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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第5章:正史世界の魔女と騎士とアルラウネ【失われた記憶編】
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66.ノエルとルミの京都観光! 後編

 続いて向かったのは、五重塔だった。

 影の世界の本物を見る前に、模造された観光名所である五重塔で下見しておこうということになったのだ。近くで見ると、荘厳だった。背の高い建物は、倭大陸にはあまりない。

 あったとしても、異世界からの漂流物か、浮遊都市で見たような旧時代の遺物くらいである。

 これも旧時代の遺物に近いが、違うのは現在の人々が手を入れて補修を行っているということだ。


 途方もない年月、街を見守ってきた塔を見て、ノエルはただただ感心するばかりだった。


「綺麗だね」

「だろう?」


 ルミの笑顔が、誇らしげに見えた。


「質素な感じもするんだけど、不思議と華やかに見えるというか……なんだろうね、神秘的というのともまた違う気がする」


 神秘的というよりは、少し身近な存在に感じられる。

 そして、気付いた。

 周囲にある民家は、この塔を参考にして造られているのではないかと。朱色に黒色を混ぜている建物が多いのも、五重塔の色を真似ているのではないか。

 そう思うと、やはりこの塔は神聖にして身近なのだと思わされる。


「ま、中は結構がっかりだけどな」

「そうなの? 入ってもいい?」

「うん、入ろう」


 中に入ると、ルミの言っていたことの意味が理解できた。

 何も無いのだ。立派な柱以外に、何も無い。ただ寒々とした空間が、天井まで吹き抜けていた。


「なるほど、確かにがっかりかも」

「本来は昔の宗教の何かを象った像などがあったらしいんだがな、それは再現できなかったそうだ」

「その宗教って四神教とも白教とも違うんだよね?」

「ああ、現在だと白教以外は異教だからな、そういう意味でも再現しにくいんだろう」

「寂しいね、なんか」


 四神教が台頭してくる前は、もっといろいろな宗教があったのだろうと五重塔を見ていると想像がつく。これは明らかに四神教のものではないが、宗教的な意味合いがある建物だというのは全体の雰囲気からも予想がついた。

