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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第2章:虐げられし魔女と魔族【魔人創造編】
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7.救世主グリム

「ん……」


 明るい。

 寝ていたはずが、なぜか明るい場所にいた。真っ白な空間が広がっている。怠い体を無理矢理起こしてあたりを見渡す。

 一人、ぽつんと佇む女性の影があった。

 彼女はなぜか、ノエルと似たローブを着ている。ノエルと同じ銀髪で、ノエルよりほんの少し背が高い。髪型はミディアムのノエルとは違い、ロングである。はじめて見るはずが、どういうわけか懐かしいような気がした。


 彼女はノエルに気がついたのか、向かってきた。

 ノエルが完全に立ち上がる頃には、眼の前にいた。


「気がつきましたか」

「ここは? あなたは一体……」


 問うと、彼女はにこやかな笑みを浮かべる。


「狭間の世界です。あなたの意識だけをここに呼び寄せました」

「ダメだ、何もわからない」

「私は白教の言うところの救世主、女神とも呼ばれているただの女悪魔のグリムです」

「え!?」


 ノエルは驚きに思わず後ずさった。なぜ救世主が自分を呼んだのか、なぜ彼女が自分と似た姿をしているのか。困惑と疑問と驚愕にまみれ、頭が痛くなった。


「あなたに伝えたいことが2つあります」


 頭を抱えるノエルの肩を、救世主を自称する女は二本指を立てながら優しく叩いた。


「はい、なんでしょうか」

「まずひとつ、魔法の使いすぎです」

「うっ」


 目を逸らしてしまう。ノエルにとっては耳が痛かった。

 うつろにも、料理中に言われていた。魔法を使いすぎてノエル自身に返ってきてしまうことを、うつろも危惧しているようだった。

 救世主もそうなのだろう。

 だが、当の本人はあまり気にしていない。なぜかはわからないが、それはそれでいいのかと思っている自分がどこかにいた。


「もうひとつ、もっと自分の感情に目を向けてください」

「それはどういう……」

「感情を糧に魔法を使うというのに、あなたはその感情を無碍にしているように思えます」


 言われて振り返ってみるも、ノエルにはわからなかった。感情を無碍にしているという言葉の意味が、わからなかったのだ。

 ノエルは自分ではしっかりと、悲しみにも怒りにも殺意にも目を向けているつもりだった。


「特に、あなたは自身の絶望に鈍感すぎます」

「絶望、ですか」

「あなたの心の、魂の根底にある絶望を思い出してください」

「そう言われても……」

「どうして、お父様がお亡くなりになる前から、あなたは絶望していたのか」


 どくん、と心臓が跳ねた。

 父親が殺される前から絶望していた、という言葉が身に覚えがないにも関わらず、心が何かを叫んでいるかのようだった。


「とにかく、自分自身にも目を向けることです」

「あっはい、そうですね」

「説教臭くなっちゃいましたね」


 救世主が、にっこりと微笑む。


「まあ実際お説教でしたしね」

「ふふふ」

「へへへ」


 二人して笑い合うと、救世主は左手首を見た。腕時計でもあるのかと思ってノエルも彼女の左手首を見てみたが、そこには何もなかった。


「そろそろ時間です」

「時間?」

「お友だちがあなたを起こしてますね」

「ああ、でも私寝起き悪いからなあ」


 父親がいないときは、毎日アイコが起こしに来ていた。師匠のところに泊まり込みで行っていた日には、起きようと思っていた時間の4時間後に目が覚めるということも日常茶飯事だった。

 そのうえ、起こされてもなかなか起きないのだ。


「ならもう少し時間がありますね」

「お恥ずかしながら」


 救世主の顔が近づく。

 口づけでもするのかと思ってしまうほどの距離に戸惑っていると、彼女は自分の額をノエルの額に押し付けてきた。その瞬間、じわりと温かい何かがノエルの中に入り込んだ。

 気の所為ではなく、比喩でもなく、確実に何かが自身の中に入ったという実感があった。


「何をしたんです?」

「おまじないです。これが一番の目的だったの忘れてました」

「おまじない?」

「効果が出るのは、まだ先です」

「んん?」

「いずれわかります。とりあえず、今日はここまでですね」


 その言葉に促されるかのように、ノエルは無意識で自分の体を見ていた。半透明になり、消えかかっている。直に目が覚めるのだろう。


 ――そういえば、ここでの出来事って覚えてられるのかな。


「覚えていられますよ、またお会いしましょうね」


 彼女はノエルの心の内を見透かしたかのように笑う。


「今度はお説教抜きでお願いします」

「あなたが良い子にしていれば、ね」

「ああ、無理かもなあ……」

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