ジオン万歳!
会社に連絡をいれた智恵はなんとか直行直帰の許可をもらった。
無断欠勤とかいわれたが知識稔との接触に成功したと説明し、編集長の許可をあらためてもらい問題なしとなった。
「自分が知識稔を見つけるまで帰ってくるなといったくせに無責任よね」
スマホを切りテーブルの上に並べられた資料に目をおとす。
知識稔がフォーラムで掲示したものをテキストデータとして印刷してあった。
これが難敵なのだ。
ミノルスキー理論はループ量子重力理論によく似ていた。
ループ量子重力理論は一言で言うなら
「時空は連続ではなく、量子の網でできている」
ということになる。
一般相対性理論と相いれない量子力学を統一して「万物理論」を構築することは極めて困難でありループ量子重力理論はその候補の一つとされている。
そしてミノルスキー理論はループ量子重力理論に宇宙はホログラムというホログラフィック宇宙原理、物質も時空も情報からなるという量子情報理論、さらには超対称性理論まで使ったいいとこ取り理論だった。
それでも破綻するどころかニュートラリーノの光速超えを予言できたのは幾何子(GEON)『ジオン』という概念だ。
位相幾何学的空間構造が粒子的性質を持つということらしい。
「ジオン万歳!」
知恵は両手をあげた。それは降参という意味合いが強かった。
さらにはミノルスキー理論には時間というものが存在しなかった。
量子の網の動的変化を時間と錯覚しているようなもので、水分子の動きを波として見ているのと同じだという。
(なんのこっちゃ)
いくらかみ砕いて説明されても意味不明だった。
(考えるな感じろ)
知恵は自分を励まして資料を読みすすめていく。
超光速粒子が存在することで因果律は崩壊する。
つまり「未来が過去に影響する」時間の自己矛盾が発生する。
「未来が過去に影響する……って……えーっ!」
ふいに夢にあらわれた少女版知恵の言葉がよみがえった。
そして今という概念が観測者ごとにあるのではなく、あいまいな広がりとなる。
そろそろ知恵の脳みそがパンクしそうだった。
とにかくわかっていることは相対性理論は修正をせまられ時間、空間、因果、さらには自由意志の存在まで再定義が必要ということだ。
ここで知恵はふと思いついた。
「これって理論が先かな? もしかしてアニメを観て〇ンダムの世界観に合わせるため理論を構築したんじゃないの?」
そう考えると色々と納得がいった。
動画での知識稔は「光はミノルスキー粒子を伝わる」と語った。
そして資料ではミノルスキー粒子=時間粒子ということになっている。
かつてのエーテル理論では光を空間を満たす架空のエーテルという媒介の波としてとらえていた。
もちろんそれは間違いだったのだが媒介がミノルスキー粒子であるなら「物質的な媒質」から「情報的・幾何学的構造」へと姿を変えただけなのだ、アニメに合わせて。
その結果として時空が前提ではなく、結果としてあらわれてしまった。
存在が先ではなく関係が先といいかえられる。
「宇宙とは関係の織りなす情報構造……か」
智恵は頭をかかえた。感じることさえ拒否された気がする。
ヒントは与えられたが知能指数がまったく足りてない。
ただなんとなくだけど観測者問題はだからこそ起きるように思える。もどかしい感覚に身もだえた。
わかる部分だけピックアップすると光速とは粒子間をジャンプする速度Cを観測したもの。
しかし真の光速度C'はもっと速くてそれが今回発見されたものらしい。
光速は「速さの限界」ではなく、「原因が結果に影響できる範囲の限界」という関係性で説くべきというのだ。
(よしよしここまではいいぞ)
油断した智恵はうっかり次の文章をまとめて読んでしまった。
スピンネットワークはグラフ構造であり、ある種の励起(粒子に対応する場の凝集)が隣接ノードを瞬時に飛び越えるような振る舞いをする可能性がある。
マクロな連続空間で見ると「短時間で遠くへ移動」=超光速的移動に見えるが、微視的記述では局所的な離散ステップの連続に過ぎない。
つまり「超光速」は記述上のアーティファクト(効果的記述)で、根本的な因果律破壊を意味しない場合がある。
脳への高負荷により智恵は意識は翌朝まで飛んだ。気を失ったともいうwww




