それだけ俺の腹の虫はすごかったのだろうか。


「畜生!もういい!猛獣ごと罠も一緒に焼き払え!奴らを炙り出す!」


(くそっ、逆効果だったか)


 パニックになった彼らは、木片にランプの火を移し、ランプを背に、囲むように円になって周囲を警戒し始めた。


 むしろ好都合か。すぐに火をつける様子ではない。


 近くにあった石を右側遠方に向かって投擲。


 ガサッ


「いたぞ!こっちだ!」


 わらわらと石が落ちたところへ集まっていく。


(今だ)


 音を立てないように走り、ランプを蹴っ飛ばして壊した。


「なんなんだいったい!」


 火をこちらに向けようとする彼ら。しかしアルオンはそこを動こうとしない。

 そこに前触れもなく突風が吹き荒れた。


「うわっぷ!」


 巻き起こる突風で火が掻き消される。


「クソッ!暗くて見えねぇ!」


「敵襲!敵襲!ぐあっ」


(うるさい、黙ってろ)


 あいつらが起きちゃうだろ。


 首の後ろに手刀を入れ、一人目の男を昏倒させた。

 そいつをを仲間へ蹴り飛ばしてやる。


「てめぇ、なにしやがる!うっ」


 飛んできた仲間に気を取られたもう一人の顎に右フック。

 よし、まず二人。


 だんだん動きやすくなってきた。


 あとは…五人か。


(一気に終わらせるぞ)


「誰だお前は!?」


 答える馬鹿がいるか。


 足下で木の葉が舞う。


 ヒュンッ


「き、消えっ!?ぐっ」


 鳩尾に、早さを乗せた強烈な蹴りを打ち込む。

 木々の間を縫う風のように駆け、すれ違う瞬間に人体の弱点を突いていく。

 次々に倒れていく敵。


(ラスト!)


 しかしそこで相手が予想外の動きをした。


「っざけんなぁ!」


 持っていた剣をぶんぶんと振り回したのだ。


 シュッ


「っ」


 肩を浅く斬られた。でたらめに振り回した剣に当たってしまうとは。まだ制御できないか。


 しかし動きは止めない。


 小刀の柄で脇腹を殴る。


「ぐっ!」


 倒れこむ男。だがまだ気絶させない。

 アルオンは男の腕を縛ってから、他の奴を縛り、それから男の目を覚まさせた。


「待て、眠るのはまだ早いぞ」


「ぐっ…お前、何者だ…」


「まず質問に答えろ。どこでここの情報を得た?」


 小刀を首筋に添えて答えるように促す。


「フィ、フィルの街の酒場だ」


「の、誰だ」


「片眼鏡かけたマスターだよ!この森に弱小反乱軍が潜んでるらしいって!」


 ………あいつか…


「解放してやるが、他の奴にここのことは言うな」


「わ、わかった!それよりお前は何者なんだよ!?」


「俺は、アルオン・ソリア。反乱軍《一迅の風》のリーダーだ」


 そう言うと、男は顔を真っ青にしてわめき散らした。


「クソッ!あのジジィ!とんだガセネタ掴ませやがって!一迅の風っつったら…畜生!」


「いいか、もし情報をばらせば、うちの暗殺者がお前を殺す。わかったらこいつら連れてとっとと失せろ」


 男の縄を解き、仲間のもとへ蹴ってやった。

 何を思ったか、男がこちらを振り返った。


「あんた、傷はどうした…」


「そんなもん負ってねぇ。さっさと失せろ!」


「ひぃ!」


 あのときのシーメリアよりも早く、男は仲間を引きずって逃げていった。


 しかし、危うく気づかれるところだった。


 B:RAVEの異能に。



 戦闘である程度体を動かすことができ、ついでに戦いの感覚も取り戻すことができたので、今晩はこのまま帰ることにしよう。


 帰り道も罠に気をつけながら、行きと同じルートを辿っていく。一度ルートに乗れればもうこちらのものだ。

 肩の傷はもう完全に塞がったようで、痛みは消えている。


(明日、あいつに文句言いに行かなきゃいけなくなったな…)


 今回は偶然気づくことができたため、反乱軍の野営地に被害を出さずに済んだが、アルオンが体を動かしに出なければ多少の被害は出ていたはずだ。


 いやしかし、もしかして、あいつの予想通りになったのかもしれない。


 賞金稼ぎに森の空き地の場所を教え、いつもそこで特訓をするアルオンと鉢合わせするように仕組んだのか。


「それだとかなりのリスクが…」


「おかえり、アル?」


「生じ…てぃ、ティア!?」


 しまった。無意識の間に野営地に着いていたようだ。


「ちょ、ちょっと用を足しに行ってただけだ!」


「なんでそれだけで服の肩が裂けてんの?」


「ほら、あれだよ、枝に引っかけちまって」


「…ふーん…」


 腰に手をあて、アルオンの全身を見回すベーティア。絶対信じてないな。


「服は自分で直しとくから」


「はぁ…いいわよ、後で見せて。私が直すから」


 意外だった。アルオンとしては、これ以上怒らせまいと思って言ったのだが、今のベーティアはそれほど怒っていないように見える。

 むしろ呆れているようだ。


「いいのか?」


「ケガしてないならいいわ。ただ、次からは私にひとこと言ってからにして」


「え、用を足すのにいちいち?」


「違うわよ!もうバレてるっつの!」


 びっくりした。ベーティアが超過保護に、ついて回ろうとしてるのかと思った。


「わかったよ。次からはそうする」


「無茶は許さないけどね」


「了解した…」

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