 実際にいるらしい四柱神とは別に、人々は多くの神々を想像したのかもしれない。その想像に人々は祈りや願いを乗せ、空想に救いを求めていたのだろう。


 それが、現実に救いを求めるようになった。

 空想という救いが、否定されたような気持ちになって、とても寂しかった。


「まあでも、私はここが好きだったよ」

「そうなの?」

「うん、子供の頃父さんに怒られるといつもここの柱に隠れてたんだ。ほら、そこ」


 ルミが一本の柱に走っていった。

 それから柱の陰に隠れ、しゃがんでいる。

 ノエルが近づくと、「わっ」と大きな声を出した。ルミの声が響いて何度も聞えてくるのが面白くて、笑ってしまう。


「あはは、ルミって結構かわいいよね」

「意外か?」

「ううん、かわいいのは知ってた」


 ただ、少し不思議な気分だった。当たり前のことなのに、ルミにも子供時代があったんだなと改めて思ったのだ。

 照れたように笑う彼女の顔が、ちょっと子供っぽく見える。


「次はどこ行くの? ルミちゃん」

「ノエルって結構からかうの好きだよな」

「へへへ」


 笑い合いながら五重塔を出ると、空はもうしっとりとした茜色に染まっていた。振り返ると、五重塔が西日に照らされていて、より幻想的な雰囲気を放っている。


「もうこんな時間か」

「どうする?」

「帰ろうか、夕食もあるしな」

「もういいの?」


 ノエルが問うと、ルミはにっこりと笑った。


「見たいものは見られたからな。ノエルがもっといたいならもう少しいるか?」


 ノエルは少し考えた後、首を横に振った。

 それからルミの腕に自分の腕を通し、抱きつくようにしてくっつく。なんとなく、そうしたい気分だった。


「ルミの昔のことがわかって、楽しかったよ」

「そうか、じゃあ帰るか」

「うんっ! 帰ってカイちゃんのご飯食べよ」

「酒もな」

「明日は頼りにしてるんだから、今日は少しだけ量抑えてね」


 ノエルがぎゅっと腕に抱きつきながら言うと、ルミは耳を赤くしながら目を逸らした。それから「善処する」と言って笑う。

 その言葉にノエルも笑い、影扉を出してそのまま腕を組んだまま家に帰った。

 結局、自分のルミに対する今の気持ちはわからなかったが、それでも今はよかった。ただ彼女のことが知れた気がして、とても気分がいいのだ。


『まったく……もどかしいわね、この子』

『珍しく意見が合うではないか』


 家に戻って腕を組んだ二人を見てアイコがニヤニヤとした顔を浮かべているなか、心の中からエラとフロウの声が聞こえてきた。

 うるさいですよ、と心の中で訴えかけ、ルミの腕から離れる。

 それからはアイコとカイに少しいじられながら楽しく食卓を囲み、順番に入浴した後、いつも通りノエルとルミが二人で晩酌をはじめた。


 ルミが台所から持ってきたのは、少しだけいい酒だ。神戸の近隣の三田という村で造られている米酒で、芳醇な米の香りと甘みのバランスがいいのだとルミは言う。

 ノエルが適当に作ったベーコンとじゃがいものバターソテーをつまみながら、酒をちびちびと飲む。たしかに、飲みやすく華やかな味だった。

 だが、度数が高いのかすぐに回ってしまい、ノエルは管を巻いている。


「ねえー、ルミはさ、ここに来たこと後悔してない?」


 今まであまり考えないようにしてはいたが、不安だった。

 ルミはなし崩し的に、ノエルについてきたように思えたのだ。あのとき、ロイを倒してアイコにロイが殺されたとき、本来ならルミの戦いは終わったはずだからだ。

 少なくとも、ノエルはそう思っていた。


 だが、ルミは首を横に振った。


「してるわけがないよ」

「ほんと?」

「確かに父さんのことが終わって、そのまま京都に戻ることだってできただろう」

「うん」

「ただな」


 ルミは言いかけて、ふっと笑う。

 それから酒を煽り、また口を開いた。


「やっぱり終われなかったんだよ。父さんを利用したアランというのを倒さないと、終われなかったんだ。なんのために父さんは身の回りも信条も利用してまで、狂わないといけなかったのかと思うとな、あそこじゃ終われないんだ」

「……そっか」


 ノエルはルミの肩に頭を預けながら、酒を一口飲んだ。ぐらぐらとする頭の中が、少しマシになった気がする。


「それにお前と一緒にいて私は楽しいんだ。もちろんみんなともな。だから、あそこで終わらなくてよかったよ」


 気づけば、ノエルは泣きそうになっていた。涙が出ないように酒をもう一口飲んで、ルミの腕に自分の腕を巻き付ける。


「ノエルこそ、復讐相手はアイコだったわけだろ? で、仲直りをして終わりにできたか?」

「ううん、終われないよ」


 考えるまでもなく、口から答えが出ていた。

 確かに親の仇はアイコだったが、その奥にあったのは予言書だった。

 それに、アイコが語った数々の悲劇的な未来には、アランと四神の存在があった。彼らが世界を滅ぼそうとするのなら、ノエルは戦いたかった。

 今感じている隣にいる大切な人の温もりと、この温かで笑い声に溢れている家。そんな幸せを終わらせるわけにはいかないから。


「あと、私も今楽しいんだ。大変なことはいろいろあるけどね? あなたとこうしてるのも好きだし」

「今日は随分甘えてくるよな」

「嫌だった?」

「ううん、私もこうしているのは好きだ」


 その言葉に、自分の言葉に、頭の中に抱えていたモヤモヤが晴れたような気がした。自分の心の中の、ぽっかりと空いた穴に何かがハマるような感覚がした。


 ――そっか、私、ルミのことが好きなんだ。


 自覚した気持ちに、途端に恥ずかしくなり、ルミの腕をよりきつく抱きしめている自分がいた。恥ずかしいから離れたいと一瞬思ったが、やっぱり離れたくなかった。

 今日ファンクラブの男に感じた感情は、嫉妬だったのだ。

 気づくと、途端に笑えてきた。


「どうしたんだ?」

「ううん、いつか話すね」

「ん? うーん……? 楽しみにしてる?」

「うん、してて」


 それから、ルミが満足するまで晩酌をし、それぞれの部屋に戻って眠った。ノエルは酔っ払った心地よさのなか、ベッドに潜り込むと同時に足をバタバタとさせ、枕に顔を深く埋めた。

 そのまま、眠りについた。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

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