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クコ皇国の新米茶師と、いにしえの禁術  作者: 笠岡もこ
― 第二章 クコ皇国の変化 ―
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第24話 蛍雪堂2―現代のアゥマ事情と紺樹の事情―

「浅葱《あさぎ》にも理解しやすいように説明するから」


 真赭《まそほ》と浅葱、それに蒼は円になって床へ座っている。

 大理石状の床はひんやりとしているが、それぞれ座布団を敷いているので辛くはない。


「はい、よろしくお願いしまーす。真赭せんせーい」

「まーたぁ。浅葱ってば緩いなぁ」


 蒼は両膝を抱えて二人の様子を見守る。見守るというのは、真赭の浅葱を見る目が、まるで出来の悪い生徒に教鞭をとる教師のように見えたからだ。

 真赭も蒼と同じことを考えていたのだろう。真赭の締まっていた口元が、わずかに緩んだ。


「まったく、仕方がないわね」


 真赭は緩んだ口を髪で隠すように下を向く。そして、膝の上にのせている古書をひと撫でした。

 彼女と古書のアゥマが反応しあい、微小な粒子がしゃぼん玉のような光となって宙に舞う。消えずに昇っていった光を目で追うと、大理石状の天井に溶け込んでいった。


「おぉー! 古書のアゥマ反応ってこんな風なんだねぇ!」


 興味がない話は右から左へと聞き流していく浅葱も、流石に古書が放つ空気と書庫の雰囲気にあてられたのだろう。真赭の指先でふわりと浮いて消えた光の余波を見るために、前屈みになった。

 真赭は浅葱の様子に笑みを零し、手元の古書を顔の横に掲げた。


「では、始めるわ」


 静かな空間に、真赭の落ち着いた声が響く。しかし、いつものそれとは少しばかり異なり、高揚感が隠れていた。あからさまに見て取れないところが、彼女らしい。それに、その空気が、余計に蒼や浅葱の好奇心を刺激してくる。

 茶葉と同じくらいアゥマという物質に愛着を感じている蒼は、小さな頃から真赭の話に耳を傾けてきたし、幅広い知識を持った祖父の白から幾度も語ってもらっている。だから、もう耳にたこができる程、聞いている話ではある。


(今日はなんだかいつもとちょっと違う雰囲気だ)


 今いる場所が影響しているのか。蒼の鼓動は、とくんとくんと、心地よく高鳴ってきていた。

 幼い頃、母親から物語を読んでもらった時の気持ちに似ている。蒼は、少しばかり懐かしくなった。


「まず、大前提として言っておくけれど。この世界――文明の前に存在した古代文明が滅びた原因は世界の汚染。その汚染を生き抜くために、生命の樹によって私たち生物に与えられた力が『アゥマ』よね」


 言わずもがな。アゥマを扱う者なら、誰しも知っていることだ。しかしながら、その樹の存在自体は、世界の汚染が弱まるにつれて伝説や物語の中でだけ生きるようになってしまってはいる。そんな現代でも、必ず家族や学院で教えられることである。

 特に、クコ皇国は世界の中でも指折りのアゥマが豊かな国なのだし、生活の中で身をもって感じられる。

 当然、浅葱の店で扱う華香札もアゥマを使用して作り上げる。だから、浅葱もそのようなことは、今更言われるまでもないだろう。しかし、浅葱は余計なことは口にせず、大人しく頷いただけだった。


「その古代文明に関する記載がある貴重な本を、古書と言うのだけれど」


 真赭が一旦言葉を切り、隣に積み上げられている一冊の本を手にとった。そのまま、両手で表紙が見えるように持ち直し、蒼と浅葱の方へと差し出す。

 深緑の色をした、細かい装丁が施されている本だ。この場所に保管されているくらいなのだから、相当年代も古いものなのだろう。けれど、見る限り、埃を被っている様子もなければ色が褪せているわけでもない。


