ボールペン
「またもや見つかる。3つ目の目玉。猟奇殺人か?専門家は性的に未熟で欲望を抑圧された男性の異常行動と分析」
快速に揺られながら低俗な週刊誌に目を通す。終電の車内でいつもと変わらないくだらない毎日の日課をこなす。
しかし今日の見出しはいつもの低俗な某有名人のスキャンダルやゴシップものではなかった。ボールペンに突き刺ささった眼球……駅構内のトイレにて発見される……
はっきり言って異常だ。まず頭のイカれたサイコ野郎の仕業に違いない。人を殺すだけでも常識的に考えて普通ではない。なのに殺したうえ、目玉をボールペンで刺してくり抜く?洋画サスペンスならばありそうな事件だ。さらにこの事件が異常的に思えるのは、この目玉の持ち主が未だ見つかっていないということである…
週刊誌をカバンにぶちこみ、K駅に降りる。終電なのに降りる客が俺ともう一人だけ。田舎には極めてありがちな日常だ。秋もだんだんと深まり、気温もかなり下がってきている。
「トイレ行くか…」
黄色い玉をめがけて用をたしていると隣に人の気配を感じることに気付いた。おかしい。なぜ今まで気づかなかったんだろうか。もう一人の客はとっくに改札を出たはず…。いや、そんなことよりなぜ3つもある小便器なのに俺の横を使う?ちがう、そんなこともどうでもいい。なぜかこいつは俺の顔を真横から、しかも息のかかる距離で見ている?酔っぱらってるのか。
「なんだお前、なにを見…」
男の右半分が見えない。鋭い痛み。思わず後ろへこけそうになるのを必死でこらえる。
「なにが起きた。殴られたのか」
ふと右目を触ろうとすると痛い。何かが刺さっている…?あわてて鏡をみる。
「ボールペン…?」
そこで気を失ってしまった。最後に映像が途絶える前に覚えているのはあの男の顔だ。笑っているわけでもないし怒っているわけでもない。眉一つ動かさず、真顔で俺を見下ろしていた。
灰色のコンクリート壁。誰かが階段を下りてくる音…地下室だろうか。目が覚めてまず気づいたのは椅子に固定されまったく身動きが取れないということだった。そして何種類ものペンキや絵の具が地面に散らばっている。アトリエか何かだろうか。そういえば右目はどうなったのだろうか。不思議と痛みは感じないし冷静だ。この異常な状況に麻痺してるのだろうか。
「コツコツ…」
誰かが降りてきた。きっとあいつだ。サイコ野郎め。俺は玩具のように殺されるのだろうか。そんなことを考えていると男は俺を見ると少し笑みを浮かべ、指をある方向へ指した。ブルーシートが何かにかけられているようだ。ちょうど3つ。丸い形をしたものがある。
男は勢いよくブルーシートを剥がした。ああ。人間だ。俺と同じく椅子に固定された人間。ただ違うのは彼らはすでに死んでいる。ある者は右目。またある者は左目。片方の眼は暗闇だ。
俺は思い出した。あの下種な週刊誌の見出し。
「またもや見つかる。3つ目の眼球。遺体はどこに…」
これで4つ目か…