【幕間】たった一枚の写真なのに
ライブ終わり。
新宮楓花が、何気なく言った。
「せっかくだし、みんなで写真撮ろうよ」
本来なら。
30秒で終わるはずだった。
――Rain Crownに「全員で普通に写真を撮る」が、こんなに難しいとは誰も思っていなかった。
◇
「じゃあ撮るよー」
楓花がスマートフォンを構えた。
「ちょっと待って!」
一乃瀬紡が手を上げる。
「何?」
「私そこ嫌」
「まだ何も決めてないけど」
「真ん中がいい」
「なんで?」
「写りたいから」
「全員写るよ!」
白藤莉歌のツッコミが飛んだ。
「でも真ん中の方が大きくない?」
「集合写真に遠近法を持ち込まないで」
その横で、舞崎莉緒が床にしゃがむ。
「じゃあ、ぺぃぴー前でいいよ」
「莉緒、急に座らないで!」
「前列必要でしょ?」
「まだ前列作るって言ってない!」
楓花が頭を抱える。
開始15秒。
まだ誰一人、位置が決まっていない。
◇
「恋、真ん中でいいんじゃない?」
蒼井真姫が言った。
全員が一瞬、納得しかける。
天羽恋は首を振った。
「え、なんで私?」
「センターだから」
「写真まで?」
「分かりやすいじゃん」
「雑じゃない?」
恋が抗議する横で、桃澄夏鈴が少し離れた場所に立った。
「じゃあ私はここで」
莉歌が見る。
「遠くない?」
「端、慣れてるから」
「そういう悲しいボケやめて」
「ボケじゃないよ?」
「もっとダメ!」
夏鈴は上品に笑った。
その隣へ凪野乃々香が入る。
「じゃあ私も端!」
「なんで?」
「端って、端っこ感あって良くない?」
「そのままだよ」
「落ち着く」
夏鈴が頷く。
「分かる」
「意気投合しないで」
ツッコミ役?の莉歌の仕事が増えていく。
◇
「はい」
詠瀬真名が突然、手を叩いた。
「一回整理しよう」
楓花の顔が明るくなる。
「真名、お願い」
「まず身長順」
「おお」
「その後、顔の向きと重心を見て――」
「真名ちゃん」
葉澄日和莉が手を上げた。
「何?」
「写真って重心あるの?」
真名が止まる。
「……あるよ」
「重いの?」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ軽い?」
「重さの話から離れて!」
乃々香が吹き出した。
「ひーちゃん強い」
「何が?」
「無自覚なのが一番強い」
「そうなの?」
日和莉は本気で首を傾げた。
真名は額を押さえる。
「もういい。とりあえず並んで!」
◇
どうにか並んだ。
前列。
後列。
恋は真ん中。
楓花がスマートフォンを三脚にセットする。
「セルフタイマー10秒ね」
「やっと撮れる」
莉歌が深く息を吐いた。
「みんな動かないでよ」
「はーい」
十。
九。
八。
その時。
朝比奈こはるが小さく言った。
「……ねえ」
七。
「何?」
六。
「私の髪、変じゃない?」
五。
「今!?」
全員が一斉にこはるを見る。
四。
「ここ跳ねてない?」
三。
紡が手を伸ばす。
「直す!」
二。
「触らないで!」
一。
カシャ。
◇
写真を見る。
全員が、こはるの頭を見ていた。
「…………」
楓花が黙る。
恋も黙る。
真姫が静かに言った。
「これはこれで、仲良さそう」
莉歌が振り返る。
「真姫ちゃん、無理やり良い話にしないで」
「ダメ?」
「ダメ」
こはるは写真を見ながら、
「でも髪は直ってる」
「そこじゃない!」
◇
2回目。
「今度こそ!」
楓花がタイマーをセットする。
十。
九。
八。
「ひーちゃん」
真姫が突然言った。
「ん?」
「そっちじゃなくてカメラ」
「あ」
七。
日和莉が向きを直す。
六。
「乃々香も」
「私?」
五。
「なんで夏鈴見てるの」
「さっき夏鈴が変な顔したから」
夏鈴が驚く。
「してないよ」
四。
「してた」
三。
「してない」
二。
「じゃあもう一回やって」