「うん?」


 蒼は小首を傾げながら、差し出されている本にそっと指先を触れさせた。

 と、ひと呼吸した後。ゆらりと、本の存在が揺れた。いや、揺れたというよりも、ぶれたというべきだろうか。


「世界の汚染が弱まると同時に、アゥマの重要性や必需性も薄れてきたわよね?」

「そうだね。現に、食物に関してだって浄化という意味合いの程度も、薄れているわけだし。アゥマという存在が、世界自体に溶け込んだとも言えるよね。食物や植物、それに生き物。ありとあらゆるものに」


 蒼は先程の本がどういう意味での『古書』なのかは、すぐに理解出来た。けれど、真赭が特にそこには触れず、前の言葉を継いで話し始めたので合わせることにした。

 浅葱といえば、真赭の手にある本を食い入るように見つめている。聞いているのだろうけれど、前のめりの姿勢で顎に手を当て。


「あら」


 蒼と真赭は顔を見合わせ、小さく微笑みあった。この幼馴染が、ここまで古書に興味を示したのは初めてだ。

 もちろん、己の生業である華香札に関する書物は別だが、少なくとも幅広い意味での古書に関しては間違いなく見たことがなかった。


「ほらほら、真赭。つまりは、どういうこと? ボクには真赭が言わんとしていることにどう繋がるのか、さっぱりなんだけど」


 言葉を切ってしまった真赭に先を促し、浅葱が数度瞬いた。

 その視線を受けた当人である真赭は、蒼へ顔を向けてくる。真赭も、ある意味では浅葱と似ている。古書に関するアゥマを語るのは好むのだが、それ以外の話は疲れてしまうのだ。浅葱が待ちきれず催促の言葉を発したので、代わりにと、蒼が口を開く。


「つまり、日常級(レベル)でアゥマを応用する技術が広まり活用される必要があったんだよ」

「あぁ、わかった。表現がまどろっこしかったよぉー薄まってきたっていうより『薄める必要があった』ってことかぁ」


 浅葱が納得いったように手を打った。

 この幼馴染は意図せず確信を付いてくる。

 蒼と真赭、どちらともなく乾いた笑いが零れた。いや、笑ったのは蒼だ。真赭は、なぜこの要点の突き方をもっと広範囲で発揮できないのかと頭を抱えた。


「浅葱の言う通りだね。そこで問題になるのは、どうしたら万人がアゥマ扱えるのかってことなんだよ。で、使いやすく改良される」

「人間は進歩する生き物だもんねぇ。うんうん」

「ただ、それと並行して長い年月をかけて世界は徐々に浄化されてきた。そうなると、アゥマを活かす程度も下がったんだろうね。アゥマを繰る術が便利・簡潔に改良され広まる一方で、使い手がいなくなった難度の高い術も出てきたってことを、真赭は言いたかったんじゃないかな?」


 蒼が真赭に向き直ると、彼女の真っ白な頬がわずかに色を帯びた。

 真赭が照れ臭そうにしたのは、蒼がいつもあまりにも的確に代弁してくれることに対してだろう。


「えぇ。人の記憶や伝承からは、必要なくなった大規模な浄化を行う浄練《じょうれん》術なんかが衰退していくわ。そして、技術だけじゃなくて知識《そんざい》も忘れられていってしまっていく」

「なるほどねぇ。ってことはさ、多かれ少なかれ現代の人はアゥマを纏っているしなぁ。特別っちゃー特別だけど、特異ではないってことかい?」

「浅葱、そこじゃない。気づいて、言葉にして欲しかったのは。……間違っても、いないけれど」


 真赭から、ため息混じりのぼやきが落ちた。だが、それは冷たい空気を纏ったものではなかった。

 半分は察しない浅葱に、本気で呆れているのかもしれない。けれど、蒼には、真赭が浅葱のことを半分は誉めているのがわかった。いつものように、話し始めた途端に寝ないことに対してなのか、興味を持って考えていることに対してなのかは不明だが。


