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黒髪のアビス  作者: めい
1.始まりの章
2/33

2:「女勇者、召喚」の巻

(一体、これはどういうこと?)


サツキは考える。


 神殿の扉を開けると、部屋の中央には魔方陣が存在していた。「界送り」専用の魔方陣である。その中央に立ち、ほどなくして、サツキは眩しい光に包まれ、目を開くとそこは別の空間だった。

 足元を見ると、なにやら丸い石のテーブルのような祭壇の上のようだ。一段高いその祭壇の周りには4人のローブを着た男たちが、驚きを隠さない表情でサツキを見ている。

 その格好からしてどうも、この世界の魔術師たちだと見受けられる。

 サツキは彼らに対して、不敵の笑みを浮かべて迎えた。


うん、そこまではいい。予想通り。サツキは次のセリフを期待していた。


「おぉ、勇者様、どうかこの国をお救いください」


そして、


「あのにっくき魔王めを、お倒しください」

 「さあ、我が王の元へ!」


みたいな?

 そんでもって、王の間とかいうところで、「そなたの名はなんと申す」「サツキと申します」「おぉ、サツキに幸あれ」なんていう言葉で回復されたり。



しかし、彼らは口々とこう言った。


「おぉー、伝説は本当だった・・・」


うん、これはいい。想定内。でもね、


「なんと可憐な姫君であろう」

「これで「首切り魔人の氷の君」も気に入ること間違いないであろう」


 なんじゃそのセリフ。しかも、棒読み。こころなしか生暖か~い目になってないか、しかも全員が、まん丸眼鏡っ子ってどうなのよ。

 サツキは自分の服装を見下ろす。うん、完璧な勇者ルック。銀色に輝く鎧は特注で出来た、いわゆる国宝タガールの作品よ。小手も盾も。防具に関して右に出るものはなしっていわれた、あのタガールよ。タガール。全シリーズ揃えたんだから。おかげで、財布の中身はすっからかんよ。背には大剣を背負っていますよ。うん、最初が肝心かと思いまして。

 それに、可憐って何? ヤヨイ姉はここにはいないですよ? あぁ、厭味か、厭味なのか? なんて勘繰っちゃいますよ、わたし。


 

 ローブの男共は、もともと台本でもあったかのように、それぞれが、一言ずつ言い終えると、彼らは小さな円陣を作り、なにやらひそひそ声で話している。50畳はあろうか広い敷地の隅に固まるものだから、なんだか、中央にいる私、ちこっと淋しい。

 あー、これが放置プレイってやつですかね、サツキ、初体験です。


「まさか、やっちゃいました? 僕たち」

「いや、でも、黒髪黒目は合ってますし・・・・」

「あ~、どうでしょう。年も随分と若いような・・・」

「でも、このまま彼女連れてったら、確実に怒られちゃいますよ、特にロベルト殿に。いやですよ僕」

「え~~~、でもそれ僕らのせいですかねぇ」

「あ、じゃあ、責任は文化庁長官のシャムール殿、というのはどうでしょう」

「あ~、一応、これが遺跡ってことで? それ無理ないっすか?」

「では、ここの整備というのはどうでしょう。ミッチェル殿率いる団体ですよ。あの市民団体に責任取ってもらいましょうよ」

「いやいや、あそこ怒らすとかなり、しつこいですよ。ここの警備担当ってどこでしたっけ?」

「え~~~、ここの警備、第一騎士団ですよぉ。なんだかんだで、こっちのせいにされちゃいますって」


 どこかに責任を押し付けあっている模様の、ローブたちに、サツキはあくびを堪えた。なんだか長く続きそうだ。

 すると中でも一番小柄なローブくんがサツキの方を振り返り言った。


「あ、と、一応伺いますね。あなたはどうしてここに呼ばれたのかを、理解されていますか?」


サツキは頷いた。


「え~と、一応。あ~と、その、魔王討伐の依頼で、すよね?」


 うん、ここで、はきはきと答えられるほど心臓強くないです。なんか変だなぁ~ってことくらい疎い私でも分かります。

 サツキの言葉にローブくんは首を横に振って言った。


「いいえ、あなたは皇帝の花嫁候補として召喚されたのです」


 ほう、花嫁。花嫁とな? はい、還ります。還らせてください。資格マニアとしてはまだまだ取りたいスキルがあったんじゃい、ボゲ。日本じゃ取りづらい武器「銃」スキルとか「カジノ」スキルとかね。これ、帰還不能イベですよね? なにこれキタコレ洗濯機です、はい。くあんせんふじこ、でしたっけ?

