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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第3章:神戸の魔女と精霊と魔薬騒動【ギルド設立編】
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46.ラウダ商会本部潜入ミッション

 ラウダ商会本部の会長室には、誰もいなかった。人の気配は周囲にはない。この部屋を出てもしばらくは安全だろうが、ここは大商会の本部。セキュリティは万全であるはずだ。

 漂流物を多く取り入れている商会だから、監視カメラや赤外線による感知システムなどがあるかもしれないとラインハートが言う。何がなんだかわからなかったが、とりあえず機械の類に注意することにした。

 調べてみたが、何もない。


「ま、奴の私室だろうな」

「あの人ここに住んでるんだっけ」

「そうだぜ、俺ぁ場所わかるからよ、俺が先導する」


 そう言いながら、カバンから何かを取り出した。長い板が二つついた球体だ。ボタンを押して空に浮かべると、板が静かに回転して宙に浮いた。

 うつろが影の中でウキウキとしているのを感じる。


「それは?」


 ルミが宙に浮く球体をぼんやりと見つめながら問う。


「ボール三十一号だ、こいつは特定の瑪那回路を探知する素敵アイテムだぜ」

「特定の回路?」

「今回は目に見えないセンサーを探知するように設定してある」

「つまり目に見えない罠に気づけるわけだな」


 ルミが言うと、ノエルが「なるほど」と呟いた。目に見えないセンサーというのにピンと来なかったが、瑪那感知のようなものだろうと納得した。

 ノエルやうつろも、ある程度の瑪那感知ができる。人類種が持つ瑪那の気配を目に見えない何かが感知し、警報を鳴らしたり罠を作動させたりするのだろう。

 ラインハートのネーミングセンスには疑問だったが、飛んでいる姿はかわいかった。


 息を殺して会長室を出て、ラインハートとボール三十一号の案内で進んでいく。


 ボールが天井に近づくと、球体から小さな手が出てきた。カチャカチャと天井を弄り、戻って来る。手をパタパタとさせて、「やってやったぜ」みたいな動きをしているように見える。


「かわいい」

「センサーを無効化したぜ」

「すごいな」


 小声で話しながら、階段を降りる。ラウダの私室は四階の奥まったところにあるらしい。一階は受付ホールと異世界の飲食物を置いてある店、二階は家電の店、三階は魔道具店、四階は商会で働く人たちの職場だそうだ。

 四階に降りると、東側に長い廊下があった。あの先がラウダの私室らしい。ボール三十一号が、またセンサーを解除して戻ってきた。


 正直、拍子抜けだった。何も起きないならそれが一番だが、商会に雇う冒険者や四神教の戦闘員などとの戦闘も覚悟していたから、肩透かしを食らったような気分だ。

 あっという間に、私室の扉の前。


「待って、人の気配がする……二人いる」


 扉を無警戒に開けようとするラインハートを制止し、ノエルは暗黒物質で剣を作る。念の為、二人にも戦いの準備をさせた。


「行くよ」


 剣を手に扉を開ける。扉の先から攻撃が飛んでくることも覚悟したが、何もなかった。部屋にいたのは、リンとレン。二人がこちらをただ見ている。


「会長から誰か侵入者が来るかもしれないと仰せつかりましたが、まさか貴方がたとは……」


 リンがため息をついて、こちらを見ている。戦う意志はないのか、手ぶらだ。ノエルは二人に武器をおさめさせて、暗黒物質の剣を消す。

 二人の様子がどうもおかしい。戦うでもなく、捕まえようとするでもなく、非難の目を向けているようにも見えない。どちらかと言えば、歓迎されているような気すらする。

 かえって不気味だ。


「ノエル様、ルミ様、ラインハート様」


 レンが唐突に頭を下げた。

 リンも続いて、頭を深々と下げる。


「会長が何をしているのか、教えてください」

「え?」


 二人とも、同じように顔を伏せたまま頭を上げた。二人は何も知らないようだ。ラウダが独断で動いているのだろう。


「何かコソコソと良からぬことをしているのではと思うのですが、教えていただけないのです」

「知りたいのです、僕達は会長に恩がありますが、何も返せていないのです」


 どんな恩があるのか気になったが、いつ帰ってくるかわからない。ノエルは手短に、ラウダにかかっている容疑について説明した。

 二人は信じられないと言って顔を顰めていたが、もしかしたらアランに元の世界への帰還を条件に利用されているかもしれないということを説明すると、表情が一変。納得したように、「なるほどです」と頷いていた。

 魔薬流通の証拠になりそうな書類かデータを探しに来たのだと説明すると、リンとレンは姿勢を正した。


「そういうことならお手伝いします」

「お手伝いさせてください」

「いいの?」

「ええ、主が道を違えたなら引き戻すのも従者の務めだと会長が仰っておりましたので」


 二人の協力を得て部屋の中を探し回ると、目的のものは意外とすぐに見つかった。見つけたのはリンだ。私室のデスクの引き出しが、二重床になっていたのだ。

 よく見つけたねと感心していると、リンは真面目な顔を崩さずに「会長のやりそうなことですから」と言ってのけた。よほど強い信頼関係があるのだろう。

 見つけたものは、魔薬の流通経路を全て記した紙の書類だった。これを見ながらであれば、魔薬販売に関わった業者や個人を簡単に特定し逮捕にまでこぎつけられるだろう。

 ユーリア市長からすれば、喉から手が出るほど欲しい証拠だった。ノエル達にとっても、無論そうだ。

 だが、ノエルはすぐにユーリアのところに行く気にはなれなかった。恐らく今、ラウダは港で魔薬の荷降ろしなどをしているだろう。

 ノエルはリンとレンの手を取り、じっと見つめた。


「協力してくれてありがとう」

「会長を止めてください……」

「お願いします」

「もちろん、そのつもりだよ! そのために来たんだから」


 ノエルは笑顔で言い放ち、紙をラインハートに託して影扉に入った。扉が閉まる間際に、二人が深々と頭を下げているのが見えて、熱い気持ちが込み上げてくる。

 カイも、ずっとラウダを信じていた。会長がそんなことをするなんて信じられないと。リンとレンは動かぬ証拠を見つけて信じるしかなかったが、それでも強い絆があるようだった。

 街の人ともそうだ。深く強い信頼関係で結ばれている。それほどまでの人物が、その信頼関係を全て壊してもいいくらいの覚悟で魔薬を売っているのだ。

 思わず、体が震える。

 それほどまでに、この魂の内側にいる魔女エラへの想いが強いのだ。心の奥底から、また声が聞こえる。今度はハッキリと、言葉になって聞えてきた。


『バカなラウダ君を止めようね、ノエル』


 どうして魔女エラの魂が自分とは別に独立して存在するのかはさっぱりわからなかったが、理解する必要は感じられなかった。ただ彼女が自分の中にいるという事実さえ、実感できればそれでいい。

 彼を止めるための材料は揃った。


「さあ、ラウダ会長の罪を精算してもらいにいこう」


 薬を街に流通させたのは許せない。

 だが、不思議とラウダ自身に対する恨みはなかった。罪は罪として憎む気持ちはあるが、彼は嫌いではない。目的も理解できなくはないし、何より彼の純粋な気持ちを利用したアランが悪いのだ。


 ノエルは港に影扉を繋げ、外へ出た。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

よろしくお願いいたします。

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