表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪のアビス  作者: めい
3.二人のサツキの章
19/33

19:「ザッシュ様の歌」の巻

 中にはイサール子爵と銀髪の長髪さんがいた。


 魔王はどこ?

と、きょろきょろしているサツキに、銀髪君が言った。


「どうぞ、そちらにおかけになってください」

「あ、ああ、どうも・・・」


 へこへこしながら、サツキは差し出された椅子に座った。右に太っちょイサール子爵。左に銀髪長髪さんが座っている。

 そして、サツキの左後ろに先ほど、サツキを部屋に入れた紳士さんが立った。


 魔王はどいつだ。銀髪か? 眼鏡か?



「さて、イサール殿。話を戻しましょうか。彼女はエリザベス嬢ではありません」


長髪さんは、足を組み替え言った。



「し、しかし、彼女はどうみても・・・・・・」

「ああ、そうでした、サツキさん」


名前を呼ばれてサツキは飛び上がった。



「は、はい?」

「まずは、その変化の術を解いてください。話はそれからでした」


 言われて、サツキは戸惑った。誰だ、こいつ。魔王なのか?

 サツキが眉を顰めると、彼は可笑しそうに笑った。



「ああ、僕の名前は、サミエル=キエル=ド=ラフィーユと申します。以後、サミエルとお呼びください。ちなみに後ろの彼は・・・」


そういわれて、紳士さんが言った。


「ロベルト=ガーナル=シェル=フォルスと申します。ロベルトとお呼びください。執政監査官をしております」



 ご丁寧に名刺を差し出してきたので、サツキは慌ててそれを受け取った。どちらも魔王ではないらしい。

 そして、サツキもどこからか名刺を取出し、それをロベルトに渡した。



「竜巻爆裂少女のサツキ=アサギリです」



 それには、ロベルトも目を丸くする。手にした名刺をしげしげと眺める。

 サツキの顔写真と、名前。肩書きは「女勇者」となっている。裏にはこれでもか、というくらいダイナミックな文字で「竜・巻・爆・裂・少・女」と描かれている。住所のようなものも書かれているが、ロベルトの知っている場所ではなかった。

 その様子をみて、サミエルも「僕にはないの?」というので、もう一枚あげる。



「ええと、皇帝さんではないんですね?」


サツキはサミエルに確認すると、彼はやはりくすくすと笑う。


「ああ、そうです。名前をお借り致しました。と、言っても彼の代行ですけど、裏向きは」

「裏向き・・・・・・ですか」


「はい、表向きは、僕、ということで」


その発言にロベルトが苦渋の声を上げる。


「だって、君がいる時点で、不自然でしょう。その方が話も早くなりますし、ねえ、イサール殿」


固まっている様子の彼に、サミエルは一瞥すると、言った。


「ほら、サツキさん。黒髪に戻ってください」



 サツキはとりあえず、変化を解いた。

 その瞬間、「おぉ・・・」と感嘆の声があがる。


 サツキは不思議だった。なぜ、そんなに黒髪が珍しいのだろう。


「ああ、サツキさん。あなたのいた世界では、どうか知りませんが、この世界では、どんなに魔法や薬品を駆使しようとも、人体の一部を黒くだけは出来ないのですよ」

「本当に?」


 頷くサミエルを見る。試しにロベルトの青磁色の髪を黒くしてみようと、呪文を唱えた。


「『チェンジラ』」


 変化がない。もう一度「『チェンジラ』」と唱える。今度は赤色になった。



「あ~、ホントだ~~。なんでなんで~~?」


「・・・・・・不思議がるのはそのあたりで・・・早く元に戻してください」


 ロベルトは突然、自分の髪を変えられ、それをサミエルが「似合う、似合う。ジェダイ(フライの兄)そっくり」と笑うので目が怖い。


「あーすいません。『リタノーマ』」


ロベルトは、ほっと息をついた。



「・・・それにしても、サツキさんの魔法は素晴らしいですね。攻撃性・方向性・安定性がしっかりしています。持続性もあなたの変化を見た限り、長いようでしたし・・・・・・」


ぶつぶつと、サミエルは何かを呟いている。


「こ・・、アル・・って、早急・・・を魔・・・入・・続・・・」


 どこかに行ってしまった様子のサミエルに、サツキはロベルトを見やる。彼はひとつため息を漏らすと、イサールに対して言った。


「このたび、イサール子爵が行った融資は、サミエル子爵が引き継ぐことになりました。これは、その契約書です。よって、ジャスティーノ伯爵からの返済小切手が、こちらに」


そう言ってロベルトは、2枚の紙をイサールたちの間の机に置いた。イサールに向けて。



「な、しかし・・・」

「もちろん、契約不履行という形なので、金額は提示されたものとなっています。ご確認ください」


イサールは小切手の額面を見た。サツキもそれをひょいと覗いた。紙にはこう、書かれていた。



『金6000G』



 多分に、Gはガリオン。

 ああ、2倍です。お相撲さんで言っちゃうよ。はい、にば~いにば~い。6億円だよ、サマージャンボの2倍だよ。



「こ、断る!」


 それに対して、いつの間にやらこちらに戻ってきたサミエルが、これでもかという笑顔で答えました。


「ふふ、変なところでケチったのが悪かったですねぇ。せめて10倍とでもしておけばよろしかったのに。僕なら、あの会社の権利、としておきましたよ。融資額は5倍にして。ふふ、申し訳ありませんが、譲る気はありませんから」



