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4.旅立ち!

「そうと決まれば旅立ちの準備だね」

「幼馴染達には挨拶していかないのか?」


 一瞬目を閉じて、ノエルは頷いた。

 うつろは「そうか」と短く言い、ノエルの膝から降りた。黒い渦のようなものを出現させる。


「これは?」

「転送扉だ。悪魔と魔法使い、魔族にだけ使える。出せるのは悪魔だけだがな」

「なるほど、これで一度家に戻るわけだね」

「見つかりたくないならこれが一番だ」


 うつろは転送扉についての説明を始めた。

 悪魔にしか出現させられないが、魔に属する者であれば通れる。一度行ったことのある場所には、問題なく行けるのだという。行ったことがなくとも、方角や詳しい場所を知っていれば通じるそうだ。


「では行くか」

「うん」


 先陣を切って転送扉に入ったうつろに続いて、扉に入った。



 ◇◇◇◇◇◇



 転送扉から出ると、そこはノエルの部屋だった。つい数時間前まではここにいたのに、何故か懐かしさが込み上げてくる。

 泣きそうになるのをぐっと堪えながら、ノエルはクリーム色の肩掛けバッグを手にした。


「ねえうつろ、旅って何が必要かな」

「お前なあ……武器、当面の食料、着替え、防寒具、あとは気合いだ」

「おお……うつろってそういうキャラだったんだ」


 武器と言っても、自分の剣は戦いでボロボロになってしまった。魔法使いにとっては魔法が武器だが、ノエルにとっては剣のほうが馴染みが深い。

 剣もあったほうが良いだろうと判断し、ノエルはアルバートの部屋に移った。


「あったあった」


 父親が使っていた剣と、母親が使っていたらしい剣が壁に立てかけられている。父親の剣は、ずっしりと重すぎて振り回せそうになかった。持ち上げるのがやっとだ。

 母親の剣を持ってみると、不思議なほどにしっくりときた。まるで最初から、これを持っていたかのように手に馴染む。

 長すぎず短すぎない刀身に、重心もノエル好みの位置にあった。柄も小さな手で握りやすく、重量も程よい。これなら腰にさして歩けるだろう。

 幸い、手入れもしっかりとされているようだった。


「大切にしてたんだ、お父さん」


 ノエルには母親の記憶がないが、それがなぜか嬉しかった。

 あたりを見渡すと、剣と仕事道具以外はあまり物がない。父親のことを知るヒントがあるかと思ったが、ダメそうだ。


「仕事人間だってことがわかったけど」

「だな」


 ノエルはまた自室に戻り、椅子にかけていたローブを羽織る。白銀のローブだ。左右にポケットがあり、内ポケットまであり機能的なローブ。

 ノエルの18の誕生日に、父親から貰ったものだ。かつて、母親が使っていたローブらしく、腕を斬られたとしてもローブには一切傷がつかないというスグレモノらしい。

 その話を聞いたときは、ローブが体を守ってくれるわけではないということに落胆したが、旅をするのであれば傷つかず劣化しない服というのはありがたいものだ。


「おお、似合うじゃないか」

「これは冬には温かくなるし、夏には涼しくなるから防寒具はクリアだね」

「あとは着替えと食料と気合いだな」

「着替えかあ……同じシャツでいいかな」


 クローゼットを開けると、同じ黒無地のシャツが何枚も入っていた。それを二枚ほど掴み取り、バッグに入れる。ジーンズのホットパンツも今履いているものと同じものをもう一着、バッグに入れた。


「これでよし」

「お前、服に興味がなかったようだな」

「毎日何着ようって悩むのが面倒くさくて」

「そういうものか」


 一階に降り、日持ちしそうな食材をいくらかビニール袋に入れてバッグに詰める。

 ここから竹下までは一度野宿をすれば着く程度だから、食料は最低限で良いと判断し、バッグの蓋を閉じた。


「これでよし」

「気合いは十分か?」

「もちろんだよ」


 言って、頬を叩く。

 玄関に出て扉を開ける。茜色が射し込む村をこそこそと歩き、門にまで歩いたところでノエルはピタと足を止めた。

 眼の前に、アイコ達家族がいたのだ。

 アイコは腕を組んで、大荷物を抱えて立っている。その隣には、タンドとスールが立っていた。


「ノエル!」

「アイコ……」


 アイコは目を吊り上げて、ノエルの肩を叩いた。


「バカ! 一人で行こうとして!」

「うつろもいるから一人じゃないよ」

「そういうことじゃないのよ! って、その子うつろって言うんだ」

「そうそう」


 アイコは大きなため息をついた。抱えている大きな荷物を地面に降ろす。

 ふわり、と彼女の体が飛び上がったと思ったときには、アイコに抱きしめられていた。


「あたしも行くわ」

「おじさんとおばさんは?」

「黙って見送ると言い出したら、逆に叱ってやるところだった」

「そうよ、家族なんだから、困ったときは助け合いだよ」


 タンドとスールは言いながら、ノエルの肩を優しく叩いた。

 ノエルは目に涙を滲ませながら、アイコを強く抱きしめてから、離れる。


「ありがとう、みんな」

「ノエルちゃん、これは私ら夫婦からだよ」


 スールから、小さな麻袋を受け取った。紐をほどいて中を見ると、銀貨と銅貨が入っていた。パッと見ただけでも、銀貨が二十枚はありそうだった。


「いいの?」

「少ないが、旅の資金の足しにしてくれ」

「二人とも……ありがとう」

「ノエルちゃん、辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」


 ノエルはこくりと頷き、麻袋をバッグに仕舞った。なぜ三人が先回りをしていたのかと少しだけ気になったが、きっと自分の考えていることなど最初からわかっていたのだろうと納得した。

 自分が何をしに旅に出るのかも、きっとわかっているのだろう。

 それでも、何も追求しない二人にノエルはまた礼を言った。


「うつろちゃん、ノエルちゃんを頼んだよ」

「もちろんだ」

「村の皆、お前が魔法使いになったことには何も言わんかった。街にも隠し通すつもりだ」

「ありがとう、すごく助かるよ」


 博多という行政区は、倭大陸のなかでもとりわけ悪魔への迫害意識が強い。過去には魔女狩りをしたこともあったという。

 ノエルが悪魔と契約したという事実を村の中だけに留めておけるのは、ノエルにとってはとてもありがたいことだった。


 ノエルはアイコと向き合い、頷き合う。


「行こう、アイコ」

「よし! あたしら三人ならできないことはないわ!」

「気をつけてね」

「しっかり目的を果たしてこい」


 二人の激励を受け、ノエル達は門の外へと振り返る。頬を一度強く叩いてから、一歩踏み出した。


「行ってきます」


 短く告げ、街道を歩き出す。


 ノエルは振り返らなかったが、タンドとスールは二人の娘の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

よろしくお願いいたします。

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