27.第2章番外編アイ・コンパイラー(アイコ視点)
秘密基地に戻ってきたアイコは、ふう、とため息を吐いた。泣きながら自分に追いすがってくる幼馴染の顔が、未だに頭から離れない。あの戦いの後、ラインハートが乱入してしばらくして、アイコは街に魔導兵を放った。
彼らに対する命令はただ一つ、程々に街を破壊しながら進軍し悪魔と魔族の集団が見えたら立ち止まり、銃火器の使用を中断すること。
人々に、ノエル達が魔導兵の仲間だと思わせる必要があった。応戦されては、救ったように見える人も何人か出てくるかもしれない。
盲目的なまでの人々の憎しみも、通用しないことがあるだろう。だからノエル達を見た瞬間に攻撃をやめるように、プログラムしておいた。
結果は、大成功。
だが、アイコの心はどんよりと暗かった。
「あの子、大丈夫かな、この先……」
手元の本を開く。
そこに記載されているのは、未来の出来事だ。アイコは予言書と読んでいる。ある時は未来の誰かの手記、ある時は歴史書、執筆者も内容も刻一刻と変わる。
誰かが何かをする度に、変わるのだ。
一番記述が大きく変わるのは、アランとアイコとノエルの行動だとわかったのは最近のことだ。
予言書を手にしたとき、未来は散々なものだった。世界は滅び、ノエルも死に、アイコは世界に君臨する絶対悪として世界をまとめていた。
だが、守るべき人は既に誰もおらず、荒廃した世界で新たに生まれた人類種の敵になった。魔王と、小っ恥ずかしい肩書を名乗っていたらしい。
ノエルが死んだのは、悪魔殲滅戦争が原因だ。悪魔と魔族の側に立って戦ったノエルは、人族側の英雄として送り込まれた神々の使徒によって殺された。
ノエルは、ギリギリまで中立を貫き戦争を止めようとしたのに。そんなノエルが抑えていた悪魔と魔族達は、ノエルの死に怒り狂い非道な手段を持って人族を圧倒。
だが、英雄たちの力が凄まじく、結局共倒れ。どちらかが滅ぶまで続くと思えた戦争は、全滅で幕を閉じた。
その未来を読んだとき、変えなければと強く思った。
起点になっていたのが、アルバートの存在である。ノエルとアランの戦いの際、アルバートがアランを吸収するのだ。アルバートはしばらく廃人同然になり、気がついた頃には悪魔たちに戦争を仕掛けていた。
だから、アイコはまずアルバートを殺した。アランを殺すことも考えたが、アランの存在は世界に大きく関わりすぎている。
そのうえ、今のアイコにアランを殺せるだけの力はなかった。
苦肉の策だった。
アルバートが死んだことで、未来の記述は変わったが、ダメだった。今度もまた別の絶望的な未来に変わっただけ。
もうどうしたらいいかわからなくなった。幼馴染の父親を殺したのに、絶望的な未来は回避出来なかったのだ。
だが、もう止まれなかった。未来をより良い形にするまで、止まるわけにはいかなかった。
次に、絶望的な未来に繋がる要素として浮かび上がったのが、ノエルの存在だった。ノエルが人間のままだったのだ。
ノエルの記憶を取り戻し、精霊としての力を取り戻させようと考えた。だからアイコはわざとノエルの記憶にアプローチすべく、何度も戦った。
そして今、また未来が変わった。
だが、また別の絶望的な未来に変わっただけである。まだ足りない。まだ何かが足りないのだ。少しずつマシになってきているとはいえ、まだまだ足りない。
このままでは、ノエルは死に、ルミも死に、残ったノエルの仲間が世界を滅ぼしてしまうらしい。
「はあ、しんどい……」
何度捨てようと思っただろう。
こんな重荷、一人で背負い切れるわけがない。
過去のことからアランに使われる日々。もう幼馴染のところへは戻れないが、この重荷だけは降ろせるだろうと、今でも思う。
だが、何度捨てても戻って来るのだ。
まるで、自分にどうにかしろと言っているかのように。
「……次の手を考えないと」
そのために、まずは新たな記述を読み込まなければ。
今回の行動の結果、どこがどう変わったのかを振り返らなければ。
アイコはベッドに身を投げ、仰向けになり予言書を読み始めた。
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第二章終わりです。
第二章あとがきを活動報告にて、書いています。