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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第3章:神戸の魔女と精霊と魔薬騒動【ギルド設立編】
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31.ある日のアイコ1(アイコ視点)

 ノエルが神戸に来たと知り、認識阻害のローブを着て神戸に来た。とはいえ、金十字を背負っていれば目立つ。四神教は指名手配されている犯罪組織なのだから。アランに言うと、露骨に嫌そうな顔をしながら金十字の入っていない認識阻害のローブを支給してくれた。


「あいつの趣味なのかしら」


 言いながら神戸の街を彷徨いていると、ノエルの声が聞こえた。芸をするとかなんとか言っている。遠巻きに観察していると、ノエルが魔法で芸をやり始めた。満面の笑みだ。通行人にも普通に受け入れられているし、通行人の中には芸を見ながら近隣の露天で飲食物を購入し、飲み食いしている者もいる。

 ノエルはこの街に受け入れられ始めているようだ。

 ただ、嫌な顔をしている人も大勢いる。


「まだまだこれからね……というか、何やってんの、あの子」


 そう言いながら、ノエルの芸が終わるまで見てしまった。見ごたえがあった。魔法にこんな使い道があったとは、驚くばかりである。

 ノエルが去っていくと同時に、アイコは歓楽街のほうに足を進めた。次なる計画のため、神戸の街をよく知る必要がある。ノエル達の動向にも、目を向けなければならない。


 試しに酒場に入ると、ルミがいた。セクシーな服を着た女性スタッフを相手に、何事かを愚痴っている。気になるのは、女性スタッフだ。アイコには彼女の正体がすぐにわかった。淫魔だ。それも上級淫魔である。

 なぜ上級淫魔が酒場で働いているのか気になりながら、アイコはルミ達の会話がギリギリ聞こえるくらいのところに座った。麦酒を注文し、様子を見る。


「最近ノエルの私を見る目が冷たい気がする」

「そりゃぁねぇ~……聞いたわよ? あなた酒取り上げられて大泣きしてぐずったってネ」


 ――何してんのよ。


 思わずため息が出る。


「記憶にない」


 ルミがそっぽを向いた。


「そんなだから見る目が変わっちゃうのよネぇ」

「だって酒は命の水だし、百薬の長だし、精神安定剤だし」

「ノエルちゃん言ってたわよ? 私よりお酒ばかり頼ってて寂しいってネ」


 新婚さんの愚痴か何かだろうか、とアイコは思った。

 自分に何かを言う資格はないが、共依存関係に近づいているように感じ、複雑な気分だった。完全に自分のせいなのだが、心がどんよりと重くなる。


「あとバイトさせてくださいって頼まれちゃったワ」

「バイト? ノエルがここでか?」

「あなたの酒代で火の車なんだって」

「おー、ノエルちゃんがここで!? 大歓迎だよ!」


 常連客と思しきおじさんが、話に割り込んできた。ルミは「むっ」と言って麦酒を煽り、おかわりを頼む。


「ノエルに何かしたらただじゃおかないからな?」

「しないしない! ただあの子見てると癒やされるんだ」

「正直悪魔のイメージ変わるよな、わかるぜ」

「だったら何か依頼してやんなさいよ」


 客のおじさん連中に、上級淫魔がピシャリと言った。客達は「そうしたいんだがなあ」と、困っているようだ。頼むような悩み事がないのだろう。

 あったとしても、ここで酒を飲んで忘れられる程度なのかもしれない。悪魔と魔族のギルドという、高い戦力を相手に依頼するのはハードルが高いのかも、とアイコは分析した。


「金のことなんてあいつ一言も……」

「そりゃ言えないわヨ、酒取り上げただけで大泣きしてぐずり始める子に、あなたのせいで金がないなんてぇ」


 アイコはため息をつきながら麦酒を飲み干し、会計をして外に出た。わかったことは、ギルド魔女の家は資金難であり、未だ依頼がひとつも来ていないこと。

 精霊の情報集めも、やる余裕がなさそうだ。


「困ったわね……グリムはまだ教える気がないみたいだし」


 アランより先に精霊を集めてくれなければ困るが、アランもアランで精霊の居場所は全く掴めずにいるようだ。今しばらくは猶予がある。とはいえ、このままではよくないだろう。

 街に馴染むのも、思っていたよりは早いが、もう一押し何かが欲しいところだ。アイコは、ポケットに入れておいた注射器を見つめ、ため息をつく。


「あの子、意外と打たれ強いのよね……もうちょっと追い詰めないとダメかあ」


 問題なのは、ルミの方もだ。

 彼女にはしっかりしてもらわなければ、今後の計画に支障が出る。


「程よく影から手助けして、追い詰める準備もして……何してんのかしら、あたし」


 酷い気分だ。吐き気がする。

 アイコは人のいないところで影扉を出し、地元に向かった。認識阻害ローブのフードをより深く被り、遠巻きに村を観察する。アルラウネが父母と一緒に、楽しそうに歩いているのが見えた。

 村長の家に向かったらしい。窓から覗いてみると、村長がアルラウネを猫可愛がりしながら父母の持ってきたサンドイッチを食べていた。


 涙が出そうになり、頭を振る。


「自分だけ特別扱いはできないわね……」


 言って、村を出る。

 ひとまず、やるべきことは定まった。

 秘密基地に戻り、計画を練っているとアランが姿を現した。赤い髪の甘いマスクの青年だが、その心根は醜悪そのものである。アイコは一瞬顔を顰めて、アランに向き直った。


「進捗はどうだ」

「そうねえ……魔薬を1ダースくらい貰えるかしら? あとあの協力者の魔薬流通ルートの情報も」


 アランは顔色ひとつ変えず、聞き返すこともせず、顎を撫でた。


「わかった、手配しよう」

「そりゃどうも」

「して、グリムの使徒の様子はどうだ?」


 アイコは眉間のシワを伸ばしながら、「そうねえ」とため息をつく。言うべき情報とそうでない情報を頭の中で仕分けた。


「まだ精霊の情報は手にしてないみたいね」

「そうか、引き続き監視を頼む」

「了解」


 アランが秘密基地を去り、アイコはベッドに身を投げる。

 最近は、頭を抱えることばかりだ。

 ノエルと作った秘密基地をぼんやりと眺め、アランに注文した品が届くまで眠ることにした。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

よろしくお願いいたします。

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