表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代に潜む魔王  作者: 夜亜
第一章 魔王復活編
2/4

入学式の朝

内容は思い出せないが、なんだか懐かしい夢を見ていた気がした。

ちちち、と小鳥の囀り。

ギルドは、カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めた。あくびを噛み殺して、ベッドから起き上がる。

新品の制服に袖を通して、鏡で自分の姿を確認した。

黒髪の蓬髪を整えながら、見飽きた顔だとギルドはつくづく思った。せっかくの転生。どうせなら、もっと男前な顔に生まれ変わらなかったものか。

今日は、魔法学院の入学式。

ディセルダント皇国中の令嬢子息が集まり、4年間学び舎を共にする由緒正しき学院だ。

階下に降りると、両親は既に朝食の席に着いていた。朝から豪勢な食事が立ち並んでいる。ギルドの学院入学をささやかながら祝ってもらえているのだと思うと、胸が温かい。

「おはようございます、父上、母上」

「お、ギルド」

「おはようギルドちゃん」

挨拶を交わし、両親の向かいの席に腰を下ろす。

父上も母上も恐ろしいほどに整った美貌を持っており、とても子供がいるような年には見えない。この遺伝子が俺に引き継がれなかったのが、残念でならない。嘆くことに、転生者は前世の容貌をそっくりそのまま受け継ぐからな。せめて父上が俺と同じ黒髪で不貞を疑われなかったのが、救いだ。ちなみに妹は、黒髪で2人の両親をばっちり受け継いだ美少女である。

「さて、ギルド。改めて、魔法学院入学おめでとう」

「ありがとうございます」

「お前は昔からジアディスト公爵家の跡継ぎとして何一つ恥がない、素晴らしい息子だ。いや、逆に完璧すぎて心配というか…?んん、まあ、いい。…よく聞きなさい、ギルド。魔法学院でも時にはジアディスト家に名を連ねる者として相応の振る舞いが求められるかもしれない。だがな、そんなのは大したことじゃない。お前にはそんなことを忘れて、思い切り学院生活を楽しんでほしいと思っている」

「父上…」

「そうよ、ギルドちゃん。学院には色んな人々が集まってくるわ。貴族も平民も、家柄や出生に関係なく、分け隔てなく。私たちね、ギルドちゃんにはそんな人になってほしい」

「母上…」

貴族社会には極端な血統主義者も多数いる中で、この博愛精神に溢れた両親に恵まれたことが今世の最大と言っていい、幸福だった。公爵家という家名に驕らず、流石の人格者ぶり。

俺は笑顔で頷いた。

「はい、ありがとうございます。父上、母上」

両親は嬉しそうに頷き返し、さあ食べようと朝食を俺に勧めた。黄金のエッグベネディクトにナイフを入れて、口に運ぶ。美味すぎる。ありがとう、シェフ。本当、こんな贅沢を味わっていいのか、罰当たりなんじゃないかと心配するレベルで、今日も極上の味だった。

ねえねえ、と母上が言った。

「ギルドちゃん、魔石車は本当にいいの?」

魔石車とは、魔石を原動力にして動く車のことである。術者が魔石に魔力を注ぐ限りは、動き続ける。近代の発明品だ。一昔前の主流だった馬車から、ちょうど馬と行者の部分がなくなったような形をしている。

俺は前日に魔石車での学院までの送迎を事前に断っていたのだ。

「魔法学院へはそう遠くないですし、歩いていってみたいんです。メアリのことも迎えに行きたいので」

婚約者の名前を出すと、母上はまあ!と顔を輝かせた。

「うんうんそれがいいわ!ギルドちゃん、流石ね!女の子はいつだって男性に迎えに来て欲しいものなんだから!ギルドちゃん、くれぐれもメアリちゃんと仲良くね!絶対あんないい子手放しちゃ駄目よ!」

「え、ええ…もちろん」

母上は若干、少女脳なのだ。女の子はこうなのよ!と俺と父上によく指南するのだが、果たして合っているのやら。先日の茶会でメアリに一緒に登校しようと誘ったときの反応は、そう悪いものではなかったが。

