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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第5章:正史世界の魔女と騎士とアルラウネ【失われた記憶編】
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78.名古屋が大ピンチ

 関所に入ると、早速騎士団員に止められた。険しい顔をした男が、薙刀を使って通せんぼしている。


「通行許可証は?」

「あー……ないです」

「身の上を述べよ」

「神戸のギルド魔女の家のノエルという者です」


 粛々と述べると、男は「えっ」と低い声をあげた。それから近くにいた男と、何かヒソヒソと相談しているようだ。

 そう言えば、と記憶を探ってみる。

 この男には見覚えがあるような気がした。見たとしたら、博多の騒動のときだろう。神戸名古屋連合軍に参加していたような気がする。


 しばらくして、男がまたノエルを見た。


「なぜ魔界に?」

「私達が追ってる四神教の悪魔が、先程まで魔界の名古屋付近にいました。最近名古屋で四神教の教団員が発見されていると聞きましたし、何かあるんじゃないかと」


 努めて礼儀正しく述べると、男は「なるほど」と頷いた。


「わかった、市長には俺から言っておこう」

「いいんですか?」


 聞き返しながら、内心ほっとしていた。形式的に聞き返してしまったが、通れるならそれに越したことはない。むしろ心変わりされると困るので、しまったなと思った。


「四神教絡みのことであれば魔女の家に協力するよう、市長から厳命があってな」

「え、そうなんですか?」


 男から飛び出した答えは、想像もしていなかったものだった。名古屋市長とは一度しか話したことがない。そのとき妙に気に入られたようだったが、そこまでしてくれるとは驚きだった。

 男は「そうなんだ」と苦笑する。


「市長はお前達のことを痛く気に入っているんだ。精神的強者だと言っていたよ」

「なんかむず痒いですね」

「素直に喜べばいいのよ、こういうのは」

「喜んでるよ?」


 少し談笑していると、男がまた苦笑した。ノエルは「すみません」と苦笑しながら、また「ありがとうございます」と礼を言って関所を通り抜ける。

 男の前を横切り、ゲートを通る。

 ここからは、魔界だ。自然と気が引き締まる。


 関所の建物から出ると、乾いた空気が吹き抜けた。

 荒涼たる大平原が、目前に広がっている。植物が一つも生えていない、土と砂と石だけの大地だ。流石に関所付近に魔物の姿はないが、明らかに壁の内側と空気が違っている。


 少し先に、建物が見えた。

 北西の方角だ。異世界から漂流した建物らしく、豪華な装飾が目立つ。白い壁に青い屋根。屋根には金色の十字架が飾られている。明らかに四神教の好みそうな建物だった。

 それにしても、どこかで見たことがあるような建物だ。


「アイコ、あそこ?」

「うん、あそこよ」

「竹下の北にあったのと似てるな」

「ああ、それだ!」


 既視感の正体に納得しながら、念の為剣を抜いておく。魔界ではいつ魔物が襲ってくるかわからないため、武器は常に抜いていたほうが良いのだ。


 街道も整備されていない荒野を、北西の方角に歩く。段々と近づいてくる建物は、明らかに異質だ。何も無い荒野から完全に浮いている。ずっと見ていると寒気がしそうなほどに。


 結局、何もないまま建物の前まで来た。壁からは結構離れている。魔物の生息域のはずだが、魔物の姿は見当たらない。四神教がこのあたりの魔物を狩り尽くしたのだろうか。

 剣を携えたまま、扉を開ける。ギィ、と音を立てて扉が開いた。


「さてさて、すごく既視感があるね」


 内装は教会然としている。長椅子がいくつも並べられ、奥には壇がある。竹下の北で見た光景と、全てが一致していた。

 ノエルは迷うことなく、奥の壇に歩み寄る。


「もしかしてまたこれか?」

「とりあえずやってみよっか」


 ルミとノエルで壇を押すと、やはり動く。今度は反対側から引っ張っていくと、壇の下に階段が現れた。

 二人は並んでため息をついた。


「芸がないな」

「芸がないね本当に」


 四神教はよほど地下が好きらしい。

 博多にあったロイの拠点以外は、全て地下だ。普通は壇で隠しておけば十分なセキュリティなのかもしれないが、こうも一辺倒だとセキュリティがザルに思える。

 敵ながら、それでいいのかと思ってしまった。


 階段を降りてみると、やはり扉が一枚。鍵がかかっている。


「よーし、久しぶりにやるよ」

「よしやれノエル」

「サンディ、離れてたほうがいいわ」

「え?」


 アイコがサンディを少し下がらせたのを見てから、ノエルは魔神剣で扉を思い切り叩き斬った。扉が真っ二つに割れ、音を立てて崩れ落ちる。

 ルミが満足げに微笑んでいた。


「やはりこの手に限るな」

「だよねー」

「……ノエルって結構雑なんだな」

「脳筋なのよ、この子」


 扉の先へと進むも、誰もいない。ここはこの部屋だけのようだ。広い部屋の壁際に、本棚がいくつも並んでいる。部屋の中心にはデスクがあり、何らかの機械と思しきものと試験管が置かれている。

 明らかに研究室といった風情だ。


「誰もいないのが気になる……ここから街に教団員が来てるんじゃないのかな」

「ヒヒヒ、御明察であるぞ」


 何者かの声が響いた。

 剣を構えながら見渡すと、背後に声の主の姿があった。見た瞬間に、寒気がした。鳥肌が立ち、剣を握る力が強くなる。

 サンディが目を血走らせていた。

 グレイアッシュの悪魔だ。


「お前か! アサヒを襲ったのは!」


 サンディは剣を構え、切っ先を相手に向けて叫んだ。飛び出すかと心配したが、杞憂だったようだ。彼は冷静に、だが殺気を漲らせたまま敵を見据えている。


「さてお前らは魔女の家であるな? 名古屋の街に戻ってみると良い。実に良い時に来たものだと褒めてやろう」

「どういうこと?」


 悪魔はただただ笑っている。不気味なほどに、満面の笑みを浮かべている。


「至上の快楽、愉悦、娯楽。戦の時間だ。今頃は名古屋の街で教団員が暴れている頃だろう」

「何だと?」

「俺の最大! の趣味の時間だ! そこの男との決着は戰場でつけることとしよう」


 言って、悪魔は姿を消した。


 その瞬間、地面が激しく揺れた。本当に戦いが始まっているのだろうか。不安と焦りが募る。人族最強と謳われる市長がいるとはいえ、街で戦いが始まれば民間人の被害は避けられない。

 ノエルは仲間達に向き直った。


「みんな、名古屋に戻ろう!」


 言って、影扉を出す。ルミとアイコがすかさず影扉に飛び込んだ。ノエルは残されたサンディに向き直る。彼は未だ剣を構えたままだ。


「サンディ! あんまり悠長に転移させられないと思うから、走って来て!」

「ノエル、俺……!」

「アイツを見つけたら絶対に知らせるから! 少しでも多くの人を逃がしてほしい」


 ノエルの真剣な言葉に、彼は少し俯いた後、顔を上げた。そして力強く頷く。


「ああ、わかった! 任せてくれ! 今度こそ人を守るために俺は剣を振るう!」

「よく言った! 頼りにしてるからね!」


 それだけ言って、ノエルも影扉に飛び込んだ。

 街の外などと悠長なことは言っていられない。

 影扉をそのまま名古屋の街に繋げた。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

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