WAKE UP
「夢…か」
気だるげに身を起こした青年は全身に残る傷みに耐えながら、身支度をゆっくりと(二人にはそれでも早すぎると言われるが)始めた。
「懐かしい夢だったな」
最低限の武器をしまってあるジャケット。
小道具を詰めているポーチ。
動きやすさを優先させたシンプルな長ズボン。
要所要所を守るプロテクター。
腰には小刀。
反乱軍のリーダーたるもの、いつでも戦える準備ができていなければ。ここまでの所要時間、九秒と少し。いつもなら急がずとも七秒は切るのだが、やはりまだ万全ではないか。
休んだ三日分の衰えをここで解消しておかなければ。そう思いテントを出ると、人がいることに気がついた。
「おはよう」
「なーにがおはよー、なの!アル!」
「んがっ!?」
テントを出て早々、片手で顔面を掴む技、アイアンナックルを食らうとは思いもしなかった。
「あと二日は安静にしとけって言われたでしょうが!」
「ごえんあはいごえんあはい!おおっへえあひゅ!」
(ごめんなさいごめんなさい!戻って寝ます!)
「何言ってんのかわかんないっつの」
今、青年アルオンの顔面を掴んでいる理不尽な赤いポニーテールは、ベーティア。
アルオンは彼女の腕をタップして放してもらい、ようやく話せるようになった。
「ティアが放してくれないから上手く喋れなかっただけだ」
「知っててやってんのよ。いいからほら、回れ右」
「わかったから急かすなって」
三日も寝たままだったため、衰えた筋肉を鍛え直そうと思い起きてきた結果、厄介なやつに見つかってしまった。
ベーティアは十年前、まだS:RAVEであることを当然だと思っていた頃、優しい老夫婦に雇われた三人のうちの一人、老婆をおばばさまと呼んでいた方だ。
「シーはどうしてる?」
シーとはシーメリアの愛称で、老婆をおばあちゃんと呼んでいた方である。
ベーティアの示す先には、壁の無い黄色い大きなテント。五十人は入ることができる。
「今日は料理当番だから、たぶんあっちで手伝いしてると思うよ」
「手伝い…ねぇ…またメシに変なアレンジ加えなきゃいいけどな…」
「大丈夫、料理長もシーの料理の腕はわかってるから死んでも目離さないと思う。そうじゃないと危険だって」
「頼むぜ料理長…」
前に一度、料理長が風邪で寝込んだときに、どうしてもと言うシーメリアに朝飯を作らせたところ、シーメリアとアルオン以外の反乱軍のメンバー全員まで寝込むことになった。
要するに、シーメリアの料理はちょっとした兵器に成りうる超危険なモノなのである。
シーメリアの悪夢はもう二度と起こしてはならない。
「そういえば、なんでアルは平気だったの?」
「ああ、俺のはスプーンですくったらスプーンが…溶けた」
「アルのだけ本当に兵器じゃない!?」
「あの時は本当に恐かった……急いでみんなに報せようと周りを見たんだけど、スプーンが溶けたのは俺だけだったから、誰かに命を狙われているのかと思ったよ」
本当はスプーンが溶けたりなんかしていない。アルオンはあの料理を口にした。
「不幸中の幸いってところね……まあ、料理ができたら持っていくからアルは大人しく寝てなさい」
「他のみんなも大事無いか?」
「いいから!無理しないで他人のことより自分のことを心配しなさいって!」
ベーティアは荷物を鞄に詰め込むようにアルオンをテントに押し込むと、さっさとどこかへ行ってしまった。
「無理しないで、か」
あの人との約束。
『たとえ世界を変える身だとしても、この能を知られれば化け物扱いされる。決して明かすな、決して明かされるな。』
それがB:RAVEの運命と、B:RAVEの祖、ヴェリックは言った。