63.ノエルとアイコ二人のケジメ
ラウダが商会の現会長リンとレンの力を使い、本当に闘技場を三時間ほど貸し切ってしまった。観客は魔女の家の面々と、アル、レント、なぜかユーリアだけだ。うつろも観客席で、ルミの膝の上に座っている。
闘技場の真中で、ノエルとアイコが剣を構え睨み合う。最早戦う意味などあるのかわからないし、戦わなくともなし崩し的に仲直りは出来たかもしれない。
それでも、ノエルはここで戦わないといけない気がした。
皆が見ていることが、きっと大事なのだ。これは二人にとって、ケジメなのだから。見届人がいなくては始まらない。
闘技場という舞台も、今となってはこれ以上ないほどに相応しいものに思える。
「ノエル! 本気で来なさい!」
「アイコもね! 手加減したら承知しないから!」
誰もが固唾をのんで見守っている。
誰もが、この戦いに意義を唱えずに見つめている。
二人は、誰に合図されるでもなく、同時に動いた。互いにまっすぐに、剣を構えて突っ走る。ノエルとアイコが同時に影腕を出し、腕同士が取っ組み合う。両者共に八本。全てが絡まり合う中、二人の剣が交差する。
甲高い音が響いた。
手首を返して往なそうとするアイコ。ノエルは魔銃剣で光の剣の瑪那を吸収する。そのまま彼女の手を斬り落とす勢いで剣を振るうも、拮抗していた圧力が消えバランスを崩した彼女の手は自然と剣の軌道から逸れた。
アイコは後方に跳躍し、懐から短剣を取り出し、投げる。瑪那回路が赤く光っている。自動追尾型の魔導短剣。ノエルは真正面からそれを叩き落とすも、落ちた短剣はくるりと向きを変えノエルの喉元へと迫る。
上体を逸らして避けるノエルの胸元に石柱錐が迫った。少し身を捩るが、完全に躱しきれない。右肩を少し掠め、血が噴き出る。
ノエルは痛みに声をあげながら、石柱錐を右手から射出し、牽制。炎弾を放とうとしていたアイコは右に跳躍。
再び迫りくる魔導短剣の瑪那を吸収し、魔銃剣のモードを変更した。
剣からエネルギー弾を放ち、アイコの炎弾を相殺しつつ、魔神剣の飛ぶ斬撃を放つ。
「ええ戦いしとるな」
「うん、二人共互いの手がなんとなく察せられるんだろうな」
炎弾の爆風で見えなかったのか、避けずにいるアイコに斬撃が迫る。ノエルは石柱錐を彼女の向かって右手側に射出し、駆け出した。
飛ぶ斬撃を跳躍して避けようとしたアイコの足に石柱錐が刺さり、抉りながら貫通。バランスを崩したアイコはそのまま地面に倒れ込んだ。
彼女の胸をめがけてノエルが剣を突き刺そうと振り上げる。瞬間、アイコは地面の砂を掴み放った。咄嗟に目を閉じて後方に跳躍した瞬間、背中に重い衝撃と痛みが走る。
ノエルの体は吹き飛ばされ、そのまま闘技場の壁に正面から激突した。
「まさか砂なんて投げるとは……」
鼻血を出しながら、鼻声で呟いた。
「卑怯って笑いなさいよ」
「笑わないよ、だけど勝てるって思った!」
言いながら、ノエルは頭上に巨大な雲を作り出した。
いや、これは雲ではない。巨大な暗黒物質の塊である。雲はみるみるうちに一つの巨石となり、炎を纏った。巨大な石柱錐で迎え撃とうとするアイコの足元を凍らせ、踏ん張るアイコの足元をぐらつかせる。
「暗黒隕石!」
叫びながら、風魔法で勢いを付けた巨大な暗黒物質の隕石を闘技場に落とした。アイコの巨大な石柱錐はバランスを失ったことで崩壊。
隕石が闘技場の地面に落下し、轟音と地響きが鳴り渡る。観客席にまで伝わる凄まじい衝撃に、ノエル自身も吹き飛ばされないように踏ん張るので精一杯だった。
爆炎の中に目を凝らす。
しかし、誰もいなかった。
「どこ行った!?」
あたりを見渡すも、アイコの姿はない。ふと、頭上に影がかかったような気がした。
見上げると、アイコが宙を浮いていた。左腕を失ったアイコが空中から放った石柱錐と光の矢を、剣で撃ち落とす。甲高い音が断続的に鳴り響いた。
躱し、撃ち落とし、また身を翻して躱す。
しかし、対処しきれず石柱錐に左腕を吹き飛ばされてしまった。左腕を失った痛みに顔を歪ませながら、ノエルは空中のアイコめがけ斬撃を飛ばす。
アイコは空中で身を捩りひらりと躱しながら、無数に思える光の矢を空中に生み出した。
ノエルはごくりと唾を飲み込みながら、こちらも無数に思える石柱錐を空中に生み出し、回転させる。
放ったのは、二人同時だった。二人の間で、土煙が舞い、凄まじい重低音が鳴る。完全に相殺されたのか、どちらにも流れ弾は飛ばなかった。
土煙が止んだ瞬間、アイコは地面に着地していた。
「くっ、時間切れね……」
飛んでいた原理はわからないが、どうやら長くは飛んでいられないらしい。
もう面倒だ。
ノエルは剣を捨て、拳に闇の瑪那を纏わせた。アイコもふっと笑って右拳に闇の瑪那を纏わせる。
しばらくそのまま見合った。風の音だけが、闘技場に吹き渡る。
ノエルが彼女より一瞬早く、駆け出した。
あっという間に間合いを詰め、アイコが右拳を振るおうと肩を上げた次の瞬間、ノエルは姿勢を低くする。
そのまま拳を彼女の鳩尾にめり込ませ、捻った。
アイコの拳がノエルの頭上を掠め、萎れる。
しばらく二人とも動かなかった。
だが、少ししてアイコの体がぐらりと揺れた。
ノエルの肩に拳を掠めながら、アイコが倒れ込む。
彼女の顔を覗き見ると、気を失っているようだった。
ただ、アイコは満足そうに笑っている。
ケジメのための一見不毛にも思える戦い。半日と経たずに回復するとはいえ、二人とも悪戯に左腕を失った。決して褒められたことではないだろう。
それでも、腹の底から熱い気持ちが込み上げてきた。
「やった、勝ったあああ!」
思わず、右拳を高く突き上げている自分がいた。
想像していたよりもずっと、今は清々しい。
勝負に勝った。
アイコが戻って来た。
きっと、勝敗に関わらずアイコは仲直りを受け入れただろう。それでも、ただただ気分が良かった。戦っている最中、ノエルは肌で感じたのだ。
言葉はなくとも、はたから見れば殺し合っているようにしか見えずとも、アイコは自分と仲直りしてくれたのだと。
影腕でアイコの体を担ぎ、観客席にいる家族と友人に向き直る。
その顔は、故郷を出てから数えるほどしかしていなかったように思う、満面の笑みだった。
「改めて、これからもよろしくね、アイコお姉ちゃん」
もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。
よろしくお願いいたします。