ひとり「???」なサツキにロベルトが教えてくれました。


「ジャスティーノ伯爵が融資を受ける会社は、先日新魔法具を発明しておりまして・・・それを特許、商用登録すれば、年商1億ガリオンはくだらない見込みなんですよ。伯爵自身は、まだ、この宝の山にお気付きになられていないようなんですが・・・2年後には、何十倍にもなって返ってくるでしょうね」



 つまりは何だ、このイサールという男は、「儲け話+愛人」という欲深計画を立てていたのだ。ただのエロ親父ではなかった。欲深エロハゲぷよ専変態親父に改名しよう。うーん、長いかな。やっぱり、変態お代官でいいか。


「あのぅ・・・そのうち300ガリオンはわたしが融資、というわけには・・・・・・」



サツキはその儲け話に便乗しようとしてみたが、


「お断りします」


とにこりと断られた。

 そこは「そちも悪よのう」と言って欲しかった。サミエルの容貌には似合わんが。



◆ ◆ ◆



 王宮へ、2人乗りの馬車を3台使って帰ることになった。

 何故、3台なのかと言うと・・・。


1台目→ロベルト

2台目→サツキ

3台目→サミエル


うん、こういうこと、である。




「違います」


空中に描いたわたしの説明を、その手がキュキュと書き足す。


1台目→ロベルト、モスリンド

2台目→サツキ

3台目→サミエル、ロブ


うん、ロブくん書き足しありがとう。



 イサール伯爵の館を出ると、ロブくんとモスくんが待ち構えていた。一人は眉を吊り上げて、一人は眉を吊り下げて。

 ああ、すっかり忘れてたよ。電話料金の払い込みに、コンビニ行くくらいに忘れてたよ。


 王宮へは10分もすれば着くという。この場所は城門の目と鼻の先、200メートル程なので1分程度で着くという。ならなんだ、9分も城門の中を走るのか。3キロ強ってところか。どんだけ広いんだ。どんだけ。


 なんでも、王宮の入り口、南棟までの間には、総務、法務、外務、財務、魔法、文部、労働、農林、水産、産業、交通、軍事の計12の省の建物が隣接して建っているんだそう。日本でいう永田町ですな。町が一個、城の中に建っているとは、これいかに。

 内部では移動用に馬車バスが周回してるとか。うん、一度乗っておこうじゃないか。


「2階建ての馬車バスもあるんですよ」


 サミエルの説明に俄然乗る気満々です、サツキ。


 馬車が走り出すと、だんだん霧が濃くなってきました。わたしの御者台にはジョンくんが座っていると、分かっているのに、彼の存在感の無さも相まって、まるで、1人でいるみたいです。


 前を走っているはずのロベルトさんたちの馬車が見えません。後ろを振り返ってみました。ロブくんたちの馬車もこれまたしかりです。

 孤独な空間です。歌ってみましょう。


「お~と~おさん、おとおさん。き~こ~えないの~。まお~がぼくに~、ささ~やきな~がら、やく~そくし~ているのが~」


 うぅ、もっと怖くなっちった。

 このまま歌ったら、わたし消えちゃうよ。ジョンくんはもう消えてるけど・・・ってあれ、霧が晴れてきました。ふぅ、と安堵のため息です。


「・・・・・・」


 おかしいですね。ジョンくんって、そんなに大きかったですかね。それじゃあ、もうホビット族とは呼べませんよ。

 ・・・そんな赤いターバンしてましたっけ?



「あれ、もう歌わないのか~? なら俺様が歌ってやろう。へぃへぃへぃおらへぃへぃへぃ」


だ~れが呼んだか知らないが~。

マインド号のキャプテンは~。

あ~かいターバン靡かせて~。

酒も一流、女も一流。狙うお宝も一流だ~。

そ~の~名~も~。


「ザッシュ様だ!」


 突然、サツキの方を振り返り、親指で自分を指している人物は、ジョンくんではなかった。きらりんと歯が光る。もう夜なのにね。月夜の反射ってことにしておこう。



「なぁ、あんたが、黒髪のアビスってやつだろ?」


 あ~、これなんて返事すればヨイ? 誰ですか、あなた? あ、ザッシュ様でしたね。


「あー違いますよ(棒読み)」


「そうなのかい?」


と、突然、ザッシュは手綱を引っ張った。馬が嘶く。サツキは反動で、前に飛び出た。



「うぎゃあああ~~~!」


ぐるぐると空中を回る。そして、すたっと着地。10点満点?


「見たか! これが{技:キャット空中3回転}だ! にゃんこ先生、ありがとう!」


 サツキは元の世界のギルドの先生のひとり(一匹?)を、思い出した。

 彼は、にぼしひとつで技を教えてくれる、大変ありがたい先生であった。トラ模様がチャーミングな、柔道着をこよなく愛する先生であった。



 グリコのポーズをしているサツキが、感無量の涙を流しているところに、ばさっと麻袋がかぶせられる。突然、真っ暗になる視界。


「よし、本物、ゲット」


 ザッシュの声がする。そこは高らかに「ゲットだぜ!」でしょうが。もしくは「ゲッチュウ」ね。



「悪ぃな。あんたには、交渉材料になってもらうぜ。俺様の船が、騎士団のやつに取られちまってさぁ」


 サツキは袋の中でじたばたもがく。


「あぁ、一応、言っておくけど、その袋、魔道具だから。魔法効果、なんだっけ、え~「マホレス」? と「パワウィク」?」


俺、魔法って、よく分かんねぇんだわ。わはははは。と、声がする。



 そんなザッシュくんに魔法講座。

  マホレス→魔法無効

  パワウィク→力が半分になる



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