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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第3章:神戸の魔女と精霊と魔薬騒動【ギルド設立編】
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番外編1.拳闘会エキシビションマッチ

 グリム歴2000年11月6日。


 昨日は深夜まで活動していたため、早朝ゴミ拾いは休みにして少し長く寝ていたのだが、唐突に鳴り響いたノックの音で起こされてしまった。眠気眼を擦りながら「ふぁい」と気の抜けた声で扉を開けると、扉の前でレンが立っていた。

 話を聞いてみると、今日は拳闘会のイベントがあるらしいが、その特別試合に出演する予定だった人が急遽来られなくなったのだという。一人は拳闘会名誉顧問ラウダ、もう一人は博多から来る拳闘士だったが、博多との関係悪化が不味かった。

 拳闘とはいえ、今の時勢では来られないらしい。そのうえ、ラウダが昨晩ユーリアに捕まった。既に住人にはラウダ逮捕の報は来ている。


 つまり、両者が来られなくなったことにノエルは関係しており、他人事ではなかった。レンは会長を止めてくれた手前頼みにくいのですがと前置きした後で、頭を下げてきた。ノエルはもちろん、と二つ返事で了承。

 遅れて起きてきたルミとカイに事情を説明する。カイはラウダのことが未だに信じられないようだったが、レンが説明するとようやく納得した。後で、街に行って市長の出したお触れというのを見に行くらしい。

 さて、そんなこんなでノエルはルミを巻き込んで拳闘の試合に出ることになった。顔を隠した覆面拳闘士として。


 ルールはこうだ。

 武器の使用はひとつまで認められる。殺しは無論禁止である。レフェリーが試合の結果をジャッジする。武器の使用以外は、普段の拳闘と同じルールだった。

 ノエルは武器として、拳に魔法のエネルギーを纏わせる技を指定。魔法だとわかるとすぐに正体がバレるため、適当なグローブを嵌めて、闘気を纏う魔道具という設定を作った。

 ルミは試合まで明かさないつもりらしい。


 お触れを見てきたというカイが、ノエルの控室に現れた。


「展開速すぎて怖いな~」

「まあ無関係じゃないからね、盛り上げないと!」

「とか言って~出てみたいだけなんじゃないの~?」

「うん!」

「わ、わたしの想定を超える返答だ……」


 正直、出てみたかった。

 ノエルは殺し合いが好きではないだけで、戦いは嫌いではないのだ。むしろ、血湧き肉躍るという感覚すらある。心を失っていたときだって、ルミとカイに連れられて拳闘を見に来て、少しは心が動いた。


 さあ、いよいよ試合が始まる。黒い服を着た係の人が呼びに来て、入場口に待機。実況が盛り上げるための口上を述べ、選手入場の段になった。

 ノエルは用意した覆面を深く被り直し、グローブを装着し、闘技場の中央へと進み出る。


「赤コーナー! 今朝方オファーしたばかり! 謎の新人覆面拳闘士! ルーキーだあああ!」


 ノエルは拳を高く突き上げ、右手に炎を纏わせた。


「うおおおおおおおおぉぉぉ……?」


 観客の歓声が、徐々に困惑の色に変わる。


「あれ、ノエルちゃんじゃない?」

「ノエルちゃんだよな……」

「うお、あれが神戸の魔女か」


 ぼそぼそと喋る声が聞こえた後、再び歓声が起こった。なぜバレているんだろうか、とノエルは首を傾げる。

 しまった、ローブがそのままである。


「彼女の武器は闘気を纏うグローブ! 魔道具でございます!」

「魔法……」

「魔法だよな……」


 ノエルはええい、と両手を挙げ、右手に氷を左手に雷を纏わせた。地味に難しい複合魔法だ。観客から、ヤケクソに感じられなくもない歓声が沸き起こる。


 続けてルミも入場してきたが、彼女のときも反応が似たようなものだった。ルミちゃんだよな、神通力だよな、と言った後半ばヤケクソに感じられる歓声が沸き起こった。

 ルミの武器は、自分自身に神通力を使い機動力をあげる技だ。設定上は、小型のブースター装置というこっとになったようだ。

 ファイトネームは、ミナスである。


 早速正体がバレてしまって少し恥ずかしい気持ちもあったが、いざルミと向き合ってみると不思議と心が踊る。ゴングが鳴るのを、今か今かと待ちわびている自分がいる。


「それでは特別試合! 拳闘開始ィィィ!」


 ゴングの甲高い音が聞えた。と同時に、ルミの拳が一瞬にして眼前に迫る。ノエルは神通力で勢いのついた拳を、風魔法を纏わせた左拳で往なし、同じく風魔法を纏う右手で反撃。風に吹き飛ばされたルミは、空中で身を翻し、そのまま神通力で運動エネルギーの方向を変え、こちらに向かってきた。

 彼女の拳を避けると、地面に大きな穴が開く。人族相手なら、当たれば死んでいるだろう威力だ。魔族特有の怪力に神通力によるブースト。あまりにも厄介だが、それはノエルの魔法とて同じこと。

 今度は右手に雷、左手に氷を纏わせ、両拳をピタリと合わせる。腰を落とし、腕を引き、力を溜めた。バチバチ、と拳から溢れる氷の粒が光を放つ。

 思い切り勢いを付けて向かってくるルミに、ノエルは合わせた両拳を突き出した。


「相克雷氷拳!」


 相反する二つのエネルギーの間に生まれた亜空間により、ルミの体が引き裂かれる。そのままルミは、空中へと弾き飛ばされた。

 すかさず右拳に風魔法を纏わせ、地面を殴り飛び上がる。ルミの上にまで瞬時に昇り、彼女の腹に拳を叩きつけた。


「おおっと! これは痛い! スピーディ過ぎて実況が追いつきません! 解説のリンさん、先程の技はどういうものなんでしょう?」

「先ほどの技は反発するエネルギー同士の衝突により生まれる、時空の裂け目を利用した技です。氷の瑪那と雷の瑪那で生まれるのは小さなものですが、それでもあの威力。やりますね、ルーキーさんは」


 レフェリーがカウントをしている。

 テンカウントをして起き上がらなければ、負けになるというルールだ。正直、ノエルは少しやりすぎてしまった気がしていた。十中八九起き上がって来ないだろう、と。


 そして、テンカウントが終了した。


「勝者! ルーキー!」


 レフェリーに右手を挙げさせられ、歓声が起こる。ルミはようやく起き上がってきて、ノエルと固い握手を交わした。


 試合後、依頼料と称したファイトマネーを受け取り闘技場を後にする。カイは観客席から見ていたそうだが、ハラハラとしたそうだ。


「ノエちゃ~ん? やりすぎじゃないかな~?」


 目を尖らせながら言うカイに、ノエルは平謝りすることしかできなかった。自分でもやりすぎだと反省していたのだ。

 当のルミは、あっけらかんと笑っている。彼女からすれば、あの程度のダメージなど数分で完治するものなのだ。


 夜、久しぶりに三人でミドリの営む酒場に食べに行くと、見知った常連客連中からルーキーとミナスと呼ばれ、二人して顔を真っ赤にしていた。

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