朝食を終え、俺は立ち上がった。メイドの1人が、準備のいいことに、俺の鞄を手渡ししてくれる。

「では、いってきます」

「いってらしゃ〜い、ギルドちゃん」

「よーし!行ってこい!ギルド」

両親に笑顔を向けて、俺はジアディスト公爵邸を出て行った。


俺の婚約者、メアリ=ラ=モンボレットが住まう屋敷はジアディスト公爵邸からそう遠くない場所にある。貴族は他にそれぞれの領地を持っているが、ここ王都のタウンハウスでは貴族たちの屋敷は密集している。近くに魔法学院があるのも要因の1つだ。上流貴族の多くが魔法学院の卒業生なのだ。

「ギルド様!」

コーラルピンクの髪を靡かせた美少女が、俺に駆け寄る。顔が小さいのに、二重の瞳が大きく、おまけにスタイルが抜群。白く陶磁器のような肌に、桜色の頰。水晶玉の瞳は、思わずいつも吸い込まれそうになる。

何だ、この完璧美少女は。

「おはようございます、ギルド様」

「おはよう、メアリ。もしかして外で待ってくれていたのか?遅くなってすまない」

「いえいえ、私もさきほど支度を終えたばかりでしたの。外で待っていたのは、早くギルド様のお顔が見たかったからですわ」

満点の答えすぎる。メアリにこれを言われておちない男がいるんだろうか…

改めて自分の婚約者の魅了が末恐ろしい。

「では行こうか」

「はい」

すると、メアリは俺から1人分のスペースを空けて隣に並んだ。気のせいではない。俺がどれだけ距離を詰めようと、彼女は代わりに離れて、この間隔を維持しようとするのだ。

ちくちく。胸が痛い…

親同士が決めた政略結婚だが、俺は出会ったときからずっと彼女に恋している。中には親が勝手に決めたからと、婚約者を蔑ろにし、他に恋人をつくる紳士の風上に置けない外道もいるが、俺はそんなことする余地もなく彼女に入れあげている。

しかし、メアリの方はそうではない。

嫌われているわけではないと思っている。

笑顔も見せてくれるし、嬉しい言葉も添えてくれる。

ただ、彼女との距離に心を痛めながら、俺はメアリに話を振った。

「少し緊張するな。これまで、あまり他の令嬢子息に会う機会がなかったし」

「私もです」

「何より、クラス分けがなあ。せめて知り合いがいれば安心なんだが」

「ええ、私は、ギルド様と同じクラスがいいですわ。そうしたら、ギルド様の色んなお姿が拝見…いいえ、何でもございません。こほん、同じクラスだったらいいですね」

「本当にそうだな」

メアリに俺と同じクラスになりたいと言われて、天にも昇る心地だ。

やがて、4本の塔に囲まれた城のような建物に着く。ここが魔法学院。建物の傷からして、歴史があるな。

俺たちが中へ入ると既に会場入りしていた生徒たちの囁き声が伝播した。ざわざわ、と声が揺れる。

「見て、ジアディスト公爵家の…」

「メアリ様だわ、素敵」

「本当、絵になるお二人…」

あちこちでメアリを称賛する声が上がっている。よくわかっているじゃないか。婚約者を褒められて、気分が悪くなる男はいない。いっそ誇らしい。

「うんうん、流石メアリだ」

「いえ、皆さんギルド様のことを言っているのだと思いますけど…?」

見渡すと、近くにクラス分けの紙が張り出されていた。

遠目に見ると、俺はAクラスに名前があった。さて、メアリは…Bクラスか。

「ギルド様、離れてしまいました…」

「うん、残念だ」

配慮してくれよ、学院。いや、婚約者同士だからクラスを別にされたのか?

落ち込む俺をよそに、メアリは仕方がないです、ともう気持ちを切り替えていた。行きましょう、と講堂へ俺を誘う。

クラスに行く前に、今から講堂にて入学式の催しが行われることになっている。

俺とメアリは空いている席に座った。

しばらくして予定時刻となり、まずは壇上に校長が上った。入学おめでとう、と讃辞を述べ、学院の生徒としての心構えを懇切丁寧に説明した。俺の両親と同じように平等を掲げる博愛精神の持ち主らしく、俺は聞き入っていたが、周りを見ると、つまらなそうに、あるいは反論の色を見せる生徒がちらほらいた。

