表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Strange of strangers.  作者: 工藤るう子
番外編
10/13

      待ち人







 ああ、あしたっから冬休み。


 語尾にハートマークをつけたい気分で、倫太郎は悪友達三人と校内を歩いていた。


 二学期後半はともかく波乱万丈だったけど、どうにかこうにか、終わりだ。


 あとは三学期で、中学ともお別れである。


 その前に、高校受験があるけど。


 最終の進路相談のとき、『何でこのやる気をもっと前から出さないんだ』と、担任に嘆かれたけど。母親はなんかいつものとおり、にっこりと笑ってただけだった。


(オレの成績がどんなに悪くっても、おふくろが怒ったり悲しんだりしたの見たことないよなぁ)


 なんでだろ。


 首を傾げた倫太郎は、ふと、窓から校門に視線を流した。


「どした?」


 どやどやと、悪友達が、倫太郎の見ている方向に前へならえする。


 黒地や紺地のサージのセーラー服や学ランのせいで、文字通り、黒山のひとだかりが出来上がっている。


 きゃあきゃあと女の子達のざわめきが、ここまで聞こえてくる。


「ひよこでも売ってんのか?」


「まさか」


「今時?」


「だよな」


 階段を下りて、下駄箱に室内履きを突っ込む。


「成績表見せるのが苦痛だなぁ」


 口々に、悪友達がぼやく。


「クリスマスにもひびくしな。お年玉にもひびく」


「クリスマスか。どっかで集まって騒がないか」


「受験前の景気づけってか?」


「もちろん」


「それすぎたら、全員ライバル一直線だし」


「ぎゃー! それ言うなって」


「オレら、どんぐりだもんよ」


「みんなで緑陰館高校に合格できりゃーいいよなぁ」


「一番の理想だ」


「じゃ、初詣でも行くか」


「いいな。元旦」


「で、受験ってか」


 突然の突っ込みに、


「うっ」


「ぐっ」


「げっ」


 残る三人が、心臓を押さえた。




 黒山の人だかりの原因は、すぐに知れた。


「ああ、あれか」


「はでだな」


「メタルレッドの外車ねぇ」


 スマートでありながら存在感のある、そんな自動車が、校門脇に停められていたのだ。


「ひと待ち?」


「中学だぜ、ここ」


「中坊相手になにやってんだか」


 興味をなくして、倫太郎はひとだかりを迂回しようとした。


 しかし、きゃあきゃあと騒ぐ周囲をきれいに無視して、車体に凭れるひとりの人物が倫太郎の視界をかすめた。


 痩身を包む長く黒いコートが、風に揺らぐ。


 腕組みをして足を交差させているのが、やけにさまになっていた。


「あれって」


「ほら」


「こないだの」


「きれーな、おにいさん」


 最後の台詞は、三人がきれいにはもる。


「へ?」


 脇腹をつつかれて、顔を上げた倫太郎の顔が、ひきつった。


 それもそのはず。


 つい先日、出会い頭に、『懐かしかったものですから』と、キスしてきた相手だ。


「この騒ぎの元凶は、姫宮な」


「決定」


「呼ぼうか?」


「や、やめれっ」


 手を大きく振りかぶった悪友の肩を掴んだ倫太郎の視線の先で、ゆっくりと、琥珀色の双眸が移動する。


 白皙の美貌が倫太郎に向い、にっこりと、満面の笑みをたたえた。


 きゃあ――と、ひときわ大きな歓声がひとだかりから迸る。


 とんと上体を車から離し、流れるように青年が歩く。


「こんにちは、倫太郎くん」


 悪友の肩越しに見下ろされ、語尾を跳ね上げた声がやわらかく倫太郎の耳に届いた。


「君たち、倫太郎くんを借りてもいいかな」


 疑問系でありながら、決定事項に聞こえる。


「どうぞ」


「いくらでも」


「いっそおもちかえりしてください」


 悪友達の台詞に、


「お、おまえらなぁ」


 倫太郎の反論は、力ない。


「じゃ、そういうことで。行きましょうか、倫太郎くん」


 手を取られて、倫太郎は、歩くよりなかった。


「ああ、お母さんには了承を得てありますからね」


 ご心配なく。


 悪戯そうに片目を閉じられて、倫太郎は知らず真っ赤になった。




 こうして、衆人環視の中、きれいなお兄さんにエスコートされて倫太郎は車中のひとになったのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