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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第2章:虐げられし魔女と魔族【魔人創造編】
25/119

25.アラン・プレイヤーの計画

 ロイと戦った部屋の奥。不気味に佇む扉を前に、ノエルはゴクリと唾を飲んだ。

 この先にいるのは、恐らくロイの実験体にされた人々。魔人が大勢いるかもしれない。戦いになる可能性もあった。


「心の準備はいい?」

「うん、もちろんだ」

「前からできてるぜ」


 ノエルはこくりと頷き、扉を開けた。

 中は薄明るく、緑色の明かりに照らされていた。その明かりの正体は、不気味なカプセル。中にあるのは緑色の液体と、人。そんなカプセルが幾つも並んでいる。

 不思議な感覚だった。実際に奇妙な光景ではあったが、それとは違う。大勢の瑪那の反応があるにも関わらず、全員死んでいるようだった。


 ふと、カプセルの前にプレートが掛けられているのが見えた。


 失敗作。


 プレートに書かれた文字を見て、吐き気がこみ上げる。ここにある数十を超えるカプセルが全て、魔人実験の失敗作だというのか。

 これほどまでの人間を犠牲に、ロイは自身とエトラという魔人を生み出したというのか。


「えぐいな、こりゃ」


 カプセルが並ぶ部屋をひたすら歩くと、デスクがあった。いくつかの書類と本がある。ノエルは、書類の束を持ち上げた。

 研究資料のようだった。



 ――――。


 魔人研究レポート


 世界合一を行った際、魂の合一が行われる。本研究は、その予防策として、全人類を魔人化することを目的とする。

 魂の合一が行われた際、予期される反応は拒絶あるいは許容。許容すれば安全に合一されるが、拒絶されれば精神崩壊を起こすことがこれまでの研究で判明した。

 同一人物とはいえ、異なる人生を歩んだ魂は完全に同一のものではないのである。


 そこで、まずは比較的近い歴史を歩んだ世界の魂のみを合一する実験を行った。核世界からほど近いところにある二つの世界。アランによれば、平行世界F000000およびF000002である。

 核世界はF000001だ。


 実験A内容


 1.核世界の人間、魔族、悪魔にF000000の魂を入れる。

 2.問題がなければF000002の魂を入れる。

 3.問題があれば得られた反応をメモする

 4.問題発生の有無を問わず、それぞれの魂の種族を記しておく


 実験による結果、これら3つの並行世界の魂は全て問題なく合一できることが判明した。種族が全て異なる場合でも、拒絶反応はでなかった。

 不思議なのは、歩んだ人生が大きく乖離していても問題がなかったことである。


 続いて実験を行った。


 実験B内容


 1.実験Aの被検体にF000003の魂を入れる。

 2.以下は実験Aと同じ流れで行うこととする。


 実験Bの結果は、散々なものだった。全員が拒絶反応を示した。

 考えられる原因は、 二つある。

 一つ、安全に合一できる魂は三つまでである。

 一つ、安全に合一できる魂はF000000、F000001、F000002のもののみである。


 そこで、以下の実験を行った。


 実験C内容


 1.新規で用意した被検体にF000003の魂を入れる。

 2.以下は実験AおよびBと同じ流れで行うこととする。


 実験Cの結果、全員拒絶反応を示した。

 安全に合一できる魂は、F000000、F000001、F000002のみであると判明した。


 ――――。



 頭がクラクラとした。

 ルミもラインハートも、頭を抱えている。ロイの実験は、失敗だったのだ。三世界の魂の合一には成功したが、全世界の合一に人間は耐えられないということが判明してしまった。

 もう一枚めくると、ロイの日記があった。



 ――――。


 なんてこった。

 全世界の合一など不可能だ。地形変動や同座標に異なる建物があった場合の不都合など、比べ物にならないほどの不都合がこの計画にはある。

 もとより無理な話だった。

 チッ、胸糞悪い。

 これだけの失敗作を生み出しておきながら、これだけの犠牲を払っておきながら、無理だったでは済まされない。


 アランに実験結果を報告した。

 彼は笑っていた。

 なるほど、そういうことかい。


 俺はもう付いていけねえ。個人的復讐なら勝手にやってくれ。

 我が娘が、じきにここに攻め入るだろう。

 娘とその仲間達に、奴の計画を記しておくこととしよう。今更な気がするが、もうどうでもいい。理想郷などなかったのだ。もう俺は知らねえ。娘に殺され、一足先に生まれ変わるとしよう。


 アランは、人に、神に裏切られたと語っていた。二千年前のことだろう。人々の求めに応じてエンブリオを作ったが、三神はそれを許さなかった。

 アラン・プレイヤー。

 彼の名前を聞いたときに気がつくべきだったのだ。彼が、人類神プレイヤーの使徒であると。プレイヤーにより人を手助けしろと送り込まれ、人々に尽くした結果、神に裏切られた。

