7:お宅訪問
無事、終了式が終わり夏休みに突入した。みんなが言っていた通り夏休み1週間前に寮の掲示板に退寮の張り紙が張られた。僕と同じように寮に残るつもりだった下級貴族、平民の1年生は大慌てで泊まらせてくれる友人を探したり、先生に掛け合ったりとしていた。
僕と先輩は、同じ敷地内で馬車に乗り込み出ていくとうわさの的になるのは目に見えているので、僕はまず少量の荷物を抱えて、サリー先輩と街に出て海領行の民間馬車に乗り込み途中で合流することにした。
民間馬車は良く揺れる。それに、人数もぎゅうぎゅうなので小柄な僕はとても大変だ。16なのに10歳ぐらいの子どもに間違えられて、席を譲られるのも解せない。おつかいだと思われてアメをもらった。もったいないので食べるけど・・・
そうして、しばらく人の通らない場所で待っていると二頭仕立ての立派な馬車が目の前で止まった。従者が扉を開ける前に先輩自ら下りてきた。
「すまない、待たせただろうか?」
大丈夫ですと言おうとした時、先輩の後ろから目に鮮やかなオレンジ色が飛び込んできた。
「スカー、そのチビか?一緒に連れて帰るのは。オレの膝に乗るか?」
そういって大口開けて笑っているこいつはいったいダレだ!
僕の怪訝そうな顔を見て先輩がすかさずフォローを入れる。
「こいつはアンダン・ベルティー。うちの騎士団、団長の息子で、俺と同じ2年だ」
「ダンと呼んでくれ!それにしても、スカーが気に入るなんて珍しいと思っていたら、どことなくあいつに似てないか?」
「ダン」
急に鋭い声で名前を呼びさえぎった先輩―――・・・気まずい空気が流れる中、
「先輩、こんな脳筋クマゴリラの膝の上に載って僕は移動しないといけないのですか?それに、移動日数は3日ですよね?罰ゲームですか?」
「おい!スカーこいつひどすぎるだろう!」
そう言って先輩と変わらないほどの背に、厚みはダン先輩の方がありとても筋肉質だ。に、まとわりつかれ、先輩の顔も若干迷惑そうだった。それを少し離れた場所で見ていた僕は視線に気づき目線を見けるとダン先輩からウインクされた。
「仕方ないからオレは馬に乗って行くよ」
「えぇ、妥当でしょうね。早く外すの手伝ってきたらどうですか?」
「なぁなぁ、オレ達、初対面だよな?それにオレ先輩だぞ?」
「僕の家の家訓に〝舐めて掛かってくる輩には目にもの見せてやれ〟とあるので――それに、脳筋は敬うに値しません」
何が面白かったのかダン先輩はそれからも執拗に僕をかまい倒した。すべての準備が整い出発するために馬車に乗り込みやっと解放された。
「すまない。悪い奴ではないんだ」
僕の疲れた様子に先輩が謝ってきた。まぁ、あのタイプの人間は裏表のない分、付き合いが楽なのだが、1~10まで話さないとこちらの気持ちを理解してくれないのが難点だ。そしてなぜ僕はあそこまで気に入られたのだろうか?
それからの旅は、途中ぬかるみにハマってしまった馬車を助けるなどのハプニングはあったが、概ね順調に進んだ。そして3日目昼過ぎ
「おーい、モリア!」
「!!そんなに大きい声を出さなくてもちゃんと聞こえてます!なんですか?」
馬車の中でヒマつぶしのために持ってきていた書物が思いのほか面白くのめり込みそうになっていたちょうどその時、馬車のすぐ横に馬でついていたダン先輩が窓の側にいるにもかかわらずありえない音量で僕を呼ぶから思わず本を取り落としそうになり切れ気味に答える。
「すまん、すまん、でも、ほら見てみろ!ガスタルバーグだ!!」
そう言われて反対側の窓に引いていた日よけのカーテンをめくると、そこからは海と街全体が展望できた。まだ少し遠くて声が聞こえるわけではないが、見ているだけでも活気のある街なんだと伺える。遠目にもわかるほど大きな帆船が何隻も停泊している。
「いい街ですね」
思わずそうつぶやくと、
「・・・あぁ、」
何を考えているのか先輩の返事は少し間が開いた
※
「おかえりなさいませ。坊ちゃま」
「ただいま、セバス。こちらが連絡しておいた後輩のクケルトだ。休みの間滞在するからよろしく頼む」
「モリア・クケルトです。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に、わたくしガスタルバーグ家に仕えております。セバスと申します。クケルト様にはわたくしの倅を付けさせていただきます。ご用命がございましたら何なりとお申し付けください」
「スピアと申します。若輩者ではございますが、よろしくお願いいたします。それではまずお部屋へとご案内させていただきます」
そうして僕が持っている荷物を預かろうと手を伸ばしたスピアに先輩が待ったをかけた。
「部屋はどこに用意したんだ?」
「はい、客間の方に用意させていただきました」
「・・・俺の部屋の隣が空いていただろう。そちらに用意してくれ」
「!!でッですが・・・」
「クケルト、かまわないだろう?」
「僕はどこでも・・・何だったら書庫でもいいですよ!」
書庫は無理だと断られ、その代わり滞在中、部屋への本の持ち込みもOKになった。部屋の用意が整うまで僕はそのまま先輩の部屋へとお邪魔させてもらうこととなった。困惑顔のセバスたちを置いて先輩は僕の手を引きながら勝手知ったる我が家とどんどん進んでいった。