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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第2章:虐げられし魔女と魔族【魔人創造編】
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26.いざ神戸へ

 トイフェルの拠点に戻ったが、何かがおかしかった。街のほうが騒がしい。何があったんだろうかと思っていたら、突然街から火の手があがった。


「ちょっ、やばくない!?」

「助けに行くか? 歓迎されねえと思うが」

「行くに決まってるでしょ!」


 ノエルは再び影扉を通り、街へと向かった。博多の街は逃げ惑う人々でいっぱいだ。お前たちも早く逃げろ、と通りすがる人が口々に言っている。

 人々の流れを逆流して走ると、何が起きたのか一瞬で理解できた。


「魔導兵が……」


 魔導兵が街を焼いている。ザッと見たところでも数十はありそうな魔導兵の軍勢が、博多の街に攻めてきたのだ。

 魔導兵が銃火器で家々を焼いている。人が襲われ、目の前で死んでいる。ノエルは考える間もなく、剣を抜いて戦っていた。

 一つ、また一つと魔導兵を斬っていく。


「ああもう、キリがない!」


 ノエルは八本の影腕を使い、魔導兵にドレインフラワーを伸ばしていく。隊列を組んだ大勢の魔導兵を巻き込み、ドレインフラワーが魔導兵から瑪那を奪い尽くした。

 機能を停止した魔導兵をルミとラインハートが破壊していく。ノエルもドレインフラワーに任せきりにせず、剣と魔法で次々と魔導兵を破壊した。


 全ての魔導兵が鉄くずに変わるには、数十分の時間を要した。

 魔導兵は決して強くなかったが、抵抗手段を持たない一般市民にとっては十分な脅威になる。魔導兵は四神教の拠点に大量に置かれていた。生産しているのは、十中八九彼らだろう。

 彼らが本気で世界を壊そうとしているのだと、ノエルは強く実感した。


「ふぅ、これで終わりだね……あとは」


 ノエルは八本の影腕と自身の両腕を使い、燃える建物に水を放つ。

 消火活動が終わり、一息つくと、周囲がうるさいことに気がついた。人々がノエル達を取り囲み、何事かを叫んでいる。顔を強張らせる者、目を尖らせる者、さまざまだ。

 やがて、石が一つ、二つと投げ込まれた。一つ投げ込まれたら、数が次々と増える。周囲を取り囲む人々が投げ込んでいるのだと気づくのに、少しだけ時間がかかった。


「ま、魔女め! 見たぞ、八本の影の腕を!」

「魔女エラの再来だ! また街を焼きに来たんだ!」

「さっきの鉄人形はお前らが差し向けたのか!」


 何を言っているのか、わかっているはずなのに脳が理解を拒んでいた。心は理解しているのに、脳の処理が追いつかない。心にはずしんと重く伸し掛かる暗澹たる気持ちがあるのに、ただただ呆けることしかできなかった。


「何言ってやがる! こいつが奴らを倒したんだぞ!?」


 代わりに声を荒げたのは、ラインハートだった。

 だが、人々は耳を貸す気配がない。


「お前も魔女の仲間か!」

「魔女は極刑だ! 殺しても誰も文句は言わねえ」


 ある男が、そう叫びながらノエルに短剣を投げつけた。ノエルは避けることも弾くこともせず、左手で受け止めた。左手から血が流れ、短剣が突き刺さる。短剣を引き抜くと、さらに血が流れた。

 痛みに顔を歪ませながら、ノエルはノースのことを思っていた。

 彼女が抵抗しなかった理由が、ようやく実感として理解できた。相手を害する意志はないと、伝えるためだ。反撃すれば敵対になる。避ければ、それはそれで恐れられる。


 だから、次々と投げ込まれる石や短剣やツボに対し、ノエルは何もしなかった。ルミやラインハートに当たりそうになると庇ったが、それだけだ。

 だが、人々は投げるのをやめない。


 ノエルは深くため息をついた。


「お前らなあ、いい加減に――」

「いいよラインハート、私達が離れれば済むだけだよ」

「チッ、お前がいいならいいがよ、気分悪いぜ」


 全身から血を流しながら、ノエルは影扉を出した。

 二人を押し込んでから、民衆に振り返り、息を深く吸い込んだ。


「いつまで続けるの!? こんなこと!」

「何言ってやがる! この魔女が!」

「種族だけで憎んで、行動を見なくなっちゃったら……後はどっちかが滅ぶまで憎しみ合うしかないじゃない!」


 自分が言っているのか、それとも自身の内にある魔女エラの魂が言っているのか、ノエルにはわからなかった。

 だが、心からの叫びだった。

 民衆はなおも声を荒げ、物を投げ続けている。怒りはなかった。悲しみもなかった。ただただ、虚しい気持ちでノエルは博多の街を後にした。


 影扉に入り、待っていたラインハートに告げる。


「行こう、神戸に」

「任せろ」


 ラインハートは、笑顔でノエルの肩を叩いた。

 彼の記憶を使えば、影扉で直接神戸まで飛べる。

 生まれ育った村のある行政区、故郷とも言える場所をこんな気持ちで去るとは、ノエルは想像もしていなかった。

 だが、同時にワクワクもしていた。


 これから、新天地で新しい生活が始まるのだ。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

よろしくお願いいたします。

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