表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

case0:小さなぬいぐるみ(5)公爵夫人とのお茶会

「お金のことなら問題ありませんわ」


公爵夫人との二度目のお茶会の席。お茶を淹れてくれたメイドが部屋を出て、公爵夫人と二人になったところで今後も私の能力を使い降霊術師として王都で仕事することを勧められた。


実は貴族学校に通うようになってから、お小遣い稼ぎのために休日は中央広場の片隅で、露店に混じって占い師をしている。

今も目深にかぶっている黒いベールは占い師を始める時に揃えた衣装のひとつだ(兄からせしめた支度金は黒のドレスを買ったら消えた)。

前世でも副業として占い師をしていたことがあり、今世でも固定客がつくくらいには評判がいい。


だが占いと違って降霊術は露店には向かない。

占いの露店でも四方を布で囲い、プライバシーに配慮しているが、降霊術となるとさらに配慮が必要になるだろう。

少なくとも個室が必要だ。


しかし私にそんなお金は……


そう思っていたのが顔に出たのか公爵夫人から「お金は問題ない」と言われてしまったのだ。


「夫が所持しているホテルの一室を用意します。好きなように使っていただいて構いませんわよ」


夫人が挙げたホテルの名は、王都でもトップクラスの高級ホテルだ。

一泊いくらするのか、考えるだけで冷や汗が出る。


「いえ、さすがにそれは……」


「ごめんなさい。私ね、レイラさんのこと喋っちゃったの。私のお友達でもレイラさんに依頼したいって人がいて、その方が訪れるならそれ相応の部屋が必要だと思うのよね」


え!?依頼を受けるなんて言ってないのに!

なんで知らないところで話が進んでるの!?


「お金が必要なんでしょう?」


核心を突かれる。


「私はレイラさんに救われました。10万ゴルドなんて端金では到底その恩に報いられていないと思うの。その十倍、いや百倍だって喜んで支払うわ。でもあなたはそれを望んでいないでしょう?」


だってあんな短時間、1時間かそこらで10万ゴルドだって貰いすぎなのに!それ以上貰ったら詐欺じゃん!


「だから私にできることは、レイラさんにお仕事を紹介することかと思って。ローエン伯爵家への援助も考えたんだけど、それは受け入れてもらえなさそうだし」


ローエン伯爵家の名前が出て一瞬「バレた!?」と背筋が冷えたが、そういえばヘンリーが仲介しているから伯爵家の関係者だと思われてカマをかけられているのかもと思い、落ち着いて答える。


「何をおっしゃっているのか……」


「私には隠さなくてもいいのですよ。人払いしておりますし、誰にも話しません。夫にもエドにも。」


夫人はにっこりと笑い、お茶を飲んで続ける。


「ヘンリーさんには妹がいましたね」


冷や汗が流れる。知っているのか、カマをかけているのか。


「えぇ。ヘンリーに瓜二つの顔をした妹が」


素知らぬ顔で答える。

大丈夫。メイクで別人になっているのだから、ヘンリーの妹と私を結びつけるものはない。

そう思っていたのだが。


「ベールをかぶっているのは顔を隠したいからということでしょうけど、どんなに化粧をしても骨格まで変えることはできません。鼻も口元もヘンリーさんそっくり」


あぁ……完全にバレている……

ベールでは目元までしか隠せない。鼻も口元も丸見えなわけだけど、ノーズシャドウを入れたりしてるし、真っ赤な口紅で元の唇より少しだけ広く塗ったりして印象を変えているつもりだったのだけど、確かに骨格までは変えられない。

これ以上ごまかし続けることはできないだろうと諦め、ベールを外して正面から夫人を見据えた。


公爵夫人は驚きを通り越し、恐怖を感じているかのような表情を浮かべる。ただでさえぱっちりとした大きな目がさらに大きく見開かれて、目玉がポロッと落ちてきそうだ。


「あの……顔を見てから確認するのもおかしなことだと思うのだけど、ヘンリーさんの妹さんでいいのよね?ヘンリーさんや私の記憶にあるローエン夫妻の目とは全然違うのだけど……」


アイプチもどきでぱっちり二重にして、市販のつけまつげを改造して自然な感じで長いまつ毛を作り、アイラインを太めに引いてアイシャドウもブラウン系で濃いめにまとめているから今の目は元の一重で印象の薄い目とはまるで違う。


「はい。ヘンリーの妹、アイリス・ローエンでございます。化粧を落とすとヘンリーや両親そっくりの目になります」


「まぁ!なんてこと!?お化粧でそのぱっちりした目が作れるというの!?嘘でしょう!?」


夫人は身を乗り出し、私の顔をまじまじと見つめる。


「素性がバレないように、できるだけ元の自分から遠くなるように化粧を施しましたので……」


「そうよね。あなたの持つ不思議な力は、今後も貴族令嬢として生きるなら公にしない方がいいと私も思います。だから素性を隠したのも当然のことよ」


夫人はそう言ってお茶を飲む。


「でもね、もし素性を隠したいのなら、目を隠しちゃダメ。どうしても顔を全て晒したくないのなら目を出して鼻や口元を隠すべきよ。レイラさんの目を見て、ローエン家との繋がりに気づく人はいない。

私だって先に目を見ていたら絶対に気づかなかったわ」


そうかー。そうだったかー。隠す場所間違ってたか。


「それにしてもすごいわね……伯爵家にはそんなすごいお化粧ができる人がいるのね。どこで見つけてきたの?」


「あ、これは私が自分でやりました」


またカッと公爵夫人の目が見開く。


「そんな……ヘンリーさんの妹ということはまだ十代よね?いったいおいくつなの?」


「16です」


「まぁ…全然見えないし、十代でそんな技を身につけるなんて…どなたかに教えてもらったのかしら」


「いえ、自分で試行錯誤しながら……」


その後、夫人からの質問攻めに合い、いつのまにか公爵家からホテルの一室を与えられて『降霊術師レイラ』として活動を始めることと、夫人が運営する商会の顧問になることが決まっていた。


お金は喉から手が出るほど欲しいけど、公爵家からの一方的な援助なら断っていたと思う。

公爵家に囲い込まれてしまうと、やりたくないことまでやらされる可能性が出てくる。


降霊術は悪用もしやすい。降りてきた人の言葉を偽って伝えることはしたくないし、降りてないのに降りたと偽ることもしたくない。


でも商会の顧問として化粧品へのアドバイスや商会職員に対してメイクの講習を行い、その対価をいただくということであればやぶさかではない。お金は欲しい。

ついでにその仕事のために貴族向けの高級化粧品が貰えるのはとても嬉しい。


顧問という肩書きを考えると、16歳の学生アイリスではなく年齢不詳の美女『レイラ』が存在することが必要で、そのために『レイラ』として活動することが必要。


なんだか夫人に上手く乗せられた気もするけれど、『降霊術師レイラ』がこの瞬間、誕生した。

case0の時点ではアイリスは16歳、case1以降はアイリス17歳となります。

公爵夫人に言われたので、頭からベールをかぶるのではなく、フェイスベール(マスクのように鼻から下を隠すベール)を付けることにしました。

※case1はフェイスベールしてます


case0は本エピソードで完了ですが、次の「幕間」では少し未来の公爵家についても触れたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