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滅びの世界の調停者~迫害された魔女ノエル、最強になり世界を一つにする~  作者: 鴻上ヒロ
第2章:虐げられし魔女と魔族【魔人創造編】
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18.ノエルとルミの決断

 ノエルとルミは一度、部屋に引っ込むことにした。うつろは体力を温存すると言って、眠りについている。二人きりで話したかったから、好都合だった。

 むしろ、ノエルの都合を汲んだのだろう。


 部屋に入り、寄り添うようにベッドに腰をかける。


 ノエルは深く息を吸い込み、吐き出した。

 隣でルミのお腹のあたりがピクリ、と動く。


「ねえルミ、お父さんが出てきたらどうするつもり?」


 ノエルの言葉に、ルミは「そうだな」と前置きをした。

 だが、言葉は続かなかった。

 一秒一秒が、永遠にも思える。時計の針が時を刻む音が、静かな部屋にしばらく響いた。

 ルミはノエルをまっすぐ見据え、視線を全く動かさずに口を開く。


「殺す……つもりだ」


 彼女の言葉はとてもまっすぐだった。少なくとも、ノエルはそう感じた。言葉は冷ややかだが、そこには確かな熱があるのだと。


「そっか」


 だからノエルは、彼女の言葉を否定しなかった。肯定もしなかった。

 自分はどうなのだろうか。


「あの手記を見たときな、ああ、お父さんは止めてほしいんだなって思ったんだ」

「そうなの?」

「ああ、止まりたくてももう止まれないのだろう。母を利用したときから、いや本当はもっと前……助けたかったはずの魔族を利用したときから、お父さんは自分では止まり方がわからなくなったんだと思う」


 それは、ノエルも感じていたことだ。彼の手記からは、後悔がひしひしと感じ取れたのだ。パソコンのデータだから、筆跡はない。

 だが、彼の文体には確かに後悔の念があった。そう思わなければ、あまりにも辛かった。彼は決して良い夫ではなかったかもしれないし、良い父ではなかったかもしれない。

 良い為政者でもなかったはずだ。

 しかし、人間だった。どうしようもなく彼は、人間だったのだとノエルは自分を納得させたのだ。


 ノエルは静かに頷いた。


「説得で止まってくれる段階は、とうに過ぎている」

「だから、殺すの?」

「ああ、それが親の望みなら、叶えてやるのも子の務めだと思っ――」


 ノエルはたまらなくなって、ルミを抱きしめていた。自分でも驚いたが、そうしたかったのだ。

 腕の中で、ルミの肩が震えている。自身の大きな胸に深く顔を埋め、涙でシャツを濡らす出会って数日の大切な友達の姿をノエルは目に焼き付けた。

 彼女の頭を優しく撫で、口を開く。


「それはお父さんがしてほしいことだよね」

「う、うん……」

「ルミはどうしたいの?」


 ルミの言ったことにも一理あると、ノエルは思った。

 確かに、彼はもう止まらないだろう。説得したところで無駄かもしれない。彼に罪の意識があるというのなら、尚更だ。理想のために罪を重ねたからには、さらに罪を重ねたとしても理想に邁進しなければならないと考えているかもしれない。

 それは、ノエルにも理解できた。


 心地よい言い訳のようにも、感じたが。


 だが、そうじゃなかった。ノエルが聞きたかったのはそういうことではなく、彼女がどうしたいかだった。


「お母さんのこととか、許せないことがたくさんあると思う」


 ノエルの声色は、ひどく優しかった。


「それでも、あの時ルミは殺すより前に問いかけたよね」


 ルミは、嗚咽を漏らすだけで言葉を返さない。

 だが、それでもよかった。

 自分ならどうだろうと考える。いや、ずっと考えていた。アイコのことは、許せない気持ちがある。それでも、と。


「私はアイコが憎いよ。殺したいって思わないわけでもないんだけどさ、違うんだよ。ずっと考えてたの。私、本当は誰も死んでほしくなんてないんだ。誰も殺したくないんだ。わかってる、敵なら殺さないといけないこともあるって」


 ノエルは一呼吸を置いて、またルミの頭を撫でながら言葉を続けた。


「だけどね、アイコは敵である前に私の幼馴染で親友で、姉だったんだよ。ルミもそうじゃない?」


 ノエルの言葉に反応したのか、ルミはピクリと体を震わせて、顔をあげた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。優しく頬に手を当てると、彼女は心地よさそうに目を細めた。


「私も……そうだ」

「うん」

「本当は、本当は……生きて罪を償ってほしい」


 嗚咽混じりのその言葉を聞いて、ノエルは微笑む。


「じゃあ、それでいいじゃん。幸い、私達には心強い仲間が増えたんだよ? 私達だけじゃできなかったかもしれないことも、できるかもしれない」


 ノエルの声は、優しく、だが力強かった。ルミの肩に左手を置いて、右手で親指を立てる。


「だからさ、結果はわからないけどさ、やりたいようにやろうよ」

「うん……そうだな」


 ルミは目元を袖で拭い、親指を立てた。

 引き攣っていたいたが、彼女は確かに笑顔だった。

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