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黒髪のアビス  作者: めい
1.始まりの章
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1:「冒険の始まり」の巻

 ―――西暦4210年。2000年程前は、人類の中で化学が発達していたが、1500年程前に、魔法が発見されてからは、人類は日々、魔導と共に発展し続けた。そんな世界の、日本と呼ばれる国での出来事―――



◆ ◆ ◆



 ついに来た、ついに来た。この日をどんなに待ち望んでいたか。サツキは街中を疾走していた。顔なじみの武器屋の親父が声をかける。


「おい、サツキ。そんなに急いでどうした?」


 ききーっと音がするくらいにサツキは足を止め、黒髪をなびかせ振り返りながら、手にしている一通の封書を片手にあげる。


「召喚よ、召喚! 私、明日、勇者として召喚されるの!」


 満面の笑顔のサツキに、武器屋の親父も笑顔を返した。


「そうか、そいつはめでてぇなぁ! 還ってきたら祝いをしようじゃないか」


「だったら、あのサリヴァンの大剣を予約しとくね! じゃ~ね~~!!」


 すごいスピードで走り去りながらのその言葉は、どんどん小さくなっていった。かすかに届くその声に、親父も手を振りながら大声で答えた。


「おう! 頑張れよ!」



◆ ◆ ◆



 サツキは皇宮の門を通り、敷地内に建築される神殿へとたどり着いた。入り口に立っていた神官は、天皇直々の印が押されているその封書の日付が明日であることを確かめると、サツキを神殿内部へと引き入れた。


「こちらへ」


 通された部屋は、円形状をしており、サツキが入ってきた扉以外に、11の扉がある。それぞれの扉の前には、弧を描いた3人がけの石製のベンチが中央を向いて置かれている。既に3人の人々が思い思いの場所に陣取っている。


その中のひとりに目を留めたサツキは言った。


「ヤヨイ姉!」


 その声に顔をあげた少女は驚くほどサツキに似ている。それもそのはず、ヤヨイはサツキの2つ上の実の姉である。サツキの姿を確認したヤヨイは驚きの顔をみせた。戦闘ギルドの管轄する寮に入居していたサツキにとって、正月以来の再会である。




 サツキたちの世界には、様々な学校が存在する。戦士学校、武闘学校、魔導士学院など、多岐にわたる。管轄しているのはギルドと呼ばれる機関で、大きく分けて、戦闘・武術・魔導・盗賊・道具・事務・自然・生活・魅惑の九つに分かれている。


 大抵の国民は生活ギルドに登録し、そこで色々なスキルを会得し、資格を得る。資格を取ると、その資格ごとに、覚える技があり、それを習得するため、皆学んでいる。



 漁師の資格を持っていると、{技:大漁}を覚え、盗賊の資格を持っていれば{技:鍵開け}を覚える。中には、これ何に使うんじゃいという意味不明な技もあるが、考えようによっては使えるものだったりするので侮れない。

 例えば、{技:無表情}はカードゲームをするのに使用できるし、{技:耳栓}は、奥さんの長い愚痴を聞いているときに使えるそうだ。


 それから、「召喚制度」というものがこの世界には存在する。

 国民は10歳から30歳の間に、必ず1度は召喚されなければならない。


 「界送り」の技術が発見された当初は、異世界に旅立ち、その技術や物資を持ち帰るという目的が主だったのだが、近年では、諸外国との威信を示すことに意義があるといわれている。


 そういった国同士のなんちゃらはよく分からないが、クエストを達成すると国から謝礼金を頂戴し、生活が潤うので、一般市民にとって、他の思惑とかはどうでもいいことなのである。


 基本的に召喚を受けるのは、個人の自由が認められているのだが、その人物しか召喚内容に該当しない場合などに、国は「強制召喚状」を発行する。


 通称「赤紙」といわれる召喚状は、それを受け取った人物は強制的に召喚されなければならないという、威力を持つ。明日妻が初めての出産だろうが、親が危篤だろうが、ついに実ったあの娘とのデートだろうが。

