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【幕間】たった一枚の写真なのに

作者: あまつか
掲載日:2026/10/08

ライブ終わり。


新宮楓花が、何気なく言った。


「せっかくだし、みんなで写真撮ろうよ」


本来なら。


30秒で終わるはずだった。


――Rain Crownに「全員で普通に写真を撮る」が、こんなに難しいとは誰も思っていなかった。


◇


「じゃあ撮るよー」


楓花がスマートフォンを構えた。


「ちょっと待って!」


一乃瀬紡が手を上げる。


「何?」


「私そこ嫌」


「まだ何も決めてないけど」


「真ん中がいい」


「なんで?」


「写りたいから」


「全員写るよ!」


白藤莉歌のツッコミが飛んだ。


「でも真ん中の方が大きくない?」


「集合写真に遠近法を持ち込まないで」


その横で、舞崎莉緒が床にしゃがむ。


「じゃあ、ぺぃぴー前でいいよ」


「莉緒、急に座らないで!」


「前列必要でしょ?」


「まだ前列作るって言ってない!」


楓花が頭を抱える。


開始15秒。


まだ誰一人、位置が決まっていない。


◇


「恋、真ん中でいいんじゃない?」


蒼井真姫が言った。


全員が一瞬、納得しかける。


天羽恋は首を振った。


「え、なんで私?」


「センターだから」


「写真まで?」


「分かりやすいじゃん」


「雑じゃない?」


恋が抗議する横で、桃澄夏鈴が少し離れた場所に立った。


「じゃあ私はここで」


莉歌が見る。


「遠くない?」


「端、慣れてるから」


「そういう悲しいボケやめて」


「ボケじゃないよ?」


「もっとダメ!」


夏鈴は上品に笑った。


その隣へ凪野乃々香が入る。


「じゃあ私も端!」


「なんで?」


「端って、端っこ感あって良くない?」


「そのままだよ」


「落ち着く」


夏鈴が頷く。


「分かる」


「意気投合しないで」


ツッコミ役?の莉歌の仕事が増えていく。


◇


「はい」


詠瀬真名が突然、手を叩いた。


「一回整理しよう」


楓花の顔が明るくなる。


「真名、お願い」


「まず身長順」


「おお」


「その後、顔の向きと重心を見て――」


「真名ちゃん」


葉澄日和莉が手を上げた。


「何?」


「写真って重心あるの?」


真名が止まる。


「……あるよ」


「重いの?」


「そういう意味じゃない」


「じゃあ軽い?」


「重さの話から離れて!」


乃々香が吹き出した。


「ひーちゃん強い」


「何が?」


「無自覚なのが一番強い」


「そうなの?」


日和莉は本気で首を傾げた。


真名は額を押さえる。


「もういい。とりあえず並んで!」


◇


どうにか並んだ。


前列。


後列。


恋は真ん中。


楓花がスマートフォンを三脚にセットする。


「セルフタイマー10秒ね」


「やっと撮れる」


莉歌が深く息を吐いた。


「みんな動かないでよ」


「はーい」


十。


九。


八。


その時。


朝比奈こはるが小さく言った。


「……ねえ」


七。


「何?」


六。


「私の髪、変じゃない?」


五。


「今!?」


全員が一斉にこはるを見る。


四。


「ここ跳ねてない?」


三。


紡が手を伸ばす。


「直す!」


二。


「触らないで!」


一。


カシャ。


◇


写真を見る。


全員が、こはるの頭を見ていた。


「…………」


楓花が黙る。


恋も黙る。


真姫が静かに言った。


「これはこれで、仲良さそう」


莉歌が振り返る。


「真姫ちゃん、無理やり良い話にしないで」


「ダメ?」


「ダメ」


こはるは写真を見ながら、


「でも髪は直ってる」


「そこじゃない!」


◇


2回目。


「今度こそ!」


楓花がタイマーをセットする。


十。


九。


八。


「ひーちゃん」


真姫が突然言った。


「ん?」


「そっちじゃなくてカメラ」


「あ」


七。


日和莉が向きを直す。


六。


「乃々香も」


「私?」


五。


「なんで夏鈴見てるの」


「さっき夏鈴が変な顔したから」


夏鈴が驚く。


「してないよ」


四。


「してた」


三。


「してない」


二。


「じゃあもう一回やって」