「へっ?」


 きょとんと、不思議そうな顔で真赭を見つめる浅葱。

 蒼は立ち上がり、少し離れた場所に置いてある淡い水色の巾着を手にとった。控えめな藤色の花模様が刺繍されている。蒼は、その中から一枚の札を取り出した。この書庫の本棚に貼るために、浅葱が店から持ってきた華香札だ。それを真赭に手渡すと、再び座布団の上に腰をおろした。


「浅葱にも、もう少し踏み込んだ意味がわかるように言うけれど……。華香札も、大昔よりは技術が精錬されて、用途も広がってきたわ。だけど、元々の意味である『邪を祓う』という技術はどう?」

「あー! わかった、わかった。確かにさぁ、異形の者や毒素を取り除く意味での『邪祓』の必要性は薄れてきてるねぇ。じいちゃんの幼い頃は、今より強い効果である必要があったって、よくぼやいてるよ!」


 ようやく真赭が伝えたかったことを理解した浅葱から、大きな声が飛び出した。書庫中に響きわたった声が、綺麗なこだまになる。ついでにと、硬い床が勢い良く叩かれた。手が痛くないのではと、心配になる勢いだ。

 蒼は笑顔で耳を塞ぎ、真赭は思い切り眉間に皺を寄せた。

 細めた目で、ちらりと巨大な棚に収まっている本を気遣う真赭。浅葱が起こす振動程度で、ここの本が落ちることはない。しかも、特殊な守護術がかけられている棚だ。ただし、真赭にはそんなこと関係ないのだろう。本の無事を確認した真赭の表情が、元に戻った。


「そうでしょう? 古書には、そういう失われた技術が記され封印されているだけではなくて、本自体にも古代の濃密なアゥマが練りこめられているの。当時の魔道の力を読み解く鍵になるだけではなくて、直接触れることも出来る貴重な存在だわ」


 真赭の声が、わずかに弾んだ。表に出ているのが『わずか』となると、本人の心内では大興奮の部類だ。蒼と浅葱は、よく知っている。

 今度顔を見合わせたのは蒼と浅葱だった。そこには笑みが浮かんでいる。


「より高い技術のものになると、さっきの本みたいに、本来の記述を隠すために文字に加工を施したり、映像で表紙を隠したり出来るんだよね?」

「そう。希少な古書ほど、念入りな鍵がかけられているわ。その鍵を読み解くのが、私たち古書堂の人間」

「おぉ。ボク、人生で一番『古書堂』の役割を理解していると思うよ」


 古書堂の老舗中の老舗である蛍雪堂《けいせつどう》の人間と幼馴染である人間の口から出たとは思えない言葉だ。

 全然褒められたことではないのだが、当の本人があまりにも尊敬の念を込めた眼差しを向けてくるものだから……真赭は珍しく責める気にはなれなかった。


「あと、この際だから浅葱に追い打ちをかけて理解してもらうけれど……身近な例で言うと、紺樹さんの魔道書もよ? あれも、古代からの魔道が取り込められていて、それを引き出して、かつ再構築するものね」

「へぇ、紺兄のあれも古書に入るのか」

「一応、聞いておくわ。浅葱は、紺樹さんの魔道書を何だと思っていたの?」


 蒼は内心で止めておけばいいのにと思った。真赭の問いの答えなど、彼女自身も容易に想像がつくだろうに、と。

 思うのと同時に、真赭が尋ねずにはいられない性格なのも承知しているので、口は出さない。


「へっ? そりゃー、不思議本だなって思ってたよ。アゥマが閉じ込められた、なんかやばいすごーい本だなぁって」


 案の定、浅葱はきょとんと間の抜けた表情で口を開いた。


「ふっ不思議本――逆に、どうしてソレが古書と結びつかないかの方が、驚きなのだけれど!」

「そりゃ、真赭みたいな古書馬鹿(マニア)じゃないからねぇ」


 余計な一言をからっと笑って発した浅葱。哀れかな。真赭の拳骨を食らう羽目になった。


 紺樹が得意とする、魔道書を媒介とした術。


 彼のソレは古書に分類されるものだ。しかも、紺樹が所有しているものは、かなり貴重なもので古代から近代のありとあらゆる術の系列が印されている。

 さらに、膨大な術が書かれているにも関わらず、持ち運べるよう、文字や魔道陣に加工が施されているのだ。紺樹自身が様々な古書を編集して、新たに術を施した物らしい。


(紺君の膝にのせてもらいながら、よく話を聞かせてもらったな)


