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黒髪のアビス  作者: めい
1.始まりの章
3/33

3:「ロブくんのローブ、ゲットだぜ!」の巻

 触媒もなく帰還するためには、大掛かりな準備が必要だということで、サツキは通信を終えた。でも、還ることが出来るらしい。

 ほっとしたサツキにローブくんたちは、とりあえず皇帝に会えという。は? 今まであなたたち何を聞いてましたか? 私、間違いでここに来たって分かりましたよね? とにかく、ここで、スキルレベル上げたり、まれに祭壇の修復でもしたりして、隠居生活してますから、わたしのことは捨て置いてくださいっていったのに、そんなことは出来ませんとかなんとか。ん? なんですか、その異様にキラキラした目は。正直、キモチがワルイです。あ、「飛竜の目玉」を何気なくローブの中に隠さないでください。それは私のものです。いや、涙目で訴えられてもあげません、はい。


 サツキは、半ば引き摺られるように、外に用意されていた4頭だての馬車の中に押し込まれた。と同時に走り出す馬車。まぁ、いいか。どうせなんにもすることがないのだ。この世界を少し見学でもしてみようか。と、頭を切り替える。


 なんだか、山の中ですねぇ。マイナスイオンに満ち溢れております。窓の外を見ると、流れる景色は、綺麗な針葉樹が立ち並び、木漏れ日が漏れる爽やかなものです。


 やがてその景色にも飽きたサツキは、「iネットくん」で友達とでもダベりますか、と腕輪を取り出した。[Phone]ボタンを押す。はい、通じません。でかでかと空中に表示されました。2文字。



圏外



 あーあー、あの建物周辺でしか通信機能は働きませんか、そうですか。ステータスは見れるのね。メモ帳機能も生きてる。あぁ、辞書機能も大丈夫。でも通信機能オールナッシング。うん、だってしょうがないじゃない、圏外だもの。人間だもの。


 しばし、ステータス画面を閲覧することにした。こんなときでさえ、資格の多さににんまりするワ・タ・シ。うふ。いや~、これでもかっていうくらいの勇者なステータス仕様です。見惚れちゃいます。


 馬闘スキルなんてレベルMaxです。愛馬はもちろん白馬でした。あ~キッシュ元気かなぁ。あ、キッシュっていうのは愛馬の名前ね。あし毛の馬でね、最近やっと白い毛が混じってきた、若い雌馬です。一応ペガサスです。空飛べます。元気かなぁ~、あの娘。この世界に召喚出来るのかしら。機会があったら試してみよう。

 あ、野営スキルも98だから、あと10回くらい野営すれば、Maxになるんじゃない?


 しっかし、前から思ってたんだけど、勇者に必要なスキルって、鍵開けとか、自爆とか(チャ、チャオズ~~!!)、勇者にあるまじき! って思うのは私だけだろうか。勝手に家の中の棚を開けてもいい権利まであるし。まあ、転移魔法の「トラベラ」は重宝します。これ、時魔導師と勇者しか覚えられませんし。


 あ~、で、確認してみたけど、やっぱ無理だわ、わたし。花嫁なんてさ。作法スキルのレベル見てよ。一桁だよ。ふふ。踊りスキルも7だって。


 とりあえず、着替えでもしとく? タガール巨匠の防具、何気に重いし、ガチャガチャうるさいし、膝の裏んとこ若干蒸れてるし。(肘の裏っていったら、どっちのこと? なんて素朴疑問。表っぽいのにね)

 手持ちの服を見てみる。はい、見事に鎧ばっかり。

 こんなことになるなら、先週売りに出てた、村娘「モブ仕様のAセット」買っておくんだった。特価200ベールだったのに。あー、普通の服はほとんど売りに出しちゃったんだよねぇ。タガール様買うのに、微妙に資金が足りなくって。




 馬車内の座席を一列占領し寝転びながら、「Iネットくん」を操作していたサツキは、ちらりと対面の座席に座る一番小柄なローブくんを見やる。あ、彼の名前「ロブくん」といいました。いやぁ、ナイスネーミングだね。これまた。覚えやすい。先程の戦闘を目にしたローブくんたち、なんだか、妄信的な信者と化してうざかったので、一番おとなしかった彼を従者に選びました。


 はい、私の視線に気づき、彼、びくびくと脅えた表情を見せました。両手は膝の上でローブをぎゅ~っと掴んでいます。うん、小動物だな。とびねずみ系? そんなロブくんにわたしは言った。



