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幕間 アイリス・ローエンの転生

学校が終わり、外に出る。

門を出て徒歩で街に向かう私を、何台もの馬車が追い越していく。


この国では貴族は15歳から18歳までの4年間、王都の王立貴族学園で学ぶことが義務付けられている。

貴族しか通えないとはいえ、貴族の中にも貧富の差はあって、高位貴族や低位でもお金のある貴族の子女は馬車で迎えが来ているけれど、うちは貧乏なので馬車などない。


徒歩で一人で帰るなんて誘拐されたりしない?と兄に言ったら、飾り気のない制服(金持ちは制服を改造する)を着てお供も付けずに歩いてるのは貧乏貴族だってひと目でわかるから大丈夫だと言われたし、確かに通い始めて3年間危険な目には遭ってない。


10分ほど歩いて、ある高級ホテルの前に着く。


私は半年前、ひょんなことから『降霊術師レイラ』として仕事をすることになった。ホテルの5階の一室が私の事務所になっている。


フロントの前を通って階段に向かう。

エレベーターなんてこの世界に存在しない。そう、この世界には。


私にはここではない世界で生きていた記憶がある。地球という星の日本という国で生きていた記憶。

高橋玲來(れいら)という日本人で、28歳で死ぬまでの記憶。


高橋玲來(れいら)はごく普通の女性だった。とりたてて裕福でもないし、貧乏でもない普通の家庭に生まれ、普通に育ち、普通に進学して普通に卒業し、普通に仕事をして普通に生きていた。ごく普通の人生。


すっぴんはとても地味な顔だったけどメイクの技をかなり磨いてメイク後の顔はわりと綺麗だったと思う。28歳で死ぬまでの間に彼氏がいたこともあるが、未婚で死んだ。


死ぬ間際、もし生まれ変わるなら美人に生まれ変わりますようにと願った。メイクが必要ないくらいの美人に生まれ変われますように、と。


そして生まれ変わったのは伯爵家の長女、アイリス・ローエン。

優しい両親と5つ年上の兄がいる。


今まで生きていた所とは全く違う世界線で、輪廻転生と言うより異世界転生なんだろうなと赤子ながらに思った。

眼の前で私の一挙一動に歓声をあげる両親や兄の服装は中世の貴族っぽい。


しかし顔のレベルが実に残念だった。

とりたてて醜い顔ではないのだが、ただ何も特徴のない顔だった。目は一重で細目。顔に凹凸が少なく”のっぺり”とした顔。平安時代の貴族のような顔といえばなんとなく想像できるだろうか。そんな顔である。


両親も兄も同じ顔をしていた。兄と親が似るのはわかるが、なぜ夫婦で同じ顔をしているのだろう。実に不思議だった。

まぁそんな両親のもとに生まれて絶世の美女であるわけがなく、鏡を見せてもらった時にそこに映ったのは父や母や兄とそっくりな薄い地味顔だった。


もしかして平安時代のようにこの顔が美女ということにはならないだろうか、と一縷の望みを抱いてみたものの、そう上手くはいかずこの顔は前世も現世も同じように地味顔だった。


異世界転生といえば魔法!と思ったけれどこの世界にも魔法はなかった。しかし私には不思議な力が宿っていた。


その力を自覚したのは祖父が亡くなった時。

6歳の頃だ。

祖父が生前使っていた杖を手に取った時、祖父が目の前に現れた。


「おじいさま?」


と声を上げた私に祖父は


『アイリス?私の姿が見えるのか?』


と聞いてきた。


「見えるよ、なんで?おじいさまは死んだんじゃないの?」


両親も兄も祖父の姿を見ることができなかったが、私には生きている人間と変わらない質感で本当にその場にいるように見えていた。


最初はみんな私の言ってること、死んだ人の姿が見えて喋れることには懐疑的だったけど、祖父しか知らない父の子供の頃の失敗談を話してやっと信じてもらえた。


その後いろいろ試したところ、この能力を発動するにはいくつか制約があった。それは

・亡くなった人がまだ神の国に渡っていないこと(前世風に言えば成仏していないこと)

・亡くなった人を呼び出すには依代が必要なこと

・その依代は、生前大切にしていたものや思い入れの深いものであること


いつでもどこでも幽霊が見えるような能力ではなくて本当に良かった。


とりあえず、家族で相談してこの能力については口外しないということになったが、15歳で伯爵家の領地から王国貴族学校に通うため王都に出て兄と暮らし始めてからは、王国警備隊警備部犯罪捜査課(前世で言うところの警察官)に就職した兄の頼みで何度かこっそり殺された人を呼び出して、犯人逮捕に一役買ったりもした。


そんな私がなぜ『降霊術師レイラ』として活動することになったのか。


それはうちが貧乏だからだ。



あれは半年前のことーーーーー


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