おばあちゃん。世紀末へいく
「ふう、もう少しねえ」
川島タエは、老眼鏡をかけながら針を動かしていた。色とりどりの布を丁寧に縫い合わせ、小さなパッチワークのクッションを作っている。孫の誕生日が近いので、何か手作りのものを贈ろうと決めたのだ。
膝の上には猫柄の布。孫が猫好きなのを知っていたから、わざわざ選んだ生地だった。手先は衰えたが、長年の経験で針仕事はまだまだ衰えていない。
「喜んでくれるかしらねえ」
タエがひとりごとを言いながら針を刺したそのとき、部屋の床に突然光る穴が開いた。まばゆい光が広がり、タエは反射的に後ずさったが、長年の老いが足を鈍らせた。バランスを崩し、そのまま穴へと落ちていった——。
タエが目を覚ますと、そこはまるで映画のセットのようだった。
崩れたビル群、砂埃舞う空、ところどころ燃え盛る残骸。見渡す限り、文明は崩壊していた。
「まぁ、これは…夢かしら?」
だが、手をつねってみても痛い。夢ではないらしい。タエは起き上がろうとしたが、腰が痛む。どうやら無事に着地できたわけではなさそうだ。
そんな彼女の前に、轟音とともにバイクが数台現れた。派手な装飾を施した大型バイクに乗る男たち。モヒカン、鋲のついたレザージャケット、筋骨隆々の腕。まるで世紀末漫画の悪党そのものだった。
「おいババア!どっから来た?」
「こんな場所に婆さんがいるわけねぇだろ!」
タエは目をぱちくりとさせたが、逃げる力もない。男たちは興味深そうに彼女を囲んだ。
「ん?なんだそれ?」
一人の男が、タエの手にあるパッチワークの布に目を留めた。孫のために作っていた布だった。
「これは…パッチワークっていう手芸でね。布をつなぎ合わせて作るんですよ」
「へぇ、妙にカラフルで…なんか…いいな」
その言葉を口にしたのは、リーダー格らしい男——ジョナサンだった。