「ねぇ、ロブくん」

「は、はい!」


うん、飛び上がらんばかりの返事です。


「そのローブ、貸して。いや、頂戴」

「な、なんでですか!」

「だって、これ重い。痛いし」

「し、しかし・・・って何してるんですか!」

「え? 脱いでます」


 サツキは会話をしながらも、さっさとタガール作をガチャガチャぽいぽい脱いでいった。そして、麻のタンクトップと黒のスパッツになると、一旦のびをする。


 脱ぎ捨てた装備が「Iネットくん」の中に吸い込まれると、その様子をぽかーんとした表情で眺めているロブくん。放心状態の彼から、なんなくローブをひっぺがす。

 はい、みなさんご一緒に。



「ロブくんのローブ、ゲットだぜ!」



 しかし、これ黒でよかった。赤だったら確実に赤ずきんちゃんになってしまう。

 黒ローブを纏い、さらに「Iネットくん」を玩ぶと、皮の靴を取り出し、それを履いた。

さて、とりあえず生きる為の基本である情報収集でもしてみることにする。



 窓の外の風景は、いつの間にやら田園風景に変わっていた。



◆ ◆ ◆



「ところで、どこに向かっているの?」

「王宮です」



 ふ~ん、王宮かぁ。めちゃくちゃ簡潔な言葉ありがとう。

 そこに「首切り魔人の氷の君」って奴がいるんだな、うん。まさか、会ってすぐに処刑されたりしないよね、ねえ? そのネーミング非常に怖いんですけど。



 皇帝の名は、アルフレッド=ステファノ=インペリアル=シスタ。(長いのでとりあえずメモ帳に記憶)年齢は22歳。4年前にシスタ国の皇帝になった若き有能な皇帝だそうだ。

 民からの人気は高く、戦争続きだったこの国に平和をもたらした聡明な人物らしい。(あぁ、4年前に来たかった。そんで「この戦争を終わらせに来た」なんて言ってみたかった・・・)

 そんな彼に、正妃を娶れと周囲が延々と迫ったことに苛立った皇帝は、「伝説のアビスならば娶る」と言ったそうだ。

 数百年前に一度、ロレアルの神殿の祭壇に現れ、シスタ建国に携わった、伝説の黒髪の乙女。それが、アビス。

 あ、あそこ神殿だったの? お空見えてたけど? 石畳の間から、けなげに雑草さんが育ってたけど? 苔が祭壇を覆っていたのも仕様ですか?


 あ~あ~あ~わたし分かっちゃったんですけどぉ。てめえら、ダメ元で召喚しやがったなぁ、ゴゥラ。しかも大事な祭壇放置とは何事だ。あ、目逸らしましたね、今。


 ところでなぜ「首切り魔人」とそんな怖い呼び名がついたかというと、皇帝に即位したばかりの彼は、かなり強引に臣下をばったばった切り捨てたそうで。それも必ず己が手を下し、その首を城門前に高々とさらしたそうだ。うぅ~~さらし首ですかぁ。


「えぇ、それでその首をエジルがエサにしてつつくものだから、それはもう、片目が抉られたり、肉片が周りに散らばっていたり・・・あ、エジルっていうのは、紫色をした体長30センチくらいの鳥の仲間なんですけどね、鳥にしては珍しい夜行性でして・・・またそのなき声がエゲーッエゲーッってしゃがれた声でして、より一層悲惨さが増しまして・・・」


 当時を思い出したのか、ロブくん軽く青ざめている。当時、城門前担当の門番は、衛兵の中で最も過酷といわれていたとかいないとか。どっちなんだ、ロブくん、はっきりしろ。

 それにしても、これから会おうという花嫁にそんな話を聞かせてよいのか? 普通の乙女なら怖がって逃げちゃうぞ。

 わたし? わたしは、もしかしたら皇帝こそが魔王のような気がしてきました。うん、即退治、んで帰還、くらいに思いマスター。



「はぁ・・・それにしても、いつ着くの、その王宮とやらには」


 馬車に揺られ、既に4時間。眠くなってきた目をこすりつつ、サツキはロブに聞いた。


「えぇ、あと半月もすれば、到着する予定です」

「・・・・・・半月?」

「はい、半月です」


あ、暦の数え方違うのかな?


「えーと、15日?」

「はい、15日程度です」


うん?


「1日は24時間?」

「はい、1日は24時間です」


うーんと。


「今、午後の4時?」

「はい、そうですね、午後4時8分です」

「・・・・・・・とりあえず、寝ます」

「はい、お休みなさい」




 姉さん、事件です。魔王に会うのは半月後だそうです。


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