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現代に潜む魔王  作者: 夜亜
第一章 魔王復活編
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プロローグ〜魔王と皇帝の出会い〜

かつて人間でありながら人間の世界を追放された男がいた。かの者は膨大な魔力を持ち、万象を見透かす夜色の瞳を用いた。そのうち悪魔も神々さえも彼の前にはひれ伏した。 

誰もが恐れ慄き、忌み嫌い、生涯近付くことのなかった孤独な存在。

彼の名は、魔王。

魔王ギルド・ディルファ………


どこまでも昏い闇に覆われた夜。青き月は翳り、微かな光を地上に送るだけ。

真下には、その漆黒の世界に相応しき城。

…そこは、魔王城だった。

魔王城の最上階にある<琉流の間>にて、1人の人間が窓から人間界の"全て"を見ていた。黒の蓬髪に、浮世離れしているほどに整った造形。彼の瞳には、この世界とはこれまた違う別の夜空が宿っていた。藍色の空に無数の星を抱え、途方もないその力が"全て"を見透かす。


彼が見ていたのは、寝静まった人間の都市。しかし、僅かにも談笑が聞こえる。明かりが灯り、住居が立ち並び、豊かなのが伺える。

少し前までは考えられない光景だった。

人間の都市はこの世界に於いて格好の餌なのである。魔界に棲む悪魔、人間を自分達の娯楽の駒としか見ていない神々。目を閉じて寝れば、二度と目を覚ますことはない。待ち受けているのは、死。人間達は自分達では淘汰できない圧倒的な力の前に無力であり、そしてビクビクと怯えていた。都市は経済的にも一向に発展を遂げず、成人まで生きられれば幸運だと言われるほどに。

しかし、ある時を境に人間界は、劇的に変化する。

人間界からぱたりと悪魔が消え去り、神々による理不尽な遊びがなくなった。

しかし、その理由を、誰も知ることはなかった。

ましてや、"魔王"が、人ならざる者たちから、人間たちを守り、そして闇に包まれた自身の城の中から彼らの平和を見守っていたなんて。


今日も、穏やかな人間界の様子を、優しげに、そして僅かな羨望の眼差しで見納め、魔王は微笑んだ。


たとえ、己はその中に身を置けない人間だと知っていても。


たとえ、自分のしたことは誰にも知られずに、世界がもたらしたほんの偶然だと片付けられても。


それでいい、と彼はその現実から目を逸らすように、瞳を閉じて、夜空に幕を下ろす。

今日も悪くない日だった、と彼が窓辺から離れ背を向けたときだった。

「あ、まずい!ごめんなさい!!割れちゃうなあ、これぇ!」

良く通る、それでいて心地良いテノールの声。

何を、と魔王が聞き返すよりも早く、衝撃音が走った。パリーン!!とガラスが砕け散って、宙を舞った。驚きつつ、魔王はそれを魔法で停止させ、そして振り返る。

じっ、とこの闇夜の訪問者を目視した。

見たところ、見なりの良い男だった。白い軍服に、白いマント。肩から斜めに掛けた青のサッシュ。煌びやかな金の装飾品。これは、貴族の域ではない、高貴な衣装だ。マントもサッシュも、この時代では権力者の象徴である。

つまり、この男は皇族か。

人の良い笑みを浮かべながら、皇族らしき男は尻をはたいて、立ち上がった。

「痛てて…いやあ、ごめん!昔から僕、魔法操るのが苦手でさあ…?」

よいしょ、と近くに転がってしまっていた剣を回収し、やあ、と男は親しげに片手を上げた。この男はなんと、剣に乗ってここまで来たらしい。

「誰だお前は…?」

「はじめまして、魔王様。僕は、ルイス=シルフォノ。お察しの通り、ディセルダントの皇太子さ」

「皇太子…そんな奴が、俺に一体何の用だ?」

警戒心丸出しの魔王に対して、くす、と笑い流すルイス。まるで心が読めない。ルイスは剣を鞘に収め、魔王に手を差し出す。魔王が不可思議そうに眉を上げれば、ルイスは一層笑みを深めた。


「親愛なるギルド=ディルファ。僕と友人になってほしいんだ」

「…は、?」


それが、魔王と皇帝の出会いだった。


唐突な申し出に面を食いつつ、ギルドは決して首を縦に振ることはなかった。それはひとえに、この男の行く末を案じたからである。皇太子の彼の未来に、忌み嫌われる魔王が関わっていてはいけない。ギルドは自分の立場と影響力をよくわきまえていた。

しかし、ルイスはしつこかった。何度追い返しても、何度も夜の魔王城を訪れた。どんなに城の姿を見えなくしても、ルイスの剣が見つけてしまう。

「何故それほどに、俺と友人になることにこだわるんだ?」

「んー、運命、かな?こうなることは最初から決まってたんだよ。僕らが生まれるよりずっとずっと前からね」

歯の浮くような台詞を平気で口にしながら、笑うルイス。何を言ってるんだこいつ。

だが、そのうち、ギルドは彼の熱意に根負けした。


彼らは良き友人だった。

時には、魔法が不得手なルイスにギルドが魔法を教えたり、ルイスが毎度持ってくる手土産に頰を落とされたり。

ルイスが来てくれるだけで、闇夜に包まれた城がぱっと華やぐ。彼といる間、ギルドは孤独感に苛まれることはなかった。

ギルドにとって、ルイスは生涯においてかけがえのない友人だった。

ルイスにとってのギルドも、同様だった。


だが、あの日。

彼らは、友人ではいられなくなったのだ。


やがて。

最後には死を別ちた。


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