おおう、困った。先が思いやられる。

校長が降壇すると、次は新入生代表の挨拶だった。

新入生代表といえば、入学試験のトップか、もしくは…

「今年の代表は、ルイス殿下のようですね」

「あ、ああ…」

俺は壇上に上がった人物を見て、言葉を失った。サラサラの金髪に、群青の瞳。彼の瞳は深い海の底をそこに秘めたかのようだ。しかし、それでいてサファイアの宝石のように輝いている。

甘く微笑む貴公子。

前世のアイツの顔が重なる。

…まさか、ここまで容姿を完璧に引き継いだいるとは、予想外だった。

「ギルド様?どうかされましたか?お気分でも…」

「ああ、いや、何でもない」

俺はメアリに断って、壇上の彼を見上げた。

「新入生代表の言葉を預かりました。ルイス=ワーグナーと申します。この由緒ある魔法学院に入学できたことを誇りに思い、そしてこの学び舎で……」


ルイスの姿に呆気に取られていたせいだろう。

この時の俺は、学院に押し寄せている異変に気付くのが遅れてしまった。

俺が魔法の攻撃を感知すると同時に、講堂の窓が一斉に割れた。ガラスが砕け散り、近くにいた生徒は悲鳴を上げた。それは伝播し、全ての生徒が絶叫した。

窓から侵入してきた黒いもや。しかし、粒子が熱く融着し、みるみる竜の形になっていく。

「悪魔だ…」

誰かが絶望した。

「悪魔がどうして!?人間界にはもう1000年近く現れてないって!!」

「今そんなことどうでもいいだろ!!どうすんだよ、こんなの!!」

「きゃあっっっ!!嫌ぁ!!」

「ああ、神よ、どうかご加護を…」

怒声、悲鳴、嗚咽。悪魔を見たことがない平和な世に生まれた新入生たちは、パニックを起こしていた。

悪魔が咆哮する。しかし、それはけらけらとこちらを嘲笑うような含みを持っていた。悪魔は基本的に人間を自分たちの玩具か何かと思い込んでいる。

悪魔も魔法を使う種族だ。突然現れたその悪魔は魔法陣を展開し、黒い光を放った。

教師陣は生徒たちを守ろうと、<障壁>を展開するが、その壁は悪魔の攻撃に耐えるにはあまりに薄い。

まずい!!

「<強化(ストレンジ)>」

俺は詠唱し、教師陣の魔法のバリアの強度を上げた。厚みに変化はないが、変わりに魔法の粒子の融着度を引き上げたのだ。悪魔の攻撃を跳ね返し、教師陣はほっとした顔をした。

悪魔に顔などないが、面を食らっている様子だった。1000年近く人間界へ渡れず、人間との戦いを忘れていたとしても、自分の攻撃が通らなかったことに違和感を覚えたのだろう。

「皆さん!ここから避難してください!私たちが先導します!!」

ここにいるのは危険だと英断した校長と教師の数名が、生徒たちを講堂の外へ誘導している。パニック状態の生徒たちは我先にと他の生徒を押しながら、外へ出ていく。

「私たちも行きましょう、ギルド様……、…?」

俺の手を取ったメアリの白い手を優しく押し返す。俺は首を振った。

「すまない。俺は皆んなと一緒にはいけない。少々片付けなければならぬ問題が発生した」

「ええ!?」

驚くメアリ。俺は近くにいた令嬢に声をかけた。確かメアリの友人のはずだ。

「君。すまない、この子を頼めるか」

「は、はい!さあ、行きましょうメアリ様!」

メアリはおろおろと、俺の顔を見上げた。不安げに水晶玉の瞳が揺れる。俺は安心させるために、僅かに笑った。

「大丈夫。少し離れるけれど、もちろんメアリのことは守るよ。心配しなくていい」

「ギルド様…?」

「メアリ様!行きますよ!ここにいては危ないです!」

メアリがギルド様、と言うより早くそのご令嬢がメアリを講堂の外へ引っ張った。俺は彼女たちを見送り、教師陣が苦戦している悪魔にひっそりと魔法を放つ。

「<破滅(ルーイン)>」

教師陣のどよめきが起こった。

悪魔の身体が崩れ落ち、すうっと灰となって消えていく。


「さて、この騒動の首謀者を見つけなければ」

俺は窓から抜け出し、青空を舞う大量の悪魔を見上げた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