 世界は一度滅亡し作り変えられ、人族の代わりにこの世界の覇者となるべく悪魔と魔族が生み出されたそうだ。

 なんとも気の遠くなるような話だぜ。


 そして今度は、人々に裏切られた。

 その中身は詳しくは聞いてねえが、そういうことなんだろう。


 奴の計画はこうだ。

 精霊の力を集め、エンブリオの制御を可能な状態にする。いかに使徒といえど、今は力を失っているらしく、エンブリオを自身の内に入れると無事では済まないらしい。

 失った力を取り戻すより、精霊を集めるほうが楽なんだと。

 力を得りゃあ、今度はグリムからエンブリオを取り返すつもりだ。


 その後、全ての世界を合一する。

 残るのは、地形変動と同座標転移により荒れ果てた大地だけだ。

 そして、神々は新たな人類種を生み出し、世界を最初から作り直すのだろう。


 つまり、奴の目的は世界滅亡だ。

 理想も大義もねえ。

 止めてえなら精霊を先に集めろ。


 それから、ノエルとかいう脳筋バカ女。

 アイコとかいう女の目的は、違うところにある。

 アランに使われているようだが、奴の目は常にその先を見据えているように思えてならない。

 和解するにしろ、殺すにしろ、その点は承知しておけ。


 最後に、我が不肖の娘よ。

 すまなかった。


 ――――。



 読み終えると、ルミは大きなため息をついていた。最初から、ロイはここに来たルミに殺されるつもりだったのだ。思うところがあるに違いないのだ。


「まったく、バカな親だ……父さんめ」


 今更謝罪したところで、全てが遅い。ノエルも、少し気分が悪くなった。騙されて大罪を犯し、すまなかったの一言で済むわけがない。

 彼の犯した一番の過ちは、自分の罪を娘に断罪させたことだとノエルは思った。


「だが、精霊か……どうするノエル」


 言いたいことはもっとあるだろうに、彼女は前を向いていた。

 ノエルは「うん」と短く答えてから、資料を置いた。


「もちろん、先に集めてアランの計画を潰すよ」

「そうこなくてはな」


 ルミが前を向いているのだ。自分も前を向かなければ。

 失敗したことや後悔ばかりを見つめてはいられない。知ってしまったからには、知らなかったフリはしたくない。


「だが、二人とも、これからどうするんだ? 組織相手に動くなら、拠点も必要になるだろう」


 うつろが口を挟み、ラインハートがうんうんと頷いた。


「ならよ、神戸に来いよ。俺の別荘貸してやるぜ」

「いいのか?」

「ああ、いいぜ? だが組織を出し抜くなら組織が必要だ。情報もな」


 ノエルはこくりと頷いた。

 彼の言うことはもっともである。相手は何人いるかわからないが、これだけのことをやってのける組織だ。小さいということはないだろう。ノエルとルミとうつろだけで戦うのは、無理のある話だ。

 だが、ノエルには考えがあった。


「なら、ギルドを作ろうよ、私達でさ」


 ノエルが言うと、ルミは「だな」とはにかんだ。


「なら俺が口きいてやるよ、神戸の市長にも口がきくやつにな」

「というと?」

「ラウダ商会の会長、ラウダだぜ」

「まじ!?」


 思わず大きな声が出ていた。肩も上がる。

 ラウダ商会といえば、倭大陸中に根を張る巨大な商会だ。大陸中で流通している漂流物の改造および、改造品の生産と流通なども全てラウダ商会が仕切っている。

 大陸中で世話にならなかったものは、一人としていない。

 彼は、そんな商会の会長に口がきけるという。


「奴も千年生きる異世界人だからな、ダチなんだわ」

「千年……魔族? 悪魔?」

「悪魔と一体化した人間だぜ。体を乗っ取らせたうえで、普段はラウダの人格が支配してるんだ」


 驚くべき話の連続だったが、こっちは納得ができた。ラウダ商会の会長は、ずっとラウダを名乗っている。多くの民衆は世襲制であり、人知れず交代しているものと思っている。

 ノエルもそう思っていたが、悪魔と一体化しているのなら代替わりしないのも納得ができる。


「じゃあ一旦トイフェルの拠点に戻って、準備を整えたら神戸に行くってことでいい?」


 ノエルが問うと、全員が頷いた。

 一つの戦いが終わり、ノエルはどこかほっとしていた。新たな戦いがこれから待っていることはわかっている。失ったものも多い。

 だが、今だけは、しばらくはこの安堵に包まれてもいいじゃないか。そう思いながら、影扉を出しトイフェルの拠点へと戻った。


 カプセルの中身については、どうするべきか今すぐ判断することができなかった。死んでいるが、瑪那だけを放出し続けている存在。

 カプセルから取り出せば瑪那の放出も止まるだろうが、だからと言ってどうすることも出来ないのだ。彼ら彼女らは既に、死んでいたのだから。

もし面白ければ、ブックマークや評価をしていただけると大変ありがたいです。

よろしくお願いいたします。

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