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お嬢様のご帰還

「お嬢様、今までどちらにいらしたのですか?」

 ダンジョンを出ると外は夕方になっていた。

 傭兵に魔物の持ち出し数を申告した後、屋敷に着いた俺とオロは門の前で仁王立ちをしているメイドに見つかってしまった。先程、屋敷でオロの隣についていたメイドさんと同じ人だ。口元は微笑みを浮かべているが、腕を組み、主をじっと見つめている。恐ろしい程の威圧感だ。

「の、のうエスメラルダよ…。儂もな、依頼主としてちゃーんと見張っておく必要があったのじゃよ…。コイツが言われたとおりに捕獲してきてくれるか分からんじゃろ?」

 オロは引きつった笑顔で俺の方を指す。

「で、あればなぜ私に相談されなかったのですか?しなかったということは私に対して何か負い目があったということですよね?あるいは反対されるということが分かっておりましたよね?」

 エスメラルダと呼ばれたメイドさんは論点をズラして反論する。内容が内容だから現地で要望を説明するのは否定しないんだな。オロを見ると冷や汗をかいている。

「む、むぅ。しかし、決して儂も黙って出ていこうと思っていたわけじゃないんじゃ。お前が偶然いなかったから…」

「門の前におりましたが?」

「いや、偶然おらんかったのじゃ!」

「今日のお仕事は片付いていましたので、門から逃げ出すのも見ていましたし、お嬢様が帰ってくるまでずっと門の前に立っておりましたよ?」

 会心の一撃。嘘の露呈。朝からずっとかい。凄いなこの人。

「ぐ、ぐぁ」

 オロはうめき声をあげる。エスメラルダさんは追撃の手を緩めない。

「しかもお嬢様がピリタ様を追いかけて出る前に、一度呼びかけましたよね?戻ってきなさい、と。その際になんでしたら目も合いました。常々言っておりますよね、行動には責任が伴う。ある行いをしたからにはその行動について責任を負わねばならないのです」

「…つまり?」

 オロはおずおずと聞き返す。エスメラルダさんはため息をつきつつ、

「外出禁止です」

と告げた。お隣のお嬢様は青くなっている。

「よ、ようやく魔物を捕まえてこれからというのに!まだ本も記録も足らんぞ!」

 エスメラルダさんはにっこり笑う。笑顔というのにここまで圧をかけられるのか…。

「返事は、はい、ですよ?お嬢様」

 論戦の末に、外出禁止になったオロは崩れおち、ヘナヘナと座る。エスメラルダさんはそんな小康状態のオロを抱えて屋敷の中へと歩いていき、別のメイドへ引き渡した後、俺の方へ戻ってきた。

「ピリタ・ガーシュ様。今回はありがとうございました。おかげさまでお嬢様も無事です」

 エスメラルダさんは深々と頭を下げた。

「自分の主なのに結構追い込むんですね…アイツを」

「プラティーノ家の当主、オロお嬢様の御父上のネグロ様はお世辞や媚びへつらいを嫌いな御方なので…」

 ネグロ・プラティーノは貴族の中でも民衆派の人物と聞く。自分の屋敷の中でも徹底しているのだろう。

 エスメラルダさんは金貨2枚を袋に入れ、俺に手渡した。

「ギルドへはすでに支払い済みです。こちらは当家からの気持ちとなります」

 冒険者ギルドの依頼報酬はギルドが仲介役となり、報酬を受け取る。基本的には前払いでギルドが預かるのだが、貴族などのある程度名前が知られていて信頼がある人物は後払いも可能となっている。

 俺は金貨を受け取り、自分の袋へと収納する。

「ピリタ様、また依頼を出させていただきたいのですが、可能でしょうか?」

 エスメラルダさんはそう言った。なんとなーくだが朝の一件で騙されたので正直いって受けたくない。

「…なんでしょう」

「またお嬢様の趣味に付き合っていただきたいのです。お嬢様は私が止めても絶対にまたダンジョンへと行くでしょう。それで1人でダンジョンに行くよりは最初から誰かと一緒に行かせた方がまだ良いと思うのです。黄鉄鉱の冒険者ともなればお嬢様を安心してお任せできます。現にこうして無事に連れて帰ってきてくださりましたし…」

「正直、俺は朝、騙されたのでもう嫌です」

 直球で答える。あんな芝居にはもう付き合いたくない。エスメラルダさんはまた頭を下げる。

「本当に申し訳ございません。私は止めたのですが…あの方は聞く耳を持ってくださらないのです」

「そこも嫌なんです。ダンジョンで俺はアイツに危険性を説いたんですが、全く聞きやしない。それどころか俺に対して講釈までたれてきました。しかもアイツは自分の命を軽視している。死のうとしてる奴を守れるほど俺は強くないです」

 ダンジョンでオロに言われたことをそのまま伝えた。あの場では思わぬことが重なってしまって言い負かされたが、今回は違う。しっかりと断る姿勢をエスメラルダさんに伝えた。

「そう、ですか。ではこちらも手段を選んではいられませんね...」

「何を出そうと俺は受けませんよ」

「金剛石の冒険者、ディアマンテ様がピリタ様に借りを返せ、と伝えてくれと言っていました。私には分かりませんが、あなたにこう伝えれば受けてくださると」

「ディアマンテ⁈」

 冒険者ギルドの中でも頂点に位置する金剛石の冒険者、ディアマンテ。彼女は200年で第5層までしか進んでいないこのダンジョンの新階層を2つも開拓した伝説級の冒険者だ。以前、彼女とダンジョンに潜ったことがあったが、その際に大きな借りを作ってしまった。王族からしか依頼を受けないのでもう会うことはないだろう、と思っていたのだが。

「......アイツはそれでチャラにしてくれると言ったんですね?」

 エスメラルダさんは微笑んだ。

冒険者のランクは以下の通りです。

金剛石 王族や国家の依頼のみ受ける。世界中から依頼があるため、ほとんど見かけることが無い。

紅玉石・蒼玉石 冒険者ギルドの長。一般冒険者からの叩き上げが紅玉石。貴族などからのコネ立ち上げが蒼玉石。紅玉石・蒼玉石はどちらも派閥を作っており非常に仲が悪い。

黄鉄鉱 ギルド常駐の最強クラス。実戦部隊ではトップクラスの強さ。ギルド長に就任すると紅玉石となる。

磁鉄鉱 真ん中。そこそこの強さ。魔物退治が任されるのはこちらが多い。指名依頼が入るようになれば黄鉄鉱まであと少し。

石 初心者。無名。薬草拾いや聖水集めなどのアイテム収集がほとんど。たまにイキリたった初心者が魔物退治を受けることがあるが、失敗するか死ぬかどちらかで消えていく。最近ではギルドで初心者講習などを行い、数を温存しているという。

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