一。
カシャ。
◇
今度は。
乃々香だけ夏鈴を見ている。
夏鈴は乃々香を見返している。
日和莉はカメラではなく、その二人を見ている。
「……なんで?」
楓花が呟いた。
日和莉が答える。
「二人が楽しそうだったから」
「ひーちゃんまで参加しないで」
「参加したつもりないよ?」
「それが一番怖いの!」
◇
3回目。
「今度こそ全員カメラ!」
「了解!」
「絶対動かない!」
「はい!」
楓花が指を差す。
「紡!」
「何?」
「ふざけない!」
「まだ何もしてない!」
「先に言っとく!」
「信用なさすぎ!」
十。
九。
八。
全員がカメラを見る。
七。
六。
五。
素晴らしい。
誰も動いていない。
四。
このまま。
三。
いける。
二。
突然。
莉緒が小さくくしゃみをした。
「へくちっ」
一。
カシャ。
◇
莉緒だけ目を閉じていた。
「ぺぃぴー悪くないもん!」
「誰も責めてないよ!」
「今のは自然現象だから!」
「もう一枚撮ろ!」
莉緒が立ち上がる。
「次絶対目開ける!」
莉歌が言う。
「そこ意識すると逆に閉じるよ」
「どういうこと?」
「知らない」
◇
4回目。
「よし」
楓花の声に、疲れが混じっている。
「もう普通に笑って」
真名が言う。
「普通って一番難しくない?」
乃々香が返す。
日和莉が頷く。
「自然にって言われると自然が分からなくなるよね」
全員が止まった。
日和莉は周囲を見る。
「……変なこと言った?」
一秒。
二秒。
乃々香が吹き出した。
莉緒も笑う。
紡も。
恋まで笑う。
「確かに!」
「急に分かんなくなった!」
「ひーちゃんのせい!」
「ええ?」
笑いが広がる。
その瞬間。
カシャ。
◇
誰もタイマーを意識していなかった。
画面を見る。
恋は口を開けて笑っている。
真姫も少し崩れた笑顔。
莉歌は乃々香を見て笑っている。
莉緒はちゃんと目が開いている。
紡は変なポーズの途中。
真名は少し呆れながら笑っている。
夏鈴も。
乃々香も。
こはるも。
楓花も。
日和莉も。
ほかのメンバーたちも。
誰一人、完璧に決めていない。
でも。
16人全員、楽しそうだった。
しばらく。
誰も何も言わない。
楓花が小さく笑った。
「……これでよくない?」
「いい」
恋が即答した。
「これが一番いい」
真姫も頷く。
莉歌が写真を拡大する。
「あ、紡だけちょっと変」
「なんで私!?」
「手」
「どこ?」
「何その手」
全員が紡を見る。
また笑いが起きた。
「もういいじゃん!」
紡が叫ぶ。
「これ採用!」
乃々香が言う。
「賛成!」
莉緒も手を上げる。
日和莉は写真を見ながら、ぽつり。
「なんか、みんなちゃんといるね」
一瞬だけ静かになる。
真姫が日和莉を見る。
「……写真だからね」
「そっか」
「ひーちゃん、今ちょっといいこと言ったかと思った」
「違った?」
「たぶん」
「そっか」
また笑いが起きた。
楓花は保存ボタンを押した。
たった一枚の写真。
撮るまでに4回。
かかった時間、20分。
そして翌日。
その写真は、Rain Crownのグループチャットのアイコンになった。
◇
「ねえ」
恋がスマートフォンを見ながら言った。
「何?」
「これ、アイコンだと端っこ切れてない?」
全員が画面を覗き込む。
「……あ」
夏鈴の顔が半分。
乃々香も半分。
「ちょっと待って」
乃々香が真顔になる。
「やばい、20分かけてこれ?」
夏鈴も静かに言った。
「端には慣れてるけど、これは違うと思う」
「だからそのボケやめて!」
莉歌のツッコミが飛ぶ。
楓花が頭を抱えた。
「じゃあアイコン用にもう一枚――」
「嫌!!」
16人の声が、見事に揃った。
その日。
Rain Crownが一番きれいに揃ったのは、
写真ではなく。
その「嫌!!」だった。
ーー完