一。


カシャ。


◇


今度は。


乃々香だけ夏鈴を見ている。


夏鈴は乃々香を見返している。


日和莉はカメラではなく、その二人を見ている。


「……なんで?」


楓花が呟いた。


日和莉が答える。


「二人が楽しそうだったから」


「ひーちゃんまで参加しないで」


「参加したつもりないよ?」


「それが一番怖いの!」


◇


3回目。


「今度こそ全員カメラ!」


「了解!」


「絶対動かない!」


「はい!」


楓花が指を差す。


「紡!」


「何?」


「ふざけない!」


「まだ何もしてない!」


「先に言っとく!」


「信用なさすぎ!」


十。


九。


八。


全員がカメラを見る。


七。


六。


五。


素晴らしい。


誰も動いていない。


四。


このまま。


三。


いける。


二。


突然。


莉緒が小さくくしゃみをした。


「へくちっ」


一。


カシャ。


◇


莉緒だけ目を閉じていた。


「ぺぃぴー悪くないもん!」


「誰も責めてないよ!」


「今のは自然現象だから!」


「もう一枚撮ろ!」


莉緒が立ち上がる。


「次絶対目開ける!」


莉歌が言う。


「そこ意識すると逆に閉じるよ」


「どういうこと?」


「知らない」


◇


4回目。


「よし」


楓花の声に、疲れが混じっている。


「もう普通に笑って」


真名が言う。


「普通って一番難しくない?」


乃々香が返す。


日和莉が頷く。


「自然にって言われると自然が分からなくなるよね」


全員が止まった。


日和莉は周囲を見る。


「……変なこと言った?」


一秒。


二秒。


乃々香が吹き出した。


莉緒も笑う。


紡も。


恋まで笑う。


「確かに!」


「急に分かんなくなった!」


「ひーちゃんのせい!」


「ええ?」


笑いが広がる。


その瞬間。


カシャ。


◇


誰もタイマーを意識していなかった。


画面を見る。


恋は口を開けて笑っている。


真姫も少し崩れた笑顔。


莉歌は乃々香を見て笑っている。


莉緒はちゃんと目が開いている。


紡は変なポーズの途中。


真名は少し呆れながら笑っている。


夏鈴も。


乃々香も。


こはるも。


楓花も。


日和莉も。


ほかのメンバーたちも。


誰一人、完璧に決めていない。


でも。


16人全員、楽しそうだった。


しばらく。


誰も何も言わない。


楓花が小さく笑った。


「……これでよくない?」


「いい」


恋が即答した。


「これが一番いい」


真姫も頷く。


莉歌が写真を拡大する。


「あ、紡だけちょっと変」


「なんで私!?」


「手」


「どこ?」


「何その手」


全員が紡を見る。


また笑いが起きた。


「もういいじゃん!」


紡が叫ぶ。


「これ採用!」


乃々香が言う。


「賛成!」


莉緒も手を上げる。


日和莉は写真を見ながら、ぽつり。


「なんか、みんなちゃんといるね」


一瞬だけ静かになる。


真姫が日和莉を見る。


「……写真だからね」


「そっか」


「ひーちゃん、今ちょっといいこと言ったかと思った」


「違った?」


「たぶん」


「そっか」


また笑いが起きた。


楓花は保存ボタンを押した。


たった一枚の写真。


撮るまでに4回。


かかった時間、20分。


そして翌日。


その写真は、Rain Crownのグループチャットのアイコンになった。


◇


「ねえ」


恋がスマートフォンを見ながら言った。


「何?」


「これ、アイコンだと端っこ切れてない?」


全員が画面を覗き込む。


「……あ」


夏鈴の顔が半分。


乃々香も半分。


「ちょっと待って」


乃々香が真顔になる。


「やばい、20分かけてこれ?」


夏鈴も静かに言った。


「端には慣れてるけど、これは違うと思う」


「だからそのボケやめて!」


莉歌のツッコミが飛ぶ。


楓花が頭を抱えた。


「じゃあアイコン用にもう一枚――」


「嫌!!」


16人の声が、見事に揃った。


その日。


Rain Crownが一番きれいに揃ったのは、


写真ではなく。


その「嫌!!」だった。


ーー完

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