そのイヤリングは何をさせたか
自発的に行動するなんて、面倒。考えること自体が面倒。
適当に流されて生きていきたいな。
そんなことを思っていたある日……
突然、女神が現われた。
「あなたに行きたい場所を案内してくれるイヤリングを差し上げましょう」
そう言うと女神は消えていった。
手元には可愛らしい星形のイヤリングがあった。
「はっ!」
しかし、どうやら夢だったみたいだ。
だけど、私の手には星形のイヤリングが握られていた。
効果があるかどうかわからないけど、私はさっそくイヤリングをして、外へ出た。行きたい場所。うーん、どこにしようかなぁ。
そういえば、山菜を採って来なくちゃいけないんだった。
「山菜はどこかしら?」
私はわざとらしく独り言を言うと、耳元から声が聞こえた。
「ここをまっすぐ」
「そこを左に」
といった声が聞こえる。
その指示に従うと、野草の香りがしてきた。そのまま進むと、あちこちに山菜が生えていた。
「わぁ~。たくさんある~」
さっそく、私は採り始めた。たくさんあったので時間がかかったが、満足した。
なかなかすごいイヤリングね。
「にわとりが逃げたぞ~」
男の声が聞こえた。
どうやら隣人が飼っている鶏が逃げたらしい。
5羽中、4羽は見つかったらしいけど、あと1羽が見つかってないみたいだ。
早速、イヤリングに指示を仰ごう。
「右へ行ってください」
「柵があるので、そこを超えてください」
「草むらの中でしゃがんいでます」
そこへ行ってみた。
「こぉ~~~」
確かに鶏はそこにいた。で~んと、しゃがんでいた。
翌朝、朝食を食べて、だらんと座っていると突然、イヤリングから声がした。
「外に出てください」
「まっすぐ歩いてください」
「そこで、左に曲がり、真下を見てください」
見てみると、小銭が落ちていた。
あれっ、これは昨日、私が落としたものでは? 探そうとしていたんだよね。
「……」
このイヤリング、私がやろうとしていることも予測して、指示をしてくるのかな。
と思っていると、またイヤリングから声が聞こえた。
「さきほど座っていた、椅子の脚を調べてください」
やけに具体的だなと思って調べてみると、椅子の脚の一部が壊れかけていた。
危ない危ない。怪我をするところだった。
数日が経った。
しばらく、こちらから話しかけなければ反応がなかったイヤリングだけど、ひさびさにイヤリングのほうから声が聞こえた。
「お弁当を作って、私の指示した方向へ行きましょう」
うん? これはどういうことかな。
とりあえず、私はお弁当を作った。
すると、耳元から方向を指示する声が聞こえた。指示通りに行くと、まだ入った人はほとんどいないという森の前に来た。
しかし、私はイヤリングがあるから大丈夫ということで、どんどん奥へ入っていった。
なかなか険しかったが、進んでいくと、洞窟の入り口に着いた。
「こんなところに洞窟があったんだ」
入るのは怖いけど、イヤリングがあるし大丈夫かな。そう思って、森のときと同じようにどんどんと進んでいった。
しばらく行くと、道が二つに分かれていた。左の道は奥がよく見える。見えると言っても限界があるけど。右の道は少し先で曲がっていて、奥が見えず、この先どうなっているのか、見当がつかない。
「右へ行こう」
イヤリングがそう言った。なんだか最初に使った時と比べて、口調も柔らかになった気がした。
右のほうを選んで行ってみた。すぐに曲がって先が見えなかったけど、その先は道も広く、それほど複雑でもなかった。
また道が二つに分かれていた。左は道が細くなっている。右は広く普通の道と言った感じだ。
イヤリングに聞いてみよう。どちらの道が良いか聞いてみた。
「……」
しかし、反応がなかった。それまではイヤリングのほうから反応していたのに、ちょっと変だ。
「どう? どっちなの?」
「……」
何度もイヤリングに聞いてみたけど、反応はなかった。
「壊れたのかしら」
そう思ったら、急に怖くなってきた。イヤリングがなかったら、絶対に来てない場所だ。
ものすごく焦ったが、反応がないのなら仕方がない。腹をくくって覚悟を決めた。
よく見ると、右の道には壁に何か書いたような跡がある。おそらく以前、人が通ったのだろう。
しかし、この洞窟に入った人の話を聞いたことがない。おそらくはその道を通って、命を落としたのではと思った。
「左へ行こう」
私はそう呟いて、左の道を進んだ。
その後もいくつか選択の場面を自分で考え、行動した末、広い空間へ出た。そこは眩しいぐらい明るく輝いていた。
宝石がちりばめられ、宝箱も鎮座していた。ここに宝があるということは、今まで誰も見つけられなかったのか。
そして、イヤリングはここへ私を導きたかったのか。
いったいなぜ……
しかし、本当にイヤリングは壊れていたのだろうか。なぜ私を洞窟へ導いたのだろうか。
また動き出すことはあるのだろうか。
そして、あの女神はなんだったのだろうか。
だが、私にはどうでもよかった。自分で考えて行動するって、すごく楽しいことわかったんだから。