 そんなことが思い出されて、わずかに蒼の頬が染まってしまった。本に視線を落としている二人に気づかれないように、蒼は耳朶をつねる。

 今の自分の立場で昔を振り返ると、どうしても赤面したくなる行動が多い。蒼と紺樹とは十歳の差があるので仕方がない。ただ、最近は出会った頃の紺樹と同年齢になっていると思うと、どうしても羞恥してしまうのだ。

 

「ボクの店にも、古書を手に入れるために遺跡をまわってる冒険者たちが来るよぉ。遺跡で古書を手に入れて転売したり国の依頼を受けてたりと、理由は様々だけどねぇ」


 悶える蒼を他所に、真赭と浅葱は会話を続けていく。

 小さくなって体を振わせている蒼を、真赭が一瞥した。昔から真赭にはどんな感情も筒向けなのだ。反して、浅葱は全くそんな素振りを見せないのが救いだった。


「今はアゥマをそこまで使うことができなくても、濃密なアゥマを閉じ込めた水晶を持っていれば、本を入手する位は可能になったから、本自体の価値を知らずに、転売だけが目的の人も増えたわ。おかげで鑑定部門の方が大忙しなの」


 自分の方へ引いた本に、愛おしそうに触れる真赭。

 そもそも、古書自体を愛する真赭にとって、金銭の価値にだけ興味がある冒険者の存在は許し難いのだろう。もちろん、全ての冒険者がそうであるわけではないが、取り扱いはともかく、金銭価値で見ているという共通点はあるのかもしれない。

 欲する者がいるからこそ、売却者がいる。売却者がいるからこそ、購入者がいる。これは、いつの時代でも避けられない需要と供給の因果だ。


「時代の流れと言ってしまえば、仕方がないのだろうけれど」


 今の真赭の気持ちが、蒼には痛いほど理解出来た。

 華憐堂に対する自分の葛藤と良く似ている。


 大切な茶葉を――何よりも人の体に直接影響を与えてしまう茶葉を、あのように大量生産するなんて。


 そう、心が揺れる。けれど、それを超えるほど魅力的な茶葉を浄錬出来ない自分の力量のなさが一番問題なのだ。蒼は、真赭と同じように目を伏せた。


「なるほどねぇ! やっと古書の偉大さに気が付けたよ、ボク! ついでに、紺兄が凄いってこともねぇ」


 沈んだ雰囲気に気を遣ったのか。浅葱がやけに明るい調子で膝を打った。

 あまり空気を読まない彼女にしては珍しい。いや、途中までは正直な感想だったのだろけれど、最後の紺樹に関する一言は明らかに蒼を意識してのものだろうと容易に察することが出来た。


「ねぇ、蒼? 紺兄って、昔は真面目でこじらせって感じだったけど、今はもっとやっかいなこじらせ具合で、うっかりこじらせ人間って印象が強いけどさ」


 猫のように細めた目で意味深な笑みを浮かべている、浅葱。

 先程、自分が紺樹のことを考えていたことを読まれたような気がして、蒼はわざと冷ややかな目つきを作る。


「紺君は昔も今も――まぁ今はちょっと緩すぎるしただの優男な印象が強いかもだけれど、実力面では純粋にすごいよ? っていうか、『こじらせ』を連発して浅葱は今までどういう目で紺君を見てたのさ」

