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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第5章:正史世界の魔女と騎士とアルラウネ【失われた記憶編】
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64.土の精霊の居場所

 グリム歴2000年11月18日。


 博多での騒動が終わり、溜まっていた仕事も落ち着いていた。細々とした仕事はアルも手伝ってくれたのだ。アルに給料を渡すと、彼女はとても喜んでいた。

 アイコはというと家にすっかり馴染み、毎日楽しそうにしている。アイコから残りの精霊の居場所を聞いたが、情報漏洩を避けるために随時教えるということになった。

 ただ、次は土の精霊が良いらしい。


 そして今、アイコが全員を集めていた。


「土の精霊の居場所を発表するわ」

「太鼓とか叩いたほうがええか? 結果発表! って叫ばんでええか?」

「要らないわよ」


 アイコとラウダのやり取りに苦笑しつつ、咳払いをした。どんなときでも明るいのはこの家の長所だが、こういうところは玉に瑕だ。


「京都の五重塔というところにいるわ」

「五重塔? 塔が5つ重なってるってこと?」

「旧時代の遺物を再現した建物だな。屋根が五重になっているんだ」


 ノエルが首を傾げていると、隣のルミが補足した。彼女は得意げに鼻を鳴らしている。地元の話が出たからか、少し嬉しそうに見える。


「ただ、精霊がいるのは再現した場所じゃないわ。あそこはただの観光名所よ」

「まあ、精霊がいるというのは聞いたことがないし見たこともないな」

「つまりあれか? モノホンの五重塔か?」


 ノエルは、「あっ」と声を漏らした。

 うつろを見ると、彼女はこくりと頷いた。影の世界というのは、旧時代の日本という国らしい。倭大陸はその真上にあり、地名などに当時の名残を残しているのだと、うつろの記憶喪失が判明した後に教わった。


「影の世界に行くってことかあ」

「え~じゃあわたしお留守番か~」

「たしか魔族も入れるんだっけ」

「そうよ、まあ魔種族不可侵条約というのがあって、基本的には魔族は立ち入らないことになってるけどね」


 カイとアル以外は影の世界に入れるが、ルミとフレンは不可侵条約を破ることになるということだった。

 ルミと一緒に行けないのか、と肩を落とす。どうも、ルミと一緒でなければ心細いと感じてしまうのだ。


「ただ不可侵条約はグリムが決めたものだから、一人くらいなら問題ないんじゃない?」

「やった! ルミ! 一緒に行こ!」


 隣のルミの腕を掴み、見上げる。彼女は「もちろんだ」と言って、ノエルの頭を撫でた。


「ま、ルミは精霊を取り込んだノエルのメンタルケア的に必須ね」

「うっ、そっかあ……またああなるのか」


 精霊を取り込むというのは、苦痛を伴う。以前ガウディウムを取り込んだとき、激しい痛みに襲われたことを思い出した。


「戦力的にノエル、あたし、ルミで十分だけど……ラウダ、あんたも来なさい」

「ま、そう言うと思っとったで。俺の世界にも五重塔あるしな」

「そっか、異世界の日本から来たんだもんね」


 ラウダの故郷は異世界の日本、旧時代の倭大陸にあたる国の名前も日本。なんだかややこしいな、と思った。

 ラウダも来るのは心強いが、気がかりなこともある。魔女の家で一番戦える四人が、ごっそりと影の世界に行ってしまうのだ。

 残るメンバーもアル以外は戦えるのだが、少々不安だ。

 ただ、精霊集めに行くのなら四神教が邪魔をしてくる可能性もある。精霊の情報を相手が掴んでいないとも限らないのだ。

 今は仲間を信じるしかなかった。


「で、影の世界ってどう行くんだ?」

「悪魔はなにかの影に入ったら行けるし、魔族は影に入る悪魔にしがみついてれば行けるわ」

「そういえば私影に入ったことないなあ……ちょっと練習してみよ」


 ノエルは立ち上がり、座るルミの背後に立った。ルミの影を踏んでみる。


「そのまま、沈む自分をイメージしたら入れるわよ」

「ふむふむ……沈む、ずんずん、沈む」


 言いながら、ルミの影の中に沈んでいく自分をイメージする。足先から沼にハマるかのように沈んでいき、足首、膝、やがて下半身が全て沈むように想像した。

 すると、本当に下半身が全て影に入っていた。

 なんとも言えない感覚だ。冷ややかなようで温かな、パンケーキにアイスを乗せて食べたときのような温度感がある。

 そして、水に浮かんでいるかのような感じがした。足は地面についていないが、勝手にはこれ以上沈んでいかない。


「おお、わかってきたかも」


 今度は影から出る自分をイメージすると、体が垂直に持ち上がるかのように影から出てきた。

 これは少し面白いかもしれない。


「出発はいつにする?」

「明日がええんとちゃうか? 今日はいきなりすぎるしな」

「かと言って早いほうがいいのも確かだからな」

「わかった! じゃあそういうことで!」


 こうして、家族会議は終了となった。

 時計の針は2を指している。14時だ。今日のところは依頼も無く、別段やることもない。さてどうしようとリビングに残っていると、ルミがコーヒーを淹れてきた。

 みんなは部屋に引っ込んだり、街に出たりしてリビングには二人だけだ。うつろも自由に動き回れるからと、最近は一人で街に行くことも少なくはない。


「不安か?」

「ん? いやあ今日これから何しようかなって」


 ルミの淹れたコーヒーは、美味かった。少しずつノエルの好みに寄せられている気がする。豆選びもそうだが、淹れ方もうまくなっているように思えた。

 なんだかほっとする。

 ルミは「ははっ」と笑っている。


「なら私に付き合ってくれないか?」

「ん? いいよ、何するの?」

「二人で京都観光をしよう」


 ルミは微笑みながら言っているが、彼女なりに何か思うところがあるのだろうか、とノエルは思った。明日向かうのは、京都の影の世界。つまりは、旧時代の京都だ。

 思うところがあってもおかしくはない。


「うん、いいね」

「ありがとう、実はずっと気になっていてなあ」

「ああ、騎士団無断で抜けちゃったしね」

「それもあるし、父さんの件がどう伝わっているかとか、新しい市長は誰になったのかとか」


 たしかに、とノエルは頷いた。

 ルミはロイの一件の後、当然のようにノエルについてきたが、本来はロイのことを報告したり騎士団を正式な手続きで辞めたりするべきだったのだ。

 そう考えると、少し申し訳なくなってきた。


 同時に、京都というのがどのようなところなのか、気になってきた。ルミの生まれ育った場所が。


「私をいっぱい連れ回してね」

「何か誤解を生みそうな言い方だな」

「そうかな? ルミにしか言わないよ? こういうこと」

「ま、ますます誤解を生むよ?」


 ルミが顔を赤くしながら、頬をぽりぽり掻いた後、コーヒーを一気に飲み干した。そんなルミの様子を見ながら、ノエルもコーヒーを飲み干す。


 最近どうも、ルミに対する自分の気持ちがわからなくなってきている。最初は友達、その次はダメな姉のような感覚だったが、今はそういった感じではないように思える。

 じゃあ何なのかというと、答えが見つからないのだ。

 ただ、ルミの照れたような顔を見ると、満たされるような気がする。


「よし、早速行くか?」

「うんっ! 行こ!」


 力強く頷き、影扉を出す。

 ルミの手を引いて、ノエルは影扉に入っていった。

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