 もしもそれを拒否したのなら、世界人民特殊機構―WHGに捕まり、拘束される、らしい。


 久々に再会したにも関わらず、変わらぬ笑顔でヤヨイは言った。


「すごい偶然ねぇ。まさかこんな所で会うとは」


サツキは頷いた。


「ヤヨイ姉、また召喚なの? この間懲りたって言わなかった?」

「うん、そうなんだけどね、ほら」


と、ヤヨイは己の召喚状を見せてきた。その色は赤い色をしていた。


「うわ、赤紙」

「・・・ヤヨイ姉。相変わらず、運悪いね」


サツキは可哀相な人をみる目で、ヤヨイを見る。


「・・・・・・それは言わないで。で、サツキはどんなクエストなの?」


「聞く? 聞いちゃう? いや、むしろ聞いてくれ! ふふふ」


 じゃじゃじゃーんと口で効果音を言いながら、サツキは手にしていた召喚状をヤヨイの目の前に開いた。


『J異世界に出現した魔王を討伐せよ』


その文面にヤヨイは目を丸くした。


「う、わぁ。大変じゃない。サツキ、大丈夫?」


ヤヨイは心配そうな目線をサツキに向ける。


「いやいや、女勇者ですから、わたし。ダイジョブ、ダイジョブ。で、ヤヨイ姉は、神子様?」


 先日、ヤヨイはG異世界で見事に荒ぶる神を封印し、還ってきていたのは、まだ記憶に新しい。しかし、ヤヨイは、首を横に振りながら、


「ナ・イ・ショ」


と、小首を傾げいった。


 サツキは言葉を失った。そのあまりの可愛らしさに。

 なぜ、彼女が姉妹なのだろうか。あぁ、知っている、知っているとも。


 毎年九月になると、国に送信される個人能力内容によって、サツキたちは称号を得るのだが、「天使の微笑み少女」の称号を得たヤヨイは、どこからどう見ても、可憐な乙女だ。


 それに引き換え、サツキの得た称号は「竜巻爆裂少女」である。


 来月の更新では、もう少しマシな称号を得たい。初対面の人には挨拶のとき必ずこの称号を口にしなければならないので、結構重要なものだ。「竜巻爆裂少女のサツキ=アサギリです」というと、確実に皆の顔が固まる。今度こそ女の子らしい称号が欲しい、と思うサツキであった。


 過去得た称号も「弾丸ファイター」や「サバイバルの猛者」など、散々である。初めて「少女」というワードが付いたことで、浮かれた昨年の自分を殴りに行きたい。


 顔の造型は大差ないのに、なぜこんなにも雰囲気が違うのだろうかと、一時期、ヤヨイも普通の思春期の女の子のように悩んだこともあったが、そこはサツキ。今はもう開き直っている。ヤヨイはヤヨイ。サツキはサツキだ、と。小さいことは気にしないのだ。大きいことも気にしないが。



 『勇者』の資格への道のりは遠い。まず、『戦士』と『武闘家』の資格取ったのち、『聖騎士』の資格を取り、その上『僧侶』の資格を取り、更にいくつかのスキルを得て、晴れて『勇者』の資格を与えられるのだ。


 なぜ、そのような手間をかけてまで『勇者』の資格を取ったのかというと、サツキがいわゆる「資格マニア」であったためだ。


 ギルドの職員である魅惑のジョセフィーヌがサツキに教えてくれた。たまにいるのよ、と。

 資格取ることが楽しくって職に就かない人たち。そんな人たちを総称して、「資格マニア」と呼ぶそうだ。もしくは「チートな人」。

 サツキ自身も1年程前に自覚したばかりである。


 さて、資格を取り続けていたらいつの間にかなっていましたの『女勇者』となったサツキだが、正直、夢ではあるのだ。世界を救う、正義の味方。なんと甘美な響きでせう。


 だが、いかんせん需要はない。異世界でも魔王が現れ、世界が滅亡の危機に陥るのはそうそう無いらしい。

 今まで2回異世界へと渡ったが、最初の依頼は「B異世界で迷子になった人の捜索」だったし、次の依頼は「E異世界A国で蔓延している伝染病を終息させること」であった。

 どちらも1ヶ月もかからず還ってきたため、サツキにとっては、単なる旅行のようなもので終わってしまった。ぬるいクエストであった。遠い目。


「えー、サツキ=アサギリ」


 扉のひとつが開き、なんだか間延びした声で神官がサツキを呼んだ。「はい!」と手を挙げ、サツキはそちらに近づいていった。背中からヤヨイの「気をつけてね」という声に、にこりとひとつ頷きかえす。

彼女は意気揚々と扉の中へと入っていった。




 さあ、冒険の始まりである!


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