「いや、蒼もさり気無くひどいよね。まぁ、でも、強いて言うならねぇ」


 浅葱がもったいぶった調子で言葉を切った。こういう口調の時の彼女は、大抵何かしらを知っていながら隠しているのだ。

 蒼は、抱え直し膝に顔を埋めた。別に強いて言わなくてもいいのにと思いながら、やはり、少しは気になる。自分の目以外に映っている彼が自分と絡んでいなくても、だ。


「何を強いて言うのさ。っていうかは二度目だけど、浅葱にしてはもったいぶるじゃん」


 以前は、自分が知っている紺樹を信じていれば良いと考えていた。けれど、蒼の中にいる紺樹以外にも、色んな彼を知ってみたいと最近は思うようになっている。

 そんな蒼の内心も知らないだろうに。浅葱は背を伸ばし、にやりと口の端をあげた。


「紺兄ってば、蒼が思っている以上に蒼を大切に思ってる、蒼ばかな蒼の大切な年上の幼馴染っていう目で見てるかなぁ。要するに、蒼のことで頭の中がいっぱいってことだねぇ」


 蒼は思わず座布団を吹っ飛ばして立ち上がっていた。結わった長い両束の髪の毛が魔道力で逆立つほどには、興奮している。魔道力は高まるのに、声を発することはできない。

 しばらく、わなわなと震えた後、蒼はようやく両腕を振り上げた。


「なっなにそれ!! どんな根拠があっての見解なの!」

「うーん。蒼の幼馴染の一人としては妬けちゃうから、まだ内緒とだけ言っておこうかねぇ」


 ただの思いつきかもしれない言葉が『内緒』と付け加えられるだけで、自分が知らない根拠となる事実があるのかもしれないと思えてしまう。それを気にしないでいられる蒼ではないことも、浅葱は承知なのだろう。

 それでなくとも、蒼の次の反応を面白がっているのは、彼女の表情から簡単に予想がつく。


「あさぎっ!」


 目元を赤く染めた蒼が、浅葱を軽く睨んだ。

 蒼に凄まれても、浅葱は内緒の内容を語る気はないらしい。無言のまま、にかりと歯を見せて笑いかけてきた。


「っていうか、私の名前つけすぎ!! それに、その言い方って、私と紺君の関係の見方じゃない!」

「うん、まぁ、紺兄と言えば蒼っていうかさぁ。切っても切れないっていうかねぇ」


 浅葱は頭の後ろに両腕をまわし、さらりと蒼の言い分を認めた。

 思わず蒼は乗り出した姿勢のまま固まってしまった。胸の横で構えた拳どころが、全身がふるふると揺れている。以前は素直に嬉しく思えて、微笑むことが出来たのに。


「わっ私っていうか、心葉堂の茶葉って意味の方が強いと思うよ!」

「鶏が先か、ひよこが先かって話だねぇ」


 けらっと笑って見せた浅葱だが、ふいに真面目な表情を浮かべた。

 思わず、蒼も真赭も瞬きを繰り返してしまった。


「ボク、思ってるんだけどさ。っていうか、さっき蒼も言ってたけど。紺兄ってば、蒼が修行から帰って来てから、なーんか胡散臭くなったよね」


 正直、どきりと蒼の胸が鳴った。


「確かに、紺君が敬語になったり、へらとしてるようになったのは、その時期からだけど」

「それは、私も思う。けれどね、二人とも?」


 興奮して声を大きくしてしまっている蒼の耳に、冷静な声が届いた。

 蒼の言葉に、やはり、意味深な言い回しで返した浅葱ではない。二人のやりとりを傍観していた真赭の声だ。

 真赭は己の手に持っている本を前に突き出した。

 蒼と浅葱は、揃いの表情で「あっ」と声を漏らし、正座で背を正した。


「古書の話、していたのよね? 恋バナは地上に戻ってからじっくりとしましょう?」

「すみませんでした!」


 そうして、声を揃えて真赭に頭を下げたのだった。

 蒼だけは、決して恋バナなんかじゃないと不満に思いながら。


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