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8:それからしばらく

せっかく用意していた客間を急遽変更して、メイドさんやらが大慌てで僕の部屋を先輩の隣の部屋へと用意していった。だが、もともと手入れは行き届いていたのかベッドメイクやその他もろもろ1時間ほどで終了した。


コンコンコン―

「スカーレット様、クケルト様のお部屋の用意がすみました」


「しばらくゆっくりするからお茶の用意だけして下がっていい」


「・・・かしこまりました」



なんだか、セバスさんなどえらく気を使っている様子が伺えるのだが気のせいか?僕はそんな事を思ったが、考えても仕方ない。今は読んだことのない書物に目を通す方が先だ!先輩の部屋は本であふれていた。それも幻獣、幻想圏に関しての本ばかり好きなだけ読んでいいとお許しも出たので心行くまで堪能しよう。





読んでいた本が消えた!幻獣研究の第一人者レクラス博士の手記を読んでいるところだったのに!そう思って顔を上げると先輩がやれやれと言った顔をして側に立っていた。



「クケルト、夕食の時間だ」


「一食ぐらい抜いても死にません。手記、返してください」


「――・・・もしかして、実家にいた時も抜いたりしていたのか?」


「?携帯食など簡単なもので済ましてました。それにうちは貧乏男爵なので、メイドや執事なんていません。身の回りのことは全部自分でしてました」



そう言うと先輩は一瞬ぴしりと固まった。そもそも、下級貴族など、どこも似たような感じだと思うのだが知らないのだろうか?まぁ、生粋のお坊ちゃまは知るはずないかと納得していると、何かを感じ取ったのか


「今、何を考えていた?」


「なッ、なにも―それより、食事なんでしょう?行きましょう」



話題を変えるため僕は先輩を急き立てるように食堂へ向かった。当主様と奥様、先輩のお父さんとお母さんは領地視察のため不在だった。滞在中には顔を合わせることになるからその時に紹介する、と先輩に言われたが、できれば遠慮したい。自慢ではないが僕の家はマナーの講師を雇う余裕なんてなかった。僕の知識はすべて本から吸収した後、学園で身に着けた、にわかマナーだ。ボロが出ないかひやひやしながらの食事なんて、考えただけで食事がのどを通らなくなる。



「正式な食事会と言う訳ではないから気楽にしてくれてて大丈夫だ。それに、今から気にしていても仕方ない。両親もいつ帰るかまだ連絡がこないからな」



僕の緊張が伝わったのか、先輩の言葉に今は気にしないで目の前のおいしい食事を楽しもうと、舌鼓を打った。


「あッ、これ初めて食べるけど美味しい」


「あぁ、それはこの領でしか獲れない魚だ。取れてからすぐ鮮度が落ちてしまうので王都まで持って行くことが出来ないんだ。」


「これは、生の魚ですか?」


「食べたことが無いのか?」


「寮でも出ませんよね?それに、クケルト領は海から遠いですから、魚自体珍しいです。干物か塩漬けですね」



王都を中心に僕の家と先輩の家は正反対の方向にある。今回は先輩の家の馬車に乗せてもらったから3日の日程で済んだが、民間馬車だと泊まったり、乗り換えたりでやはり片道1週間ほどかかる。


「その代わり、エルラド国のものが入ってきますね」


エルラド国は僕たちの住むこのピリア王国の隣国だ。だが実を言うと仲が悪い。30年ほど停戦状態なのだが、またいつその火蓋が切って落とされるかわからない状態だ。エルラドの王族が欲深らしい・・・。結構広いのだから満足して欲しい。



それから、それぞれの領の特産品など知らなかったことを語り合いながら食事の時間は過ぎていった。夕食の後しばらくしてからお風呂に入ったらもうダメだった。読もうと思って枕元に用意していた本を手に取ることもなく記憶がプッツリ―――・・・





眩しさで目が覚めた。普段書庫など暗い所にいることが多いので光が目に刺さる。強制的に起こされる朝は全然爽やかじゃない――。とおもったが、ベランダから聞こえてくる海の音。



「本に書いてあったけど、実際聞くと全然違うや。それに、キレイだ」


「本から音はしないからな」



心臓が飛び出るかと思った!!独り言に返事があったのもだけど、誰もいないと思っていたのに不意打ちは卑怯だ。僕のおどろき具合に先輩はちょっと申し訳なさそうに笑っていた。ノックはしたんだがと言っているが、返事がないのに開けるのはマナー違反だ。それくらい僕でも知っている



でも、学校にいる時より先輩の表情が柔らかい気がする。ガスタルバーグ家の嫡男で、それだけじゃなく容姿でも注目を集める。期待、プレッシャー、重圧、それが僕よりはたくましいが、それでもまだ17歳の肩に乗っているのかと思うと



「なんで、僕を誘ってくれたんですか?」


「・・・フッ、気まぐれだ」




この日、朝食を取ったのが先輩と顔を合わせた最後だった。あれから2週間―――



「モリアさん、またこのような場所でお眠りになられて!どうしてベッドで寝ていただけないのですか」


僕には当初言っていたようにセバスの息子さんであるスピアが付いた。はじめ敬称を付けて読んでいたらやめるよう言われたので、それならと交換条件で様づけを止めてもらった。なんだか、ぞわぞわするのだ



「おはよう、スピア。ここの本は読み終わったので、他の本を所望します!」


先輩は帰ってきてもやる事が山積みだった。父親である領主様の補佐の仕事があるとかで書類仕事に追われていた。その間に僕は先輩の部屋にある本を読みつくしてしまった。



「えっ、・・・わかりました。今から地下書庫の使用許可を取ってまいりますので、支度をしていてください」



身支度がすんだ頃、スピアが帰ってきた



「モリアさん、スカーレット様から伝言です。3度の食事は必ずとる事、ベッドで睡眠はとる事、夜更かしはしない事、この約束をどれか一つでもたがえた場合、地下書庫の使用は禁止する。とのことです」



本を前にした僕に出来るわけないよね?無茶ブリにもほどがあるよ先輩



読んでる人がいると思うとがんばれる。ありがとうございます

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