冷暖房完備
電気代不要の冷暖房設備付き、という触れ込みにつられてアパートを借りることにした。
しかも相場よりかなり安かったので、内見もせずに飛びついた。
なので入居日の今日、初めて部屋の中に足を踏み入れる。
すると、そこにはすでに先住者がいた。
「なーぅ」
一匹の猫だ。
その表情は自分こそが部屋の主だと主張しているようにも見える。
その猫が何か紙のようなものを敷いているのに気づき、引っ張り出して読んでみると、そこには次のように書かれていた。
『暖房です。夏にも機能するのでご注意ください。なお、電気代はかかりませんが、別途エサ代がかかります』
…………。
気を取り直して、荷物が届く前に部屋の中を点検して回ることにした。
築年数的にくたびれているのはしょうがないとして、特に不備はなさそうだ。
そういえば"冷暖房"なのだから、冷房もどこかにあるはず。
しかし、探してみたがどこにもそれらしきものは見当たらない。
ふと気がつくと、先ほどの猫がじっとどこかを見つめていた。
その視線の先には、なにも入っていない額縁が掛けてあった。
賃貸の部屋に初めから額縁が掛けてあるというのは不自然な気がする。
そこで外して調べてみると、裏の壁に"冷房"と書かれた紙が貼りつけられていた。
『冷房です。冬にも機能するのでご注意ください。なお、こちらは電気代もエサ代も不要です』
そしてその紙の裏にはぐにゃぐにゃした文字のようなものと奇妙な文様が描かれていた。
それはまるで魔除けの札のような――
そう気づいたその時、首筋にヒヤリとした何かが触れた気がした。




