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case0:小さなぬいぐるみ(1)

「なぁ、ヘンリー。幽霊っていると思うか?」


唐突に言われて答えに窮する。


俺にそんなことを言ってきたのは王立貴族学校からの同級生であり、今は王国警備隊警備部犯罪捜査課の同僚でもあるエドモンド・マクスウェル。

国内有数の富豪でもあるマクスウェル公爵家の当主の弟だ。


彼は学生の頃から金持ちイケメン公爵令息として人気者だったが、貧乏伯爵家の跡取りという付き合ってもなんの得もない俺となぜか馬が合い、ずっと仲良くしている。


そんな彼から退勤後に「ちょっといいか?」と夕食に誘われ、浮かない表情をしていたことから「悩みがあるなら聞くぞ」と言った後に発せられた言葉に何と返していいのかわからなかった。


「甥っ子が……死んだ話は前にしたよな?」


「ああ」


「義姉がさ……それ以来、甥っ子の霊が見えるってやつに騙されているみたいなんだけどさ……。俺や兄が何言っても聞かなくって」


「騙されているのか?」


「俺も兄貴もそう思ってるけど肝心の義姉自身が信じ切ってるから。義姉は高い金を払ってるけど、無理に金を引き出されているっていうより義姉が進んで自分の自由になる範囲の金を出しているだけだから、詐欺として立件するには弱い」


「そうだな。公爵夫人自身が目を覚まして訴えない限り、立件は難しいか」


「義姉さんはもう止めても聞かないし、止められない。そもそも甥っ子が死んで、精神的にボロボロになっている姿を見ているから、無理やり引き離してまたあの状態に戻ってしまったらと思うとそれもできなくて。

その霊能力者が本当に甥っ子の姿を見ているなら、そのままでいいのかもしれないんだけど」


「見えないものは見えないもんな」


「そう!そうなんだよ。見えないから困ってる。なぁ、お前の知り合いで幽霊見える人なんていない?」


「いるよ」


即答する。


「まぁ、そんな人いな……いるの!?」


「うん。俺の……知り合いに見えるやつがいる」


「えっ、本当に?紹介してくれない?」


エドは間接的にではあるが伯爵家(うち)の恩人だ。恩には報いなければならない。


◆◆◆


「それで私がまた兄さんの尻拭いをするってわけね」


妹のアイリスが呆れたように言う。

家に帰ってアイリスにエドの話をしたらこれだ。

アイリスには何度か、仕事絡みでその特殊な力を使って助けてもらっているが『尻拭い』はないだろう。

そう思いつつ、エドの頼みだからと下手に出る。


「ごめんって」


「まぁ、でもそれが妹だって言わなかったのは褒めてあげるわよ、兄さん」


腕組みをして偉そうに言う。


「だって、口外するなって父さんたちにも言われてるし」


「それもそうだけど、エドワードさんの頼みだし、マクスウェル公爵家でしょ?友達の妹だったらタダ働きだったかもしれないけど、友達の紹介の霊能力者って触れ込みならきっと報酬もはずんでくれるはずよ」


「お前の頭の中は金ばかりだな」


「それのどこが悪いの?お金は大事だよ?」


アイリスがこうなってしまったのはうちが貧乏なせいだ。

人の良さが顔に出たような両親は、自分たちが贅沢することなく、領地のため領民のために金を使う。

これは両親の性格だけでなく祖父(じい)さまもその上の代もそういう人たちだったようで、伯爵家はゆるやかに没落の一途を辿っていた。


私財を貯め込まず領民に使うのは一見すると良いことのように思えるが、6年前に起きた蝗害で小麦畑が壊滅的な被害を受けた時に、必ずしもそれが良いことでないことを知った。


周囲の貴族の領地では領主の私財を投じて金を作ったようだが、うちには金になる私財などなかった。

領地を立て直すため、そして領民が飢えて死なないため、多額の借金をした。

エドの父、当時のマクスウェル公爵の仲介で最低限の利子で金を借りることができたが、その借金は伯爵家に今も大きくのしかかっている。


貴族なのに平民と変わらない生活。着る服も、食べるものも、平民とほとんど変わらない。

使用人も最低限で、母は自分で料理も作るし、掃除もする。母が縫い針を持つ時は刺繍ではなく服の繕い物をする時だ。


それでも俺は真面目に領民のために働く両親のことを尊敬しているし、アイリスだって貧乏を嘆くことはあっても両親を非難するようなことは言わない。


「貧乏だけど食べるものもあって住むところもあって、一応貴族だし。文句言ったってお金が湧いて出てくるわけでもないし」


なんて言いながら、母の代わりに料理を作ったりしていた。ちなみにアイリスの料理はとても美味い。


蝗害が起きた年、貴族学校の2年生だった俺が成績優秀者として授業料を免除してもらったことを知ると、アイリスは猛勉強して貴族学校に首席入学を果たした。入学以来ずっと首席でずっと授業料免除という自慢の妹だ。


ただしその分、お金にはちょっと……いやかなり厳しい。

王都での兄妹2人暮らしは俺の稼ぎで賄っているが、アイリスのやりくりのおかげで両親に仕送りもできている。


そんな回想をしていたが、アイリスの言葉で我に帰る


「支度金をちょうだい」


そう言って手のひらを向けてくる。


「支度金?」


「妹だってわからないように、それっぽい衣装と化粧品買うから。エドワードさんから報酬もらったら返すよ」


しぶしぶ小遣いの中から言われるがままに5万ゴルドを渡したが、まさかアイリスがあんな姿で現れるとは思ってもみなかった。



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