 軽いパニックに陥ったサツキは天を見上げた。

 なんでしょう、この建物、天井ないんですね。青空がとても目に眩しいです。うん、つかの間の現実逃避です。

 あぁ、白い雲の隙間から、緑色の何かが見えます。あれ、緑色の物体が、だんだん徐々に大きくなってきましたよ。羽音が聞こえる。うん、これって・・・・。



「ファイアードレイク~~~!!」



 ドラゴン亜種です。飛竜です。大きさは中型、といっても、体長8メートルはあります。とってもお腹が空いているみたいですね。目がささくれ立っています。5メートル程上空で停滞すると、サツキと目が合いました。

 うん、ご馳走はわたしですか?



「とりあえず、逃げて!」


 見回すと、ローブくんたち、既にいません。声を張り上げた私、馬鹿みたいです。完全ひとりごとです。夕日河川敷の演劇青年です。

 ちょっとばかし涙目なわたしを尻目に、ファイアーくん、既に攻撃態勢です。炎を吐くために息を吸い込みました。



「さ、せるかぁ!!『ウォーターコールド』!!」



 サツキの叫び声と共に、構えた右手の先から大きな波動が出現した。水属性の魔法を放出され、その水を纏った氷の粒が、コイル状にファイアードレイクに向かって一直線に伸びていった。

 見事命中。グァァとうめき声をあげたファイアードレイクは体勢を崩し、低空へと落ちてきた。

 そこをすかさず、サツキは地を蹴り、高くジャンプする。

 ファイアードレイクの急所である首の付け根に、サツキは躊躇することなく大剣を突き立てる。ギィヤァァァと甲高い鳴き声をあげたファイアードレイクは、ゆっくりとその巨体を墜落させ、大きな音と煙を撒き散らせながら絶命した。

 そのまま黙々と素材を剥いでいるサツキに、いつの間にやら戻ってきたローブくんたちが声をかける。


「す、すごいです。ドラゴンを一人で倒してしまうなんて!」

「先程の魔法は、どのような構造なのでしょうか!」


 すごいすごい、強い強いと騒ぎ立てるローブくんたちを完全無視しているサツキの耳に、ピロピロリンという音が届いた。サツキはおもむろに装着していた魔道具「Iネットくん」を取り出した。



 ―――説明しよう。「Iネットくん」とは、辞書や図鑑、書籍など膨大な知識を閲覧したり、全世界の人々と通信したり出来る、優れものなのだ。自分の身分を証明するものでもあるので、他人に貸し出したり、失くしたりしないようにしよう! 形状は、腕輪にしたり指輪にしたり、カードにしたりもできるぞ! ちなみに、私のおすすめ形状は、眼鏡だ!―――


 あーあーそうだった。「Iネットくん」があったじゃないか。サツキは迷わず、腕輪に表示されている[Phone]ボタンを押す。途端相手が話し出す。


「えー、そちら、サツキ=アサギリくん、でよろしいか?」

「はい、サツキ=アサギリです!」


 やはり、相手はサツキの世界の神官であった。サツキは簡潔にクエストの内容が違うことを報告する。すると、神官は言った。


「どうも、手違いがあったようだ。申し訳ないが、一度、こちらに戻ってくれるか」


 願ったり叶ったりである。つか、神官のミスだったか。悪いね、ローブくんたち。疑っちゃったよ。


「はい、よろしくお願いします!」

「では、一度、召喚された場所へ戻ってくれ。そしたら、こちらから逆召喚をかけるから」

「はい!」


 と、サツキは元気に返事をすると祭壇を探した。あれ? 祭壇さん? どこですか?



「うぎぃやぁぁぁ~~!!」


 サツキはムンクの叫びのポーズをとった。その声に通信相手が声を上げる。


「ど、どうした?」

「さ、祭壇が・・・祭壇が・・・」







 祭壇は先程の戦闘で、ファイアードレイクの体によって粉々に砕かれていた。もうそれは跡形も無く、はい。


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