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9:直談判

コンコン、バンッ!

「あぁ、返事もないのに開けてはいけません!」


「僕はだいぶ我慢しました。可及的速やかに許可を取ったら帰りますから」


今日は朝から忙しない。夏休暇に入ってからそろそろ半分が過ぎようとしている。こちらに来てから本に夢中なのか、俺が構わなくても一切文句が出ることもなく、快適に過ごせてもらえているようで何よりだと思っていたのだがそうではなかったらしい。



「セバス、どうした?」


「すみません坊ちゃま、わたくしも何のことだか?確認してまいりますのでお待ちください」


「いや、いい。ここに通せ」


「かしこまりました」


休憩のための隣室からこちらに顔を出したのは案の定クケルトとスピアだった。スピアは申し訳なさそうに縮こまっており、クケルトは物珍しそうにキョロキョロしている


「どうした?何か問題でも起きたか?」


「先輩に直談判しに来ました!書庫と食堂の距離が遠すぎます。昼食は携帯食を許可していただくか、軽食を書庫の側で食べれるようにしてください」


普段、何事にも無関心そうなクケルトの勢いに圧倒されてしまった。いったいどういうことかとスピアに顔を向けると、書庫の使用許可を出してから、ここ10日ほどの行動を話し始めた。



「昼食の移動が面倒だからどうにかしてくれと言う事か?・・・食事ぐらいゆっくり食べたらどうだ?」


「あんな広い場所で一人で摂らないといけないなら、携帯食で軽く済ませるのと大差ありません」


確かに給仕などは側にいるが一人で食べる食事ほど味気ないものは無いのを失念していた。


「それなら、俺もなるだけ昼食には顔を出そう。これならどうだ?」


「・・忙しい先輩のお手を煩わせるなんてそんな――・・・」


あぁ、絶対思っていないな。はぁ、客人を放り出していたこちらにも比はある。今回は俺が折れるか


「わかった。それなら昼食のみ軽食を書庫の側でとる事を許可する。スピア、庭の方に東屋があっただろう、あそこで食事ができるように手配しておいてくれ」


「かしこまりました」


書庫は保管のために、なるだけ日の差さない構造になっている。昼食の時間だけでも外の光を浴びるのは案外いいのかもしれない。俺は毎朝、騎士団の練習に参加しているからそれなりに焼けてきたが、クケルトは病的に白い――透き通るというより、青白いに近いかもしれない。彼の健康のためにも、少しは日光に当たってもらおう。



話は終わったとばかりに業務に戻ろうとしたところ、さらに彼からお願いがあった。


「先輩、ここ最近の資料を見せてもらっても大丈夫ですか?もちろん無理ならいいんですけど」


なぜ?・・・あぁ、そういえば入りきらなくなった過去の資料をあちらに移動させていたなと思い当たったのだが、そんな物まで読んでいるのか


「かまわない。後でセバスに持って行かせる」


「ありがとうございます」


そう言って彼は目的は果たしたという様に足取り軽く帰っていった。――あっ、そういえば明日ニック様が来るということを伝え忘れたな。まぁ、大丈夫だろう





最初にその違和感に気づいたのは書庫の許可をもらって3日目のことだった。僕の本を選ぶ基準はランダムで、目について面白そうな物から読んでいく。今回は入って手前の方にあった輸入、輸出の記録簿だった。家系業務で使うものだから読んだらまずいものかと思いスピアに聞いてみたが、ここの物は大丈夫とお墨付きをもらったので遠慮なく見始めた。


そこに置いてあったのは10年ほど前からの資料だった。海の向こうから入ってくる様々なものはこの街の発展だけではなく、王都、それを通り越して僕の領地それから辺境まで影響を与えている物もあった。



初めは何気なしに見ていたのだが、ちょうど4,5年前の資料からだろうか?船の積載量と積み荷の量に微量の誤差がある。それも、鉄と魔石に関しての数字・・・些末(さまつ)な事だとほって置けばいいのだが、気になる事がもう一つ。4年前に担当者が入れ替わっている事も気になる。偶然にしては出来過ぎている



知りたい・・・好奇心は猫をも殺す――わかっているのだが、この欲にあらがう術を僕は持ち得ていない。先輩に昼食が面倒だという交渉材料をぶら下げ、あたかも資料の方はついでの様に話を持って行った。何の疑いもなく資料は僕の手元に来てくれたし、その資料をセバスに持ってきてもらうことにも成功した。



今、必要な個所にのみ目を通して、セバスに質問した。


「資料ありがとうございました」

「いえ、お役に立てて何よりでございます」

「ちょっとお伺いしたいのですが」

「何なりと」

「このトレイフィヨンカンパニー、付き合いは長いのですか?」

「えぇ、もちろんでございます。先々代の頃に出来た初めは小さな会社でしたが、今では大成功をおさめ我が領を支えるひと柱になりました。この会社がどうかなさいましたか?」

「いえ、今は誰が継いでいるのでしょうか?」

「・・・引き継いでいるのは長男のトレイらしいのですが、実質、運営しているのは弟のフィヨンのようです」

「なぜですか?」

「長男が5年前甲板の事故により業務が遂行できない状況だとか」

「そうなんだ・・・ありがとうセバスさん」

「どうぞセバスとお呼びください。クケルト様には感謝しております。楽しそうな坊ちゃまを見るのは久しぶりでございます」


初めちょっと警戒していたような気がするが、僕は大人なので笑顔で流しておく。

部屋にスピアと僕だけになったのをしっかり確認して今度は彼に質問する。


「スピア、ちょっと尋ねたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「ここに勤めている下級メイドの中にウワサ好きの情報通な子っている?」


思い当たる節があるのかスピアは頬がぴくッと動いた。


「いえ、そのような質の低いメイドなど雇うはずがありま――」

「ウソだね」

「―ッぅ、うそでは、」

「思い当たる節があるんでしょう?ちょっと修業が足りないな~顔に出ちゃってるよ」


彼の返事を僕がニヤニヤとしながら待っていると、はぁっと溜息を吐きながら降参した


「下級メイドのミザリー。彼女は通いメイドなのですが下町の情報にも詳しいです。ですが、本当に根も葉もない噂もありますのですべてを鵜吞みにしないでくださいね」


情報を仕入れた僕は、明日の朝からの予定をすべて変更する旨をスピアに伝えルンルン気分で部屋へと